第九章十三節 相談

 Asrielアスリールの改造結果を確かめた後、シュランメルトはタケル達と別れ、神殿に向かっていた。


「明日に備えて、決心をしておきたい。神殿で話そう」

『分かりました。大切な息子の頼みです、喜んで受けましょう』


 シュランメルトはグロスレーベに頼み、ベルリール城から神殿に続く道を空けてもらう。

 そのまま地下へと、入っていった。


     *


「おや、御子みこ様」

「ガレスベルか。悪いが、Asrielアスリール……母さんと、二人きりで話したい事がある。誰も近づけないでくれ。誰もな」

「かしこまりました」


 人払いを請け負ったガレスベルは、やや離れた場所で立つ。

 それを確かめたシュランメルトは、Asrielアスリール本体に向けて話しかけた。


「早速で悪いが、話したい事がある」

『何でしょうか?』

「二日前、パトリツィアと話して吹っ切れた……そう思っていたが、おれにはまだ不安が残っているようだ」

『あの異世界から来た三人ですね』

「母さん……頼む。半分とはいえ神であるおれが祈るのも変な話かもしれないが、あの三人を無事に送り返してくれ。必要とあれば、おれの命をなげうってでも……」

『シュランメルト。それはなりません』


 Asrielアスリールはきっぱり否定する。


『貴方の命も、あの三人の命も、平等に大切です。シュランメルト、貴方が持つべきなのは「全員、生きて帰る」という気概です』

「それが……欠けている、というのか」

『その通りです。忘れましたか、シュランメルト? 貴方が死ねば、シャインハイルはどう思うか』

「ッ……」


 シュランメルトはタケル達の事にとらわれ過ぎており、最愛の人シャインハイルがどう思うかを失念していた。

 しかし、たった今のAsrielアスリールからの一言で思い出したシュランメルトは、いつの間にか凛々しい表情をしていたのである。


『良い機会です。もう一度、シャインハイルと一緒にいる事を提案しましょう』

「ああ。時間を見つけて、やってみるさ……ありがとう、Asrielアスリール

『息子の悩みを聞くのは、母親として当然の事です』

「そうだ、母さん」

『何でしょうか?』

「最後に一つだけ、頼みがある。ノートレイアに伝えてくれ。『くれぐれも頼んだぞ』とな」




 シュランメルトは輝きを取り戻した表情をしながら、神殿を後にした……。

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