第二章七節 夢中

 その夜。

 シュランメルトはすぐに眠りに落ち、夢の中へと没入していた。


「いつもの場所か……むっ、やはりな」


 一人の人物を、シュランメルトの瞳が捉える。


「シャインハイル。貴女も来ていたのだな」

「ええ。待ちわびておりました」


 金髪碧眼、かつ豊かな胸を持つ女性が、待っていた。

 彼女の名前はシャインハイル・ラント・ベルグリーズ。フィーレの姉であり、ベルグリーズ王国の第一王女である。


 そして彼女は、何故かシュランメルトと夢の中で会う事が出来ていた。


「今日も、ここで逢えましたわね。ゲルハルト」

「ああ」


 シュランメルト――またの名をゲルハルト――は、シャインハイルを抱擁する。


「貴女に話しておきたい事がある」

「何でしょうか?」


 二人は抱擁したまま、話を始めた。


「明日、貴女へ紋章を見せにベルリール城へ向かう。貴女かグロスレーベに見てもらいたいものだ」

「何かあったのですか?」

「異世界から人が来た」


 シュランメルトの言葉を聞いて、シャインハイルの体がわずかにこわばる。


「なるほど……。ただ事ではなさそうですわね」

「そしておれ達は、もしかしたら異世界の客人達をこのベルグリーズ王国に連れてきた何者かに至る手がかりがあるかもしれない」

「だから紋章を見てもらおうとなさっているのですね」

「その通りだ。頼むぞ」


 シャインハイルが微笑んで、返す。


「かしこまりました。貴方の頼みでしたら、ゲルハルト」

「ああ。それにしても、母さん……Asrielアスリールも、粋な事をしてくれたな」

「何がでしょうか?」

「ふふっ。シャインハイル、貴女が七年ぶりにおれを呼んだ事の顛末てんまつは既に聞いたがな。その時に、Asrielアスリールは貴女とおれを、夢の中で会えるようにしてくれたそうだ」

「まあ、なんて素敵な……」

「両家の両親公認の恋愛、というものだな」


 シュランメルトもまた、笑みを返す。


「では、朝までこうしているとしようか」

「素敵ですわね、ゲルハルト」




 二人は夢から覚めるまで、抱擁を解かなかったのである。

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