第八章十三節 虜囚

「動くな、女!」


 しかし、団員達の反応は厳しいものであった。


「ひっ……!」

「そうだ、そのまま動くな。壁を向いて両手を頭に付けろ!」

「は、はいっ……!」


 団員達は威圧的に、女性に命令する。


「まずは左手だ。逆らったり妙な動きをしたりするなよ、反抗の意思有りと見て始末する」


 女性は恐怖に震えながらも、団員の動きに従う。

 と、左手首に何かが掛けられた。


「次は右手だ」


 右手も、女性の背中側に回される。

 と、同様に右手首にも、何かが掛けられた。


 女性は両手首を背中に回され、手錠を掛けられていたのだ。

 用は済んだとばかりに、団員達の大半が離れていく。


「これで良し。ヘルマン、ヨシュア。この女の両脇に立って、見張っていろ」

「了解」

「さて、女。道案内を頼むぞ」

「は、はい!」


 少々強引な手段ではあったものの、女性を“保護”した紫焔騎士団は、地下構造の足掛かりを得たのであった。


     *


 その後、紫焔騎士団は女性の案内によって、地下牢へと足を踏み入れる、


「お前はここに囚われていたのか?」

「はい……」


 女性が心底から嫌そうに答える。

 震えも伴っており、それは言葉より遥かに雄弁に事実を物語っていた。


「見たところ、お前だけ逃げてきたようだが……?」

「一斉にどこかへ移動するどさくさに紛れて、何とか……。他にも何人か、逃げたはずです」

「そうか。ともあれ、生き残りがいるのであれば助けねばなるまい。証人となり得るからな。しかし、どうにも人間の気配がしないな……む」


 物入れが微かに震えているのを、紫焔騎士団員は見逃さなかった。


「俺達で行く。後はここで待っていろ」


 二人の団員が、物入れの調査に向かう。

 程なくして、一人の男を伴って――ご丁寧に手錠を後ろ手に掛けた上で――戻ってきたのであった。


     *


「この先から人が出入りしてたのを見ました――」

「なるほどな。ヘルムフリートの手の者が、何やら企んでいた……か。諸君、覚悟を決めて証拠を押さえるぞ」


 隊長格の団員が、指示を飛ばす。

 一瞬遅れて団員が扉を開け放つと――奥には、ほとんど何も残っていなかった。


「既に引き払った後か……。むっ、逃げおおせたのがいるか」


 団員達が剣を構える。

 隊長が、前に立って告げた。


「捕虜になった者達のようだな。一時的に拘束させてもらうが、救助しよう。ただし妙な真似はするな。全員、頭上に手を置いて伏せ……」


 その時。

 壁面が轟音を立てて吹き飛んだ。


「何だ……!?」


 そこから現れた魔導騎士ベルムバンツェHarfareysハルファレイス。数は4台だ。


「馬鹿な、ここは地下では……!? くっ、全員撤収! 生存者の拘束は後で構わん、とにかく連れ帰れ!」




 紫焔騎士団員と生存者は、全速力で屋敷から撤収した……。

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