第八章十四節 逃走

 紫焔騎士団が邸内を捜索している間、Dragnaughtドラグノートは動きをピタリと止めていた。

 不可視な上にやたらめったら動き回り、しかし一撃の威力は致命傷にならないAsrifelアズリフェル・_Violettiaヴィオレティアを相手に、無駄に消耗するのを避ける戦法である。


「姿の見えぬ敵だ。しかし、どこに行ったか分からぬのならば、あぶり出せば良いだろう」

「賛成です。閣下、光弾を」

「いや、炎弾を使う。魔術を通してくれ、フローラ」

「よろしいのですか……?」


 今は引き払った後とはいえ、かつては住んでいた地だ。

 そこを焼くのは、フローラには躊躇いがあり――しかしヘルムフリートは、断固として言い切った。


「構わない。もうここは使わないからな」

「……かしこまりました」


 返答を聞いたフローラは、魔術を現出装置へ向けて通し始める。

 緑色のAdimesアディメス結晶から、徐々に炎が灯りだす。


「――燃やせ。姿を暴く為に」


 そして号令一下、何十もの炎が次々と放たれる。

 Dragnaughtドラグノートを中心に、炎が瞬く間に広がっていく。草木を燃やす炎は煙を生じさせ、Asrifelアズリフェル・_Violettiaヴィオレティアの姿を浮かばせた。


「あいつら、何をしてんだい……? ッ、まさか……!」


 ノートレイアが意図を察するのは、自身目掛けて刃が振るわれた時であった。


「冗談じゃないね……。ともあれ、もう隠れてる意味も無さそうだ」


 舌打ちしつつも、いまだ余裕を持って透明化の解除を決断したノートレイア。

 と、轟音が鳴り響く。


「何だい!?」

「隙あり!」


 強力なDragnaughtドラグノートを前に、ノートレイアが見せてしまった隙は一瞬でも致命的だ。

 あっという間に背面を突かれ、ブースターを立て続けに攻撃される。


「このっ、よくも……!」


 背中の1基だけは守ったものの、腰部とふくらはぎの4基は的確に破壊されている。

 それを見たDragnaughtドラグノートは、もう用はないとばかりに飛翔して逃走した。


「くっ、推力が足らない……! このあたしがしくじるとはね、チクショウ……!」




 ノートレイアは盛大に毒づいて心を入れ替えると、異音の発生源を探しに向かった。

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