22


ーーー2週間後





「…ふぅ、朝はこれくらいにしようかな」



今日も朝の書き取りの自習が終わり、一息つこうと下に降りる。




『マリー、精が出るの』


「アレン、有難う。ゲイルは?」


『湖に魚を取りに行っておる、その内来るだろうて』


「そっか、じゃあお茶の準備して待っていようかな」



居間にはアレンが定位置を陣取っている。

そんな、いつもの光景に心が和んだ。


アレンは本当に綺麗だ。

あの後もマッサージの練習、と言っては何度か触らせて貰っていて随分仲良くなった気がする。


その内もふもふさせてくれないかな。



この2週間はひたすらに文字と単語の書き取りをした。

ただ単純に、好きな世界の事を知れるのが嬉しくて楽しかった。


美しく流れる字が多く、文字を"書いている"というよりは"描いている"感じなのだ。

受験勉強の時よりも頑張っている気がする。


魔力に関してもゲイルに初心者向けの本を何冊か貸して貰ったりと、理解も深くなってきた。


こちらでの生活も慣れ、

生活における役割分担等も自然と出来てきた。


慌ただしい3日間が終わったせいで同じ屋根の下に住んでいる事が

露骨に分かるようになってしまったのは、切実に目を瞑りたい。


歯ブラシが少し間を開けて置いてある所なんて、見るに堪えない。


胃薬必須。無いけど。


私は居候、私は居候。




『所でマリーよ、そなたは今日から魔力循環を学ぶのであったな』


「はい!やっと魔力の方にも手が出せるかな~と思ったの、とっても楽しみ!」



そう、今日はゲイルに魔力循環及び魔力操作を教えて貰う。

つまり、実践として魔力を使うのだ。

異世界に来た醍醐味である、これの為に頑張っていたという節もある。


楽しみ過ぎて、書き取りのノートが真っ黒になったくらいだ。



『む?この気配は……』






【バーーーーン!!】


「ゲイル、居る!!?」



アレンがボソッと呟き玄関を見るので

そちらを向くと、勢い良く少女が入ってきた。




「「……………」」



「……はっ!びっくりし過ぎて止まっちゃったわ!

あんたが噂の落ち人ね!この泥棒猫!」



状況が掴めず2人して固まり、先に少女が喋ったかと思えば

現実に言う人が居たのか、と言う言葉を投げかけてきた。

12歳くらいだろうか?亜麻色の髪をツインテールにして、美しい青い目をしている。

まるで、お人形さんの様。




それよりも、だ。

何故か、アレンがその少女の頭の上に顔を乗せてニコニコしていた。


何それ、少女羨ましい。

おかげで全くと言っていい程ノーダメージだった。


「…はぁ。猫では有りませんが落ち人のマリーと言います」



私は突拍子も無い事が苦手らしい。

なんだか覚えが有る、気の抜けた返しをしてしまう。



「ふんっ、お邪魔するわ!私はカレン、覚えて貰わなくてもけっこうよ!」


一瞬だがカーテシーをして、自己紹介してくれた。


おう、これはもしや伝説級の珍獣

ツンデレさんでは?

私の事を良く思って無いらしいのに、所々礼儀正しい。

そう思うと、何だか可愛くなってきた。



「カレンさんですね、宜しくお願いします。

ゲイルは今、昼食の調達に行っています。

もう少しでこちらに参りますので、お座りになってお待ち下さいね」


「…言われなくても座るわ…」



彼女はツカツカと中に入り椅子に座った。

ゲイルの為にお茶の準備をしていたので、そのまま彼女に入れる事にした。


そして、アレンは座った彼女を見てまた頭の上に顔を置いている。




『くくくっ、マリーよ変な顔をするでない。気付かれるではないか。』


いや、変な顔もするさ。

どういう状況よ、これ。




『こやつは悪い奴では無いぞ、安心せい。返事は要らぬぞ。』


少女の頭の上のアレンは言う。


お仕事モードなのでにっこり笑うだけで返事をして、お茶を入れて少女の前に置いた。


「まだお熱いので、ゆっくりお召し上がりください」


「有難う…だなんて貴女には言わないんだからね!頂くわっ!」



可愛い。

アレンが何故この子を気に入っているのか分かる気がする。

ツンデレにあまり興味が無かったが、新境地の扉が開きそうだ。



そんな少女には言えない事を考えていると、呼鈴と共にまたも玄関が開いた。


「ゲイル、邪魔するぞー。おい、カレン!先に行くなって!護衛の意味無いだろうが!」



そう言って1人の男性が入ってきた。






「………エディだ」


正真正銘、かの漫画の主人公様が登場した。


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