第八章八節 捜査

「準備は万端だ。全隊、進軍せよ」


 ゲルト3等将官の合図で、96台の魔導騎士ベルムバンツェが隊伍を組んだまま前進を始める。

 それに続いて、ノートレイアも号令を出した。


「全機、ゲルト3等将官の隊に続くんだ。あたしらの本分、キッチリ果たすよ」


 12台のBispeerldビースペールト、そして不可視のAsrifelアズリフェル・_Violettiaヴィオレティアが、ややばらけた隊列で本隊――ゲルト3等将官の率いる2個大隊――の後を追う。

 強制捜査というには大きすぎる部隊は、道中いかなる妨害も受けず、グライス家の手前まで進軍を終えた。


 ……とはいえ、強制捜査部隊の大多数――特に一般兵――は、操縦席内部では気を緩めていた。

 無理もない話である。2個大隊(96台)という数を動員したのは、目的としてはほとんどが“示威じい行為”だからだ。

 強制捜査において想定される事は、捜査対象の反撃である。それを鎮圧する事も任務の一環とはいえ、今回はあまりに投入する数が多い。多くて当然だ、「圧倒的な物量で、反撃する気力を奪う」のだから。

 ゲルト3等将官からそのように伝えられた大多数の兵士は、「この数に反撃する馬鹿などいるまい」と考え、呑気に構えているのである。


 展開を終えた強制捜査部隊は、わずかに左右に分かれた。

 捜査を担当するのは、13機いる紫焔騎士団の役割である。彼らが進む道を作ったのだ。


 と、真っ先にこの道を進む者がいた。ゲルト3等将官だ。

 彼は将官用の乗機“Berfieldベルフィールド”の拡声機を起動し、警告を発する。


『こちらはゲルト3等将官である! 国王陛下の命により、貴殿らの屋敷を強制捜査する! 抵抗をやめて協力せよ!』


 返事は無い。だが、この程度は想定済みだ。

 Berfieldベルフィールドと入れ替わるように道をまっすぐ進み、門の前で停止した戦闘のBispeerldビースペールトが、突入の準備を整える。


 と、屋敷に併設されている格納庫の壁が吹き飛んだ。


「突入部隊全機、止まれ! クソッ、やはり潜んでいたか……! 各機、射撃戦準備!」


 ゲルト3等将官とは別の大隊長が、紫焔騎士団を制止する。

 同時に、主力量産機Beschärldベシェールトが前に出ると、剣と盾を構えながら機体正面を晒した。現出装置が光を纏い、光弾を放つ準備を整える。


 ――と、突如として紫電が走った。

 音をほとんど伴わなかったがゆえに――いや、紫電から遅れて音が響いたゆえに、誰もが気づかなかった。紫電に刺し貫かれ全身を文字通り霧散させた者はもちろん、紫電の外にいた大多数の者も。


 それゆえ、気づいた時には、2台のBeschärldベシェールトの胸部に風穴が開いていた。

 遅れて、格納庫から声が響く。


『まだ改良の余地があるな』

『ですが、制式量産機を一撃で仕留める威力。そして閣下の正確な狙い。お見事です』


 声は、二つあった。

 格納庫に空いた大穴から、魔導騎士ベルムバンツェが姿を現す。


『ありがとう、フローラ。さて、彼らにはこの試作機の初陣に付き合ってもらおうかな』




 そこには。

 赤と銀で彩られた異形の機体――Dragnaughtドラグノート――が、四本の腕を広げながら立っていた。

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