第一話 ヒステリックな彼女
四月一日、入学式の当日の朝。
俺、夜神聖夜はワクワクしながら制服に着替えていた。
五畳ある一部屋、中学の頃から何も変わらない部屋。
本棚、机、ベッド、何処の家庭でもある品揃え。
本棚には小説、漫画、参考書、黒魔術関係の本などある。
昔は色々あった。
「さて、と。行くか」
夜神は制服に着替えを終え部屋を出る。
部屋を出ると下に下りる階段がある。下りると玄関だ。
「おや、早いね。『何かのマイブレか!』って奴」
階段を下り終わると髪がボサボサで年甲斐もなくピンク色のパジャマを着た女性が言った。
俺はこう言う。
「また……夜中まで飲んでいたのか? 母さん」
「うん~ちょっとだけね……ははっ!」
ちょっとだけって……絶対嘘だろう。
母さんは酒好きで、いつも飲んでいるのだ。
「今……何時?」
「朝の七時五十分だ。今日なんの日か分かっている」
俺は母親に聞いた。
「……うえっ! まさか、私と出来ちゃった日! それは流石にまずいよ~せいちゃん」
母親は項垂れながら夜神聖夜に近付く。
「近付くな、酒臭い。俺は行くから」
俺は鞄を手に持ち、靴を履く。
「もう、せいちゃんのいけず……朝ご飯は?」
「作ってある、温めて食べてくれ……じゃ」
そう言い、玄関の扉を開けた。
「はい、行ってらっしゃい」
母親は普通に見送ってくれた。
春日より、人は青春をかける。
俺はワクワクが止まらない、何故なら……
「入学式で新しい生徒が入るからだ」
「何、あれ」
「何か、言ってんぞ」
道行く人が呟いた。
うわっ、皆、白い目で見ている。恥ずかしい。
歩道を歩き、交差点に入る。
歩道橋を見渡すと、不良な人達が女生徒とモメていた。
「なんだ……朝から」
夜神は歩道橋を上る。
すると……
「なんですか! 貴方達!?」
と叫び声がした。
制服姿の女の子が男に食ってかかる。
「言うね、こっちからぶつかっておいて」
「痛い!」
不良の一人が女生徒の腕を掴んだ。
しかも、俺と同じ高校の制服じゃん!
青のブレザーと黒のスカート。
「言いがかりを……」
「はっ?」
女生徒が言葉を溜める。
「つけてんじゃねーっ!」
と叫んだ。
不良達は驚きのあまり腰を抜かしそうになった。
「なーっ、先にぶつかったのはお前らだろうがー! なに、いちゃもんをつけてんだ!」
「うっ、怖ー!」
女の裏の顔を見た気がする。
しかし、入学式だってのにこうも風紀を乱すってのは頂けないな。
夜神は階段を上り切り、絡まれている女生徒の方に向かう。
そして……
「おい、止めろよな、朝っぱらから」
「うん?」
その声に反応し、こっちを見た。
その時、思い出した。
知り合いが居た事に。
「寺山!」
「んっ!? あっ! 先輩!」
なんの因果か、中学時代の悪友と再会した。
「まだ……んな事やってんのか」
背が無駄に高く、しかも髪が茶髪。
チャラチャラした格好。
制服を着ているのが別の学校だろう。
名前は寺山和樹。中学の頃からの悪友。
関係は俺が一番上で、寺山が後輩だ。
中学の頃、グレていた。その時に出会い、付き合いが始まった。
「和樹さんの知り合いですか?」
寺山の友人が言った。
「あぁ……」
「さてと、大丈夫?」
俺は寺山に絡まれていた女生徒に声を掛ける。
「……何、あんたも仲間? うざっ!」
「違ーよ! 何言っちゃってるんですか! 俺はただの通りすがりの高校生だ。歩いていたら、あんたが不良みたいなのに絡まれてたから助けようとしたのに、なんだ、その言い種」
俺は頭にきた。善意で助けたかったが、もう知らん。
「先輩……すいませんでした!」
寺山とそのもう一人は頭を下げた。
「いや、いいよ。だが、もうやるなよ。たかりは……犯罪だからな」
「はい! 失礼しました!」
寺山はそう叫び、そのもう一人の男を帰した。寺山は勿論残った。
「はぁーっ、あんたらバカ、子分なんか連れて、大物気分……うざっ!」
「なっ! てめぇーっ!」
寺山は女生徒の胸ぐらを掴もうとする。
すると……
「触んな!」
寺山の手を弾いた。
「おう、
「すいません……けどよ、こいつが悪いんっすよ! どうなんっすか!」
「はぁ~お前も落ち着けよ。折角の入学式なのに……台無しだぞ」
「……そうっすね。では、兄貴。馬に蹴られる前に俺は行きます。久し振りに会えて良かったです」
「あぁ」
寺山はポケットから携帯電話を取り出した。
「兄貴の連絡先を教えて貰っても良いですか?」
「良いけど」
俺は寺山に連絡先を教え、寺山はそのまま学校に行った。
「……ふう、さて俺達も行こうか」
俺はさっきから黙っている彼女に声を掛ける。
「……」
「どうした?」
「うっ、くっ!」
そして彼女は俺の足を蹴った。
「いたっ! 何をする……このアマ!」
「煩い! 気安く話し掛けんな!」
なっ……折角不良の手から助けてやったのに、なんだその言い種。
「私一人でもやれたっての! 余計な事をするな。このお人好し!」
「くっ、なんでんな事まで、言われなくちゃ、いけないんだよ! 不愉快だ」
俺はそのまま歩き出す。
ほんとにムカつく。
「待ちなさいよ!」
階段を下りようとすると大きな声で呼び止められた。ちっ、なんだよ。声を掛けんなとさっき言ったくせに。
「なんだよ!」
「……さっ、ささ……さっきは、ありがとう。助けて、くれて……」
彼女は素直に謝った。いや、お礼を言った。
案外、礼儀を知っているのではないか。
「それと……『話し掛けんな』と言ったのは、私は人見知りと言うか、誰に構わず食って掛かってしまうの……」
「……そうか」
彼女は俺の所に近付いた。
「こんな私だけど……あんたなら分かって貰えそうだから、友達になってあげても良いけど」
なんて上から目線。
しかも、偉そうに。
「でっ、どうするの?」
「えっ……あぁ。そうだな。つまりあれか……男慣れしてないから……慣れるのに付き合えって事なのかな?」
「まぁ……そうとも言える」
そうとしか言えないだろう。
「分かった、もうこんな時間。入学式に遅れる。行くぞ」
「……うっ」
こうして、俺は入学式初日、遅刻しそうだった。
東京都、都心の中で一番大きい街。
桜木町にある高校、桜木高校。一面、桜の花で一杯だ。
周りは桜木高の生徒が歩いている。
この辺は桜が名門で坂道にも桜の木がずらーっと並んでいる。
桜木高校は坂道を上った所にある。
「此処まで来れば、間に合うな。じゃ、新入生、頑張れよ」
俺は校門まで着き、言った。
学校内に入ると、そっさに腕を掴まれた。女性とも言えぬ力で。
「なっ、なんだよ!」
「さっきの事、忘れてないよね?」
「はっ……さっきの事?」
「おい! ふざけるなよ! 人が下手に出れば……嘗めてんのか!」
彼女は夜神聖夜の胸ぐらを掴んだ。
「うっ、ぐっ!」
強い力で引き寄せられ、彼女の顔が近くに。「このまま投げ飛ばして良い?」
笑顔で言い。
黒髪が風で靡き。
「いやいや、そんな物騒な事を言うなよ! ……分かっている、男慣れ出来るように協力しろと言うやつだろう」
そう言うと彼女は手を離してくれた。
「はあはぁ……怖かった、全く、これじゃ……いつ克服出来るのやら……」
服装を整え、彼女の方を向き。
「君の名前……聞いてなかったな」
「そう……ね」
二人はそれに気付き笑い合った。初めて会ったのに、昔ながらの友達みたいにと思った。
「……私は富崎めぐみ。宜しく。勿論、入学生だし……あんまり人付き合い」
「分かっているって、はぁ~これから大変だ」
「でっ、あんたは?」
睨み付けながら言った。
「俺は、夜神聖夜。桜木高の二年だ。つまりは、先輩だ」
そして短い自己紹介し終えた。
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