第四章二節 共有

 ベルリール城の“玉座の間”に来たシュランメルト達は、グロスレーベを呼びつける。


「いたか。久方ぶりだな、グロスレーベ」

御子みこ様! お帰りに、なられていたのですか……!」


 ベルグリーズ王国現国王、グロスレーベ・メーア・ベルグリーズはシュランメルトを見るや否や素早く玉座から立ち上がり、うやうやしく頭を下げる。


「ああ。少し、お前に連絡したい事があってな」

「連絡、でございますか……?]


 グロスレーベの返答に続いて、シュランメルトがわずかに頷く。


「そうだ。今は内密にしたいので、奥の部屋を頼む。シャインハイル、パトリツィアも来てくれ」

「はい、ゲルハルト」


 かくして、四人は玉座の間の奥にある小部屋へと向かった。


     *


「単刀直入に言おう。異世界から人が来た。三人で、一人は男、あと二人は女だ」


 グロスレーベを驚かせるには、たった三言で十分であった。


「異世界から、人が……」

「今日は連れて来られなかったが、今はリラ工房で保護している」

「いずれ、お会いしたいものです」

「お父様のおっしゃる通りですわ」


 グロスレーベとシャインハイルの言葉に、シュランメルトは静かに首肯する。


「無論、おれから説得して会わせたいと思っている。だが、少々懸念すべき事も起きてな」

「何でしょうか、御子みこ様?」

「シャインハイルには既に伝えたのだが、グライス家がリラ工房の敷地で何かを企んでいた。タケル……異世界から来た者達を、連れて行こうとしていたようでな。話して止めようとしたが、向こうが先に襲い掛かってきたのでやむを得ず戦った。その残骸があるが、紋章を見てもらえればすぐに分かるだろう」

「王室親衛隊や、城にいる兵に運ばせたはずですわ。場所を確かめて向かいましょう」


 シャインハイルの提案に従い、一同は残骸の保管場所へと向かった。


     *


「こちらでございます」


 王室親衛隊の一人に案内された四人は、格納庫にいた。

 三つある残骸には、明確にグライス家の紋章が刻まれている。


「……まさしく、グライス家の家紋にございます。しかし、彼らは何故……」

「その真意を掴むために、既にノートレイアに行ってもらった。後は彼女の報告を待とう」

御子みこ様は、何をなさるのですか?」

「一晩だけ滞在させてもらおう。明日にはリラ工房に戻る」

「かしこまりました。シャインハイル、御子みこ様のお世話を頼むぞ」

「はい、お父様」


 かくして、四人は格納庫から出た。

 歩いている途中で、シュランメルトが問いかける。


「シャインハイル」

「はい、ゲルハルト」

「書庫に案内してくれ。グライス家にまつわる書籍を、何冊か読みたい」

「かしこまりました」

「ああ、そうだ」

「何でしょうか、ゲルハルト?」


 シュランメルトはシャインハイルの耳元で、笑みを浮かべながら囁いた。


「今夜は、おれと貴女の部屋、どちらで会う?」

「貴方の部屋へ参ります」

「承知した」




 それだけ聞くと、シャインハイルに案内されて書庫へと向かったのであった。

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