第十章二節 再会

「さて、次はリラの様子を見るか」


 医務室へと向かうシュランメルト。

 リラは奪還時点では無事だったものの、衰弱の可能性を考慮して丸一日安静にしていたのである。


「昨日は面会謝絶だったが、様子を見る限り今日は……やはりな。会えそうだ」


 面会謝絶を伝える為のメイドがいなくなっているのを見て、シュランメルトは部屋の前に立つ。


「リラ、いるか?」

「その声は、シュランメルトですね。どうぞ」


 許可を得て、部屋の中へと入る。

 そこには、ベッドの上で座っていたリラがいた。


「無事だったようだな。何よりだ」

「危害を受けた訳ではありませんから。ところで、タケル様達は帰れそうでしょうか?」

「ああ。ヘルムフリートを倒した今、Asrielアスリールはいつでも元の世界に帰せるそうだ。もっとも、先にベルグレイアを観光してからだがな」

「分かりました。大きな事件は終わったのですね」

「その通りだ。後はグライス家に関わる者の残党狩りをするくらいだが……それは軍に任せるさ。ひとまず、貴女が元気そうで何よりだ。失礼しよう」

「待ってください」

「何だ?」

「ありがとうございました、シュランメルト」

「気にするな。弟子が師匠を助けるのは当然の事だ。ではな」


 シュランメルトが去ろうとする。

 と、シュランメルトがノブに触れていないのに扉が開いた。


「何だ?」

「師匠……!」

「ししょー!」


 フィーレとグスタフだ。

 シュランメルトの脇を猛ダッシュで通り抜け、リラの元へ向かう。グスタフに至っては、リラに抱きついた。


「師匠、ご無事で何よりですわ……!」

「うわーん、ししょー! 会いたかったよー!」


 そんな様子を眺めた、シュランメルトはそっと部屋を後にした。


(水を差す気にはならんな。無事を確認できた以上、もう用は無い)

「シュランメルトさん!」


 直後、タケル達がやって来る。


「タケル達か。リラならこの部屋にいる。話がしたければ入るといい」

「シュランメルトさんはいいんですか?」

「ああ。もう用事は済ませたからな」


 シュランメルトはその場を離れようとし、しかし何かを思い出して立ち止まった。


「そうだ。お前達に一つだけ言う事がある」

「何でしょうか?」

「ベルグレイアを案内出来るのは、もう少し先になりそうだ。悪いが、それまでは待っていてくれ」

「分かりました」

「それだけだ。では」


 伝えたい事を伝え終えたシュランメルトは、今度こそその場を後にしたのであった。


     *


「リラさん!」


 タケル達もまた、部屋に入った。


「もう大丈夫なんですか?」

「ええ。助けてもらってから、保護されていました。昨日一日は安静にしていましたが、もう動いても良いと言われたので、そろそろここから出ようか迷っていたんです。そうしたら、シュランメルトが来たので話をしました」


 リラはパジャマから着替え、いつもの服に戻っていた。


「フィーレ姫とグスタフ、そしてタケル様、リリア様、リンカ様。もちろん、シュランメルトもですが……私の身を案じてくれる方が、こんなにもいたとは。つくづく、他人には恵まれるものです。さて……シュランメルトは去りましたが、いえ既に伝えましたが、貴方達にもそうせねばならない事があります」


 居ずまいを正し、一礼するリラ。


「心配をさせましたね。この通り、無事に戻ってきました。皆様、ありがとうございます」

「とんでもないです。こちらこそ、ありがとうございます。僕達を助けていただいた事とか、いろいろ……」




 タケル達は、しばしリラと語らっていた。

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