はなよめにされた◯◯。〜うちのご主人、天っ才過ぎて困る。あと、私にデレデレ過ぎて困る〜

天笠すいとん

第1話 天っ才魔法使い☆

 

 私の名前はクロエ。今年で15歳になる。年齢があやふやなのは私が拾われた時に大体の見た目で判断されたからだ。


「ヒャッハー!やっぱりワターシは天っ才魔法使いですね」


 昼寝をしていた私の邪魔をする者が一人。この屋敷の主であり私のご主人であるロイド様である。

 国で一番の頭脳を持ち、魔法使いたちの集まる研究所で所長を務めているが、私から言わせればただの魔法バカだ。

 今日は仕事が休みのハズなのに自宅の実験室で朝から変な薬品の調合をしていた。おかげで屋敷のあちこちで変なニオイがする。


「クロエ!クロエはいますか!あなたに是非試したい薬が完成しましたよ!」


 おっと、どうやら私をお探しのようだがとんでもない。ここは逃げさせて貰おうか。

 前にご主人の作った新薬を飲ませられたが、一週間口からニワトリの鳴き声が出るのは軽い方で、最悪だったのが全身から異性を誘惑するフェロモンを出す薬だった。あれのせいで一日中子供から老人までのオス達から求愛されてしまった。

 ご主人の実験体になるとロクなことにならないのは経験済みさ。


 バレないように二階の窓から脱出を図る。ちょっと高いけど、運動神経は良い方なんだ。大丈夫だ、問題ない。

 いざ、外へ!


 窓辺から可憐に飛び降りた私だったが、着地予定地を見て驚愕する。


「さぁ、ワターシの胸に飛び込んでくるのです!」


 屋敷の中を探し回っているはずのご主人が待ち構えていたのだから。

 流石の私でも落下中に進路を変えることは出来ずに、そのままご主人の胸の中にダイブしてしまう。


「捕まえましたよクロエ。ワターシが何年あなたと一緒に暮らしていると思っているのですか? クロエの行動パターンや癖は分析済みなのですよ」


 くっ!こういう時だけ天才頭脳を発揮するなんて!もっと普段から世の為人のためになるような発明をしろ!


「こら、暴れないでください。薬が溢れちゃいますから!ジタバタしないで」


 死にものぐるいの抵抗も虚しく、私はご主人に無理矢理薬を飲まされてしまった。

 しかも、この薬は気絶するほど不味く、私は意識を失った。






 ◇◇◇






 目を覚ますと、超至近距離にご主人の顔があった。


「顔が近い!あと薬品臭い!」


 眼鏡をかけた間抜けな面にパンチをお見舞いする。


「ぐはっ……目覚めの一撃とは中々やりますね」

「全く。今回は私に何の薬を試したんですか?ご主人」


 口の中にはまだ苦い薬の味が残ってる。


「今回はズバリです」

「なんです?それ」


 待ってましたとばかりにご主人は説明を始める。長い話は覚え切れないのでざっくりまとめると、私の身体を大きく成長させる薬で効果は一週間程度。ネコ耳と尻尾があるのは許してテヘペロ!とのことだ。


「失敗じゃねーですか!」

「痛い!ワターシの天才頭脳を叩かないで!バカになっちゃいますから」

「知ってますご主人?バカは何をしてもバカにのまんまなんですよ」


 はぁ、一日・二日じゃなくて一週間ときたか。中々に面倒なものを飲ませてくれて。

 利点は背が伸びて今まで届かなかったものが取れたり、手先が器用になったことかな? まぁ、前に似たような薬を試したことがあるし。


「で、ご主人。質問なんですが」

「はいはい。なんですかクロエ?」

「どうして私の服装がメイド服になってるんでしょうか?」

「それは私の趣味「死にさらせぇ!」ゲフッ⁉︎」





 ◇◇◇






「とりあえず、食料の調達をしないといけないですから出かけましょうか」

「えー、私は家に引きこもりたいんですけど。知り合いにこんな姿みられたくないですし」


 隣家のバロンなんか今の私を見て大爆笑するだろう。最悪、街中に言いふらす可能性がある。


「そんなこと言って。最近はずっとゴロゴロしてるじゃないですか。たまには運動しないとおデブちゃんになってしまいますよ」

「ご主人、レディに向かってデブは失礼。次に言ったらサンドバッグの刑に処す」


 拳を握ってシャドーボクシングをする。今の姿なら世界を狙える!唸れ黄金の右!幻の左!


「はい、すいませんでした。今のクロエは可憐なレディでしたね。ワターシの失言です。しかし、残念です。食料調達ついでに夕食はよく行くレストランに食事にと思っていたのに。残念です」

「食事?」

「えぇ、なんでも生きのいい魚を仕入れたらしく。ジャポネの刺身という料理を」

「行きます!クロエはご主人のメイドなのでお買い物に付き合います!」

「よろしい。では、支度をしますので少々お待ちを」


 くっ、物で釣られるとは一生の不覚!だがしかし、今は魚が一年で最も美味しい季節。成長して大きくなったこの身体ならいつもより沢山食べられるに違いない!

 尻尾をブンブン振りながら私はご主人の準備を待つ。

 まだかな〜?ご主人まだかな〜?


 五分もしないうちにご主人が衣装部屋から出てきた。いつもの胡散臭ローブと白衣じゃなく、ちょっとオシャレなスーツを着てる。


「どうしたんです?その格好」

「久々のクロエとのお出掛けですからね。気合いを入れてみたんですよ似合います?」


 ふむふむ。確かにご主人は背も高いしスタイルもいい。身嗜みさえしっかりすればモテるんだろうけど、中身がアレだからね。


「しいて言うならこの眼鏡が邪魔です」

「どうせなら髪型もいじりましょう」

「ヒゲも剃り落としちゃいますね」


 アレやコレをしてさらに数分。


「よし、完成」

「結構、こだわりましたねクロエ」

「私、綺麗好きなので。野暮ったいのは好きじゃないんです。どちらかと言えばピッシリした人の方が好きです」

「なるほど。これからはワターシも整理整頓には気をつけないといけませんね」

「うーん、でもご主人は程々でいいかもしれませんよ」

「どうしてです?」

「ちょっとダラシない方がご主人らしいので」

「ふふふ、これは嬉しいことを言ってくれますね」


 満足気な表情になるご主人。チョロいな


「では、出かけますか」

「はーい!」








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