破綻

杉将

破綻

 公衆便所は酷い臭いがしていた。蛇口をひねると、濁った水が出た。

 公園を出て、しばらく歩いた。行くあてなどなく、行きたい場所もなかった。ガムを噛みながら歩く男が、僕のことをじろじろと見ていた。僕は強く睨み返した。それから、相手を本気で殴ることを想像した。しかし、男は目を逸らし、僕たちはすれ違った。汗が乾いて冷えた心地がしたとき、僕は自分が汗をかいていたことを知った。遠くで車のクラクションが鳴っていて、その音が、身体の芯まで響いた。僕はなぜ自分が歩いているのか、わからなくなった。立ち止まりたい衝動を感じたが、周りには立ち止まっている人間などいなかった。僕はまた公園に戻った。公園からそれほど離れていなかったことに、少し驚きながら。公園には誰もいなかった。僕は、どうして自分の体調がこんなにも悪いのかよくわからないまま、便所に行き、吐いた。しかし、胃液しか出ず、僕の行為はまるで演技をしているかのようだった。目から涙が出てきて、全身が震えた。同時に、僕は、自分が落ち着いてしまうことを恐れた。行く場所など、ないのだ。

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破綻 杉将 @mametarou0

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