19.婚約者エルヴィス様のお人柄


「む、娘も大丈夫だと申しておりますし、お疲れになるでしょう、どうぞ、そのままおろして……」

 母もふらふらと弱々しい足取りで近づいてくる。


「大丈夫ですよ。彼女にも申し上げましたが、婚約者のひとり抱えるくらい問題ではない程度には鍛えてあるので。

 それに、私がこうして彼女に甘えているのですよ。失礼なく自然に彼女に触れるいい口実になると。

 物凄く恥ずかしがられて、何度か降ろせ離せと抗議を受けましたがね、全て却下させていただいてます。

 失礼を承知で、正直に言わせていただくと、柔らかくて、温かくて、いい匂いがして、恥ずかしがる様子も可愛くて、とても役得であると、楽しく幸せをかみしめさせていただいてますよ」


 軽いウインクで母の手を除け、父を一歩下がらせ、楽しそうに私の運搬を再開した。



 この人は、こういう冗談なのか本気なのか判らない事を、平気でスラスラ仰られる方なのかしら?


 でも、確かに、高貴な方の手を煩わせているというこの状況を、彼の方から冗談めかして、進んでしている事だから気にするなと言われると、多少なりとも気は軽くなる事だろう。


 案外、気の利く方なのかもしれない。

 ただの「婚約者」を盾にセクハラしてる青年という訳ではないのだろう。

 ……当たり前か。そんな人セクハラ男が、いくら身分の高い人だとはいえ、「黄金の君」などと呼ばれて女性達が色めき立つ筈もない。

 そういう雰囲気もチャームポイントに見せかけて、周りをうまく気遣って来た人なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る