大学教授が異世界に行ったら最強だった件
自称機械科の人
第1話「目覚める力」
深夜まで研究に没頭していた私は、気がついたら机に突っ伏して寝てしまっていたようだ。時間を確認すると朝の6時だった。
「いけない、今日は午後から講義があるのに。」
机の上に置いていたコーヒーはすっかり冷めきっていたが、それをグイッと飲み干した後、私は研究室を出ようとドアを開けた。
しかし、ドアの向こうには見たこともない景色が広がっていた。
私は緑の草原、正確に言えば丘の上に立っていた。そんなバカな、ありえない。研究室のドアを開けたら廊下に出るはずだ。それに、そもそも大学の建物が1つも見えない。いや、というよりも周りに建物が1つもない・・・。今の状況は、まるで私の研究室だけポンと草原に放り出されたとしか考えられない。
「いったい・・・何が起きているんですか。」
戸惑った私は、慌てて研究室に戻りドアを閉めた。きっと疲れているんだ私は。だからこのような馬鹿げた幻覚を見ているんだ。深呼吸した私はもう一度そっとドアを開けた。恐る恐る覗き込んでみたが、残念なことに草原が広がっているのみだ。
「いやいや、夢でしょう。」
自分で自分の頬を軽く叩いてみた。叩かれた感触が頬に広がった。つまり、これは夢ではない可能性があるということだ。仕方ないので、私は意を決して外に踏み出すことにした。籠ろうにも、昨夜で研究室備え付けの冷蔵庫の中身は空にしてしまった。そこ中から飲水と食料をかき集めてみたものの、この部屋には2Lペットボトル2本と缶詰が少々、近所のスーパーのMax Priceで買った賞味期限ギリギリで半額のコッペパンしかないようだ。私はそれらをリュックに詰め込めるだけ詰め込んだ。ノートパソコンとタブレット、HDDも一応入れておいた。HDDには重要な研究データが入っている。これはなんとしても守らなければならない。その他にもティッシュやタオル、歯ブラシなどを入れたところ、リュックサックはとんでもない重さになってしまった。
重いリュックサックを背負いながら、私はトボトボと草原を歩きだした。30分ほど歩き続けていると、草原が途切れ、茶色の地面が現れた。さらに30分歩くと、今度は上空から何かがものすごい勢いで近づいてきた。一体何だ!私は身構え、目を凝らした、そして目を疑った。それは、院生たちが昼休憩でよく遊んでいるドラゴンハンターワールドに出てきそうな、赤い鱗を持つドラゴンだった。ドラゴンは私の上でホバリングした後、目の前にドシンと降り立った。小学生の頃図鑑で見たプテラノドンのような翼を持ち、ティラノサウルスのような顔立ちで、大きさは象と同じくらいである。その姿は、まさにファンタジー作品で見られるドラゴンだった。私は夢でも見ているのか?ドラゴンは私をじっと見つめている。しばらく沈黙が流れた。私の脳裏には最悪の事態が浮かび上がってきていた。そしてそれは現実になった。あろうことか、こちらに近づいてきたのだ。
(く、食われる!)
そう思った私は、なにかできないかと考えた。しかし、今の私には武器と呼べるものはない。あるとすればこの拳だけだ。逃げることもできないだろう。なぜならば、あのドラゴンのような生物は飛行可能なのだから。そう、私に選択肢なんてものはないのだ。
「う、うおおおおおっ!」
私は自暴自棄になって、ドラゴンの顔面に向かって勢いよく拳を突き立てた。拳はドラゴンの鼻と思われる部位を確実に捉えた。不思議なことに硬さは感じず、痛くもなかった。ボクシング経験無し、筋トレなんて滅多にしない私の拳は無力なはずだった。しかし、数秒後ドラゴンの硬質な鱗が鼻を中心に次々と粉々に砕け散り、さらにドラゴンの厚い肉がブチュブチュと音を立てながら千切れ、身体中から深紅の血が噴出した。
「ぐゃああああ!!!」
ドラゴンは形容し難い悲鳴を上げ、目を丸くしてこちらを睨みつけた。
「ウゴウゴ、ウゴンゴゴ(今のは魔術の類か?いや、こいつは魔力を有していない。)。グゴグゴ、ンゴゴ。(だとしたら格闘術の一種なのか?)」
ドラゴンは何か喋っていたようだが、私には何を言っているのか理解できなかった。その後、ドラゴンは何かに怯えるようにいそいそと飛び立っていった。一体どうしてドラゴンを傷つけることができたのか、すぐには理解できなかった。私はドラゴンの鮮血にまみれた自分の拳を見下ろした。私の拳は無傷でドラゴンだけが大きな怪我を負っていた。そう、あの硬そうな鱗が粉々に砕け散っていたのだ。
「鱗が砕けた・・・。破断した・・・?拳が当たった瞬間ではなく、数秒後に・・・。はっ・・・!」
その時、私の脳に電撃が走った。
「そうか、わかったぞ。あれは共振現象だったんだ。」
それが、生涯を捧げて振動学の研究をしてきた私なりに導き出した結論だった。もしそうだとすれば、私の放ったパンチは、この世の物質における絶対破壊の一撃ということになる。そう、つまり、あのパンチは「固有振動パンチ」だったのだ!私が自分の為したことに戦慄していると、遠くから声が聞こえてきた。それも1人や2人ではないようだ。土煙が上がっている。人間の発する言葉のように聞こえるが、ドラゴンがいるような世界だ。意思疎通の測れない生命体かもしれない。ああ、私の人生はどうなってしまうのだろうか。私は1人、自分の行末を嘆いた。
大学教授が異世界に行ったら最強だった件 自称機械科の人 @kikaika1736
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