依頼11『異常な光景』

勇者一行は剣を作ってもらえない為、次に受付のアメナガスが来る日を確認しに行った。


すると




「え? 何? まだいたの?」




と大量の荷物を持ってロメイトが外に出ようとしていた。


それを見て弟子の男が




「ロッロメイトさん!! いったい何をしに行くんですか! 忙しいって言ってたのにどこへ行くつもりですか!!」




と怒った。


ロメイトは明らかに不機嫌そうに




「てめえらが邪魔して台無しになった素材をまた集めに行くんだよ……てか弟子の癖に生意気だね? ねえ? 何様? お前一人じゃ何にもできねえくせによおお!」




と明らかに喧嘩腰で言い放った。


それを聞いて舞は




「いい加減にしないか……あなたが技術を教えないからこの人は独学で勉強をしているんだ、それに本来であればあなたは弟子を育てる義務があるのでは?」




と少し尖った口調で言った。


それを聞いてロメイトは




「? 見れば分かるのに? いったい私が何を教える必要があるの? 全く、忙しいから行くね」




と呆れたように言って外へと出て行った。




「糞」




と男は強く手を握る。


それを見て舞は




「あの人は本当に天才で優秀なんだろう、だからいったい何が分からないのかがそれ自体が分からないんだろう……だから君は君自身で彼女を越えるように精進すればいいさ、きっと努力はあの天才を超える時があると信じて」




と言って舞は男を励ました。


それを聞いて男は




「うるさい!! 簡単に言うな!! 俺だってな!! 頑張ってるんだよ!! それなのに!! あの女は下手だと言って鼻で笑うし他の客に見せてもロメイトさんの武器が良いとか言って全く興味すら持とうとしないんだ!! こんなのどうすればいいんだ!! なあ! どうすればいいんだよ!!」




と言って怒りながら舞の胸ぐらを掴んだ。


それを見てランチェルは




「落ち着け……お前の気持ちは俺にも分かる」


「どこがだよ!! 勇者様と一緒に出て才能も認められて誇りある人生を送ってるじゃねえか!! それに比べれば俺なんて糞みたいな人生だ!! 何の意味もねえよ!!」




と言って喚いた。


するとランチェルは悲しそうに




「俺だって変わんねえよ、俺だって親父の強さと才能に比べればこんなの何でもねえ……」




と言った。


それを聞いて男は




「お前の親父さんだと、でも格闘技の技術を教えてくれるんだろ? 親父は俺が7歳の時にロメイトの作品に負けて絶望して自殺したよ!! 何もかも誇りを奪われてな!!」




と言って泣き出した。


すると、ランチェルは




「そうか……それはつらいな……だがな、俺だって親父から完璧に技を教わってねえよ……」




と言った。


それを聞いた男は




「は! 何でだよ!」




と聞くと




「格闘の戦いで暗殺者に殺されたからだ、卑怯にも相手選手が自分が優勝したいからという欲望のために雇われた暗殺者に……俺がお前と同じ7歳の頃にな……酷いもんだった、殴打を受け続けて血まみれで挙句に首を折られて殺されていた……あの親父が血まみれだなんていまだに信じられない……」




と悔しそうな表情を浮かべて語っていた。




「俺の親父は本当に凄かった……皆が親父の戦いに惚れていた、俺だってそうだった、俺も親父のようになりたいと思っていた……だがその夢を叶えることは永遠出来なくなった……だが俺は諦めない、例え親父のようになれなくても俺は俺で強くなるって!」




と少し涙を浮かべながら男に行った。


それを聞いて




「スッすまない……そんなことがあったなんて……そうだよな……親父や絶望して死んだが俺はまだ生きている……どんなに苦渋を味わっても俺は俺の剣を磨くよ!! ありがとう! ランチェル! 少し勇気が……」




と言葉はそこで止まった。


それを見ていた啓示は不思議に思い男をよく見たがピクリとも動かなかった。




「何だ……これは……おい、ランチェル! こいつおかしく……!」




と言ってランチェルの様子も明らかにおかしかった。


すると




「おい、啓示……これは一体……」




とどうやら舞は特に異常はないようだった。


それを見て啓示が




「おい、これって……」


「ああ、何かがおかしい……周りが……」




と言って他の仲間や従者を見ると誰も動いていなかった。




「何だこれは……いったい何が起きた! 魔王がまさか攻めて来たのか!!」




と舞は外を見ると




「これは!!」




と言って信じられない様子だった。


啓示もそれにつられて窓の外を見ると




「おい……嘘だろ!! 何だよこれは!!」




と言って周りを見ると


外の人間が止まってるだけでなく水を撒くおじさんや馬車の手綱を振り上げている御者やボールを投げている子どもの物ですら全く動いていなかった。




「まさか……これは……時間停止か!!」




と舞は言った。


啓示は




「まさにファンタジーかよ……だがこんなの知らないぞ……シャーレ―の使える魔法だってそんな魔法はなかった……それにシャーレ―から教えられた魔法の中でそんな魔法は乗ってなかった」




と信じられなさそうに言ったが


舞は




「いや、これほどの魔法だ……やっぱりあまり知られていないのか禁忌の魔法なのだろう……そうなれば普通では教わることはない……もしかしたら」


「魔王が……やっぱり来たのか……」




と啓示と舞は身震いを起こした。


すると啓示はあることを思い出した。




「レイミー! レイミーを1人にしている!!」




と言った。


それを聞いて舞もハッとなり




「まずい!! レイミーは確かアイテムの補充だったよな!」




と言って啓示に確認して




「ああ! そうだ!! 急いで探そう!」




と言ったが




「待て! 私はここに残る! 今動けるのはわたしかお前だ! ここで動ける者が仲間を守る方が良いだろう! 本来は町の皆を守るのべきだがあまりに人手が足りない! 自分たちの仲間だけでも守らなければ!」




と言って焦っている様子だった。


啓示は




「そっそうだな……舞の意見も最もだ……今回の場合は仕方ないのかもしれない……」




と辛そうに決意して




「じゃあ行ってくる!! レイミーは必ず大丈夫だと信じて!」




と言ってロメイトの工房から走って出て行った。




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レイミーは皆と別れてアイテムの補充をしていた。




「うーん、いくら私の収納技術でもあまりにたくさんの物を買うことは出来ないなあ……正直魔王退治直前までならこの状態でも大丈夫だったけど……」




と不安そうに言っていた。


レイミー自身も魔王退治が目前に迫ってきて少し緊張していた。


レイミーは




(魔王退治だからね……今までの補充では足りないかもしれないし、予想外のことが起きてもおかしくないからなあ、シャーレ―さんの魔法だって魔法封じされれば使えなくなるからそれに対抗するアイテムも買わないと……)




と魔法の為のアイテムも見ていた。




(それに魔法使いはただでさえ使える人が少ないから今まで旅をすることはなかったけど……シャーレ―さん程の魔法使いは確かに必要……そのために魔法使いとの連携の基本がわかる本とかも買った方が良いかなあ……)




と悩みながら商品を見ていた。


すると店員が




「お嬢ちゃん? 魔王退治に行くんだろ? なら負けるよ?」




と言ってきた。


それを聞いてレイミーは笑顔で




「ありがとうございます、国の人が負担するって言ってくれたのでその話をしてあげたら喜びます!」




と言った。


店員は




「ああ、そうするよ、俺たちも早く平穏な日々を送れるように協力しないとな!」




と笑顔を返すように言った。


レイミーは




「他にも色々見させてもらいますね! 前々から聞いていたんですが、この国の店のアイテムは品質が良いって聞きます! 中でのこの店が一番だって! やっぱり魔王城が近いとアイテムの素材もいいのが入るんですか!」




と聞くと店員は嬉しそうに




「ありがとうね! お嬢ちゃん! そうだね! 確かにこの国は魔王城が近いからか鉱物とかモンスターの素材が高級なのが多いんだよ! それにこの国が破壊されないように優秀な聖騎士たちや冒険者もいるしね! 入ってくる素材が良いと品質も変わるよ! だがその分命の危険もあるがね……2年前も俺の息子が四天王の1人を倒すために戦って戦死したんだ……本当に勇敢な息子だった……そのおかげでここに入る商品の素材も良いものを融通して貰ってるんだよ……少しでも息子の敵を取りたくてな……」




と涙を流しながら言った。


それを見たレイミーは




「……倒します……きっと魔王を我々が倒してこの世界の平和を取り戻して見せます!」




と言った。


店員は




「ありがとう! 期待しているよ!! ゆっくり見てってくれ!


「ハイ!」




と言って商品に目を通していくと




「ゆっくり見て行ってくれ!」




と店員は言った。


レイミーは商品を見て




「これ……魔力と体力の2つを回復させるんですか!」




と店員に聞くと




「ああ! 新種でね! ライザードの実って言うんだ! 普通より体力は半分の回復量になるがその量を魔力として回復させるんだ! 魔力だけあっても体力が無くなったら意味がないからね! もしもの時様に買う人が多いよ!」




と商品内容を教えてくれた。


それを聞いてレイミーは




「凄いねえ、確かに魔王退治の時に役に立ちそうだし……買おうかな!」




と言って手を伸ばす。




ズパン




と音が鳴った。




「へ……」




と声を出してレイミーは一瞬何が起こったのか分からなかった。


商品を取ろうとした。


だが目の前の自分自身の腕が全く見えなくなっていた。




「え……ドっどうして……」




と戸惑い腕を引こうとしていたが違和感があった。


そして自分の手を見ようと目線を横に降ろすと


自分の腕が無かった。




「!! 何で!!」




とさすがに焦り血が溢れ出ており、自分の腕がどこにあるのかが分からない。


だが自分が今置かれている状況が分かった。




「敵がいる!! どこかに!!」




と焦り周りを見渡した。


だがそれらしき者がいなかった。


だが明らかに周りがおかしかった。




「何これ……」




と様子を観察していた。


すると周りの人や試投げをするためのアイテムも空中に浮いて止まっていた。


その状態を見て




「何これ!! 明らかに!!」




スパン!!




と音が鳴りそのまま態勢を崩して転んだ。




「うわあ!」




と地面を反射的に手を付こうとした。


当然片手はないので完璧には防げないとは考えていたレイミーは覚悟を決めていたが




ドサア!




「ウグウウブウウ!!」




と思いっきり顔面を打ち付けた。




「ブフウ……何で……片手はあるのに……」




と涙目になりながら立とうとするが




「な……何で……立てない……」




と思い確かにあったもう片方の手を見ると無くなっていた。




「何でええ……何でなのおおおお……」




と涙を流しながら仰向けになり、そのまま座る態勢になった。


そして、最初に見えたのは自分自身の足だった。




「何でええええええ! 何でええええええ!! 助けてええええええ!!」




と悲鳴を上げながら泣きじゃくった。


すると




「だ! 大丈夫!!」




と言って1人の少女が心配そうに駆け寄ってきた。


それを見てレイミーは安心な表情を浮かべた。


だがすぐ我に返ったように




「逃げて!! 近づいちゃダメ!! 死んじゃう!!」




と言って静止した。


恐怖が思考を支配してどうして少女が動けるのかを聞くことも出来ず


しかし少女は




「そんな状態で何を言ってるの!! 助けなきゃ!!」




と言って近づいてくる。


その為、焦りだしたレイミーは




「ダメえ! 来ちゃダメえ!! あなただけでも逃げてええ!!」




と言いながら無理やり動こうとしてそのまま顔から転ぶ。




「イッ!」




と痛そうにするがすぐさま少女の方に目を向けた。


すると少女は無傷で目の前まで来ていた。


そして、優しく自分の顔を持ち上げて




「酷い……誰が一体こんな……酷い……」




と言って心配そうに見ていた。


レイミーは




「大丈夫だから……お願い……このことを……啓示さんに……勇者様に伝えてください……私は……もうダメだから……」




と言って少女に伝言を頼んだ。




「分かったよ……ちゃんと伝えるよ……だからもうちょっと頑張って……」




と励ます。


レイミーは嬉しそうに




「ありがとう……あなたは優しいんだね……」




とお礼を言った。


すると少女は




「ところであなたの顔を持ってるのって、いったい誰なの?」




と奇妙な質問をしてきた。


それを聞いてレイミーは




「え……そんなの貴方なんじゃ……」




と震えながら聞いた。


すると少女の表情は豹変して




「ざんねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!! あなた自身のお手々でしたああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「え……」




と言った瞬間自分の顔はそのままで体だけが後ろへと倒れ込んだ。


少女を見ると自分の顔を先程斬り取ったであろう自分の手で持っていることを知った。


そして、自分はすでに顔だけになったという事実を知り




「ああ……あああああ……イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」




と悲鳴と共にレイミーは絶望した。

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