第三章 鍛錬

第三章一節 明方

 翌朝。

 十分な睡眠を取ったタケル達がリビングに行くと、そこには既に朝食を取っているシュランメルトとパトリツィアの姿があった。


「むっ、タケル達か。おはよう。先に頂いているぞ」

「おはよー」


 それを見て、タケル達も同様に挨拶を返す。


「「おはようございます」」


 シュランメルトは挨拶を聞き届けると、再び食事に戻る。

 と、そこに足音が響いた。


「皆様、起きていましたか。おはようございます」

「「おはようございます」」


 挨拶を終えるや否や、タケルが質問を投げかける。


「リラさん……二人はどうして、こんな早くに食事を?」


 まだフィーレとグスタフが起きてもいない時間だ。

 タケル達はたまたま早く起きたものの、昨日の様子からして、全員で食卓を囲っていないのは少々様子が違うと感じたのである。


「二人は少し、首都ベルグレイアに向かうようです。あなた方がここに来た手がかりを得るために」

「それは……僕達は同行出来ませんか?」

「悪いな、いずれ連れて行く事にはなるさ。だが今日は、おれ達だけで行かせてもらう」

「またキミ達を襲う連中が来るかもしれないからね。ボク達が守れない事もないけど、リラ工房ここがより安全だろうし」


 それを聞いたリラが、頷きながら補足する。


「はい。それに、あなた方には、自ら戦っていける力を付けていただきます。敢えて言うのであれば……“弟子の努め”でしょうか。とはいえ、厳し過ぎる事はしません。ご安心を」


 リラの表情は、どこか嬉しそうなものがあった。


     *


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまー」


 食事を済ませたシュランメルトとパトリツィアが、歯を磨きに向かう。

 リラはそれを確かめ、皿を流しに持って行った。


「早速ですが、皆様には皿洗いを手伝っていただきます。とはいえ、二人分ですので、そこまで分量は多くありませんが」

「えっ?」

「お皿洗い……ですか?」

「ほ、ほら、行こうよ二人とも!」


 戸惑うタケル達であったが、いち早く我に返ったリンカに連れられ、リラの近くへ向かう。


「え、えーと……よろしくお願いします!」

「うふふ、よろしくお願いします。では、一緒に洗いましょうか」


 リラから手順を教わり、皿を洗う一同。

 枚数が少なかったゆえに、わずか数分で終わった。


 と、シュランメルトが帰ってくる。


「ふむ、おれと同じように、お前達も食器洗いを頼まれたか。そういう場合は伝達事項があるものだと、フィーレやリラから教わったぞ」

「伝達事項……ですか?」


 リラ工房の事情をさっぱり知らないタケルが問う。


「既に慣れたものですね、シュランメルト。その通りです。皆様に伝達事項があります」


 タケル達は姿勢を正し、リラの言葉を聞く。


「午前中はリビングで座学、それに外で軽い運動を行います。午後は……ふふっ、今は黙っておきましょう」

「何をするつもりだ、リラ?」

「内緒です。さっ、フィーレ姫とグスタフを起こしに行きましょう」


 シュランメルトの問いにいたずらっぽく微笑んで曖昧にしたリラは、リリアを指名して連れて行った。


「何を考えているのか、リラ。ともあれ、お前達も頑張れ。そんなに激しい運動ではないだろうからな」

「はい!」


 シュランメルトは「では、行ってくる」と言い残すと、パトリツィアと共に外に出た。

 程なくしてAsrionアズリオンが現れ、ベルリール城へ向かって飛び立っていった。


「戻りました、皆様」

「おはようございます」

「おはようございます!」


 リラがフィーレとグスタフを連れて戻る。


「あら、シュランメルトは行ったのですね」

「はい。たった今」

「でしたら、私達も朝食にしましょうか」


 かくして、リラやタケル達はようやく朝食を取り始めたのであった。

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