夢追う人への排他的ドリームフィールド

ちびまるフォイ

人の目に触れて腐るもの

ドリームフィールドと呼ばれるその場所は、

地上から切り離されて大地だけが中に浮いている不思議な場所だった。


その場所に入れば自分の夢が叶えられるというが

そう簡単に足を踏み入れることはできない。


「行ってみたいなぁ……。あそこに入れれば

 俺はきっとバンドでCDデビューできるんだろうなぁ」


「お前、フィールド内に知り合いっているの?」


「いないけど」

「じゃあ無理じゃん」


フィールドへ入るには中にいる人からの招待以外では入れない。

物理的に空から入ろうとした人もいたがすぐにはじきだされた。


その日、ライブハウスからの帰り道だった。

胸を抑えているおじさんが道に倒れている。


「ちょっと大丈夫ですか!?」


慌てて救急車を呼んだが知り合いでもないので一緒に乗ることはせず見送った。

道にはおじさんのものだろうか、1通の封筒が落ちていた。


>ドリームフィールド招待状 No.3382


ネコババは悪いことだとわかっていながらも招待状を手にしてしまった。

ドリームフィールドへとつながる専用ゴンドラに乗ると、俺以外にも招待された人がいた。


「これだけ人がいれば俺が偽物だなんてわかりっこないか……」


ドリームフィールドへ入ると、パッと見は地上と変わりなかった。

青い空には半透明のボードが表示されている。


「みなさんようこそ。私はこのドリームフィールド第一世代です」


「うそ!? 第一世代よ!」

「すげぇ! 始めてみた!」


ドリームフィールド出現時、たまたまその地に居た人は第一世代と呼ばれていた。


「ここではどういうわけか想像したすべてを叶えることができます。こんなふうにね」


案内人は手品のように手のひらにりんごを作ってみせた。


「しかし、ここに暮らす誰もがそんな身勝手に力を使うわけにいかない。

 そこで我々はなにか決める際にはかならず投票で決めるようにしている。

 それがあの空のボードというわけだ」


ボードには招待された人の顔と名前が表示され

「賛成」「反対」「保留」の3択が用意されていた。


ほとんどが賛成多数で足を踏み入れることができた。


「こんな出来レースみたいな投票っているんですか?」


「いるとも。我々は常にお互いを評価し合うことで正常を保っている。

 地上民どものように無秩序で低俗な場所にはならないのだよ」


「はぁ……」


なんにでも投票で決めるというのは本当で、

なにか建造物を生成したり、生活必需品を購入するのにも投票で賛成可決が必要だった。


たいていが賛成になるが空のボードに自分の名前と「これからやること」が表示されるのは

なんだか監視されているみたいでこそばゆかった。


フィールド内での生活にも馴染み始めた頃、はじめての追放投票が行われた。


「この人間は、投票を経由せずに勝手に自分用の人間を生成していた!

 こんな自分の欲求しか優先しない人間をフィールドに置いて良いのか」


投票が行われた。

手元の端末で操作して終了。俺は居残り反対とした。


反対多数で、男はフィールドを追放された。


減ったぶんは招待により補充され、一定の人員が常にフィールドに留まっている。

こうして悪い人は追放され、このユートピアは健全に保たれてゆく。


と、思っていた。


「君はどこかのグループに入るの?」


「グループ?」


「ドリームフィールド内の派閥だよ、知らないのかい?」


他の住民から話を聞いてグループの存在を知った。

フィールド内に長く住んでいる人を中心としたグループができているらしく、

なんにでも投票で決めることからみんなグループに所属したがるという。


「賛成・反対がきわどいときも、グループ票があれば安心だろ?」


「それって投票の意味ないんじゃ……」


そのときは答えをはぐらかしてどこにも属さなかった。

しだいに同時期にフィールドへ招待された定住組はグループへ入るようになり

別グループの人の投票へ悪影響が出るようになった。


>No.3384が箱ティッシュを生成するが賛成か反対か


反対多数により却下。

俺は何も考えずに賛成にいれていた。

まるで自分だけ仲間はずれというか感覚がズレているような気持ちになる。


「くそ! ○○派のやつらの嫌がらせか!」

「ふざけやがって! なんなんだ!」


派閥が減るとそれだけ投票する人間が自分のグループに流れる可能性が増える。

グループ間での反対投票の応酬は日増しに増えていった。


そして、すべての派閥が淘汰されて1つになるまで時間がかかった。


投票しても他グループに反対されるのでいつしか投票を経由せず

好き勝手に夢を叶えるサイレント化が進んでしまった。


「ドリームフィールドへようこそ。

 ここでは自分の願ったことが何でも叶う素敵な場所。

 ただし、能力の行使やなにか生成する場合には事前に投票が必要です!」


案内人となった俺は新しい招待人に対して説明した。

すでに定住者たちはサイレントで使っているのに……。


予備知識のない新規招待人たちは投票を経由せず生成されている道や、

勝手に増やされている人間を見つけて断罪投票を行った。


反対多数で却下。


のち、報復投票が行われ賛成多数で追放となった。


正論を振りかざす人間がいると自分の悪事を直視しなくちゃいけなくなる。

多くの古参定住者はテリトリーを荒らす新規に容赦しなかった。


>今後、新規招待人をいれることに賛成か反対か


新規招待人が入っても入っても、すぐに追放される日々が続いた頃

ついに誰も新しい人間を入れないかどうかの投票が賛成多数となった。


「これからどうなるんですかね……」


「大丈夫だろ。どのみち新しい人が入ったってすぐに追放されるんだし

 それなら招待しないほうが、いちいち追放投票せずに済むから楽なものさ」


追放投票の罪悪感から逃れられると思った。

けれど追放投票が収まることはなかった。


>No.0092 は他の人間に対して嫌がらせを続いている

 このままこの地に定住させることへ賛成か反対か


「だ、第1世代じゃん……!」


新しい招待人が来なくなると追放投票の矛先は既存へとうつった。

お互いの嫌な部分を見つけては貯め、見つけては貯め、そして追放される。


それは長く定住している第1世代も例外ではなかった。

自分の庭だと安心していると他のメンバーから追い出される。


とにかく敵を作らないこと。

とにかく常に見られている意識を持つこと。

とにかく人から嫌われることをしないこと。


とにかく……。


とにかく……。


とにかく……。



>No.3382 の自主追放に賛成か反対か


賛成多数。

俺は自主的にドリームフィールドを去った。


地上に戻ると、俺は一心不乱にバンドに打ち込んだ。

小さなレーベルだがCDを出すこともできて夢を叶えることもできた。

バンドメンバーには今でもよく聞かれる。


「なんでわざわざドリームフィールドを出たんだよ、もったいない。

 あそこにいれば最高の楽器だって、最高の環境だって用意できるし

 メンバー加入を条件に招待すれば最高のバンドだって組めただろうに」


「あんな風に監視され続けたら、自分の夢を追いかけるなんてとてもできないよ……」

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