第一話 ヒステリックな彼女

2


 入学式は十時からだ。その前にLHRがある。

 そして新入生の歓迎もある。

 教室ではざわめきの中に居る。


「どんな子が居るのかな~」


「何ー! まじか!」


「部活動も盛り上がりそうだ!」


 と言う声が響き渡っていた。

 皆が皆、浮かれ過ぎだ。

 まぁ、俺もだけど。

「お前等、静かにしろ! もう直ぐ入学式が始まる。廊下へ出て、並べ!」

 先生の指導で生徒は立ち上がった。

 そして生徒は並び終え、体育館へと向かった。

 時刻は九時三十分。

 俺が此処に入学してから、一年か……。

 生徒達が体育館に入り在校生達が椅子に座る。

 生徒数二、三年生でも二百人ぐらいは居る。一年生が入るとどうなるのか。

「そういや……富崎は大丈夫かな……」

 初めての教室で騒動を起こしてなければ良いが。


 時刻は十時。

 入学式の始まりだ。

 入学式が始まってから十分も経たずに。


「夜神!」


 ふいに小さい声で先生に呼ばれた。

 俺は腰を低くしながら立ち、ゆっくりと先生の元へ行く。

 体育館を出る。


「なんですか? 先生……」

 入学式の最中なのに。

「すまないね、急に呼びつけて……」

 先生は固まった表情をしていた。

「夜神、『富崎めぐみ』って言う女生徒を知っているか?」

「富崎めぐみ!?」

 やっぱり何かあったのか。

「知っていますけど……どうしたんですか?」

「いや、もめ事が起きた。知っているのなら来てくれ」

 先生がそう言い一緒に付いて行く事になった。

 こんな入学式……初めてだ。


「着いた! 此処だ」


 先生は教室のドアを開け、入った。

 職員室かと思いきや、何処かの用具教室らしい。

 散らかってはいないものの、段ボールが沢山だ。

「先生……此処は?」

「部室だ。なんだっけ……『新・生活部』だっけ。お前が立ち上げようとしていた部活は……」

 先生は思い出し言った。

「そうですけど……此処を部室に!」

「そう言う事だ、入れ」

 中に入ると、黒髪が首まであり、目線は鋭くさせた女生徒が居た。

 そう、学校に行く途中に出会った女の子、富崎めぐみが。

 その彼女が俺に気付き、ゆっくりと歩き出した。

 朝出会った時より、服装が乱れていた。

「……どうしたんだ! その格好」

「やはり……ダメだった……」

 富崎は沈みながら言った。

「一体何があったんですか、先生」

「……実はな」

 先生は説明するように言った。


 俺と富崎が別れた後。

 富崎は自分の教室に向かった。

 一年三組に。

 自分の教室に着くと、中で騒いでいる声がした。

 富崎は教室に入った。

「……」

 富崎は周りの事なんか気にせずに自分の机に座る。

 時刻は九時二十分。

 入学式で入場までまだあった。

 初めて会う人達は何を思い、何を喋っているのだろう。

 と思う富崎。

 すると、富崎が座っていた後ろに男三人が遊んでいた。

 ふざけているのか、踊っていた。

 そして、バランスを崩し、富崎の肩にぶつかった。

「あっ、悪い悪い」


「……うっ、くっ!」


 富崎は俯く。

 そして……


「何、すんじゃーっ!」


 勢い良く立ち上がると椅子が倒れ、ぶつかった生徒に掴み掛かる。

 その生徒は壁に押し付けられていた。


「くっ、なんだよ! いきなり!」


 押し付けられた生徒は富崎を睨む。

「ふざけんな! 教室で騒ぎやがって、痛いじゃねぇーか!」

 富崎はその生徒に食って掛かる。

「……なんだよ、謝ったろう。何ムキになっているんだよ」

「うるせぇーんだよ! 何はしゃいでんだよ」

 富崎が怒声を浴びせ、周りがどよめく。

「……おい、落ち着けよ」

「そうだぞ」

 他の者の声が落ち着かせようとした。

「くっ! いい加減、離せよ」

 押し付けられた生徒が富崎の手を掴み、離した。

「よくも、、やったな!」

 富崎はそのまま殴り掛かる。

 そして……


「おい、お前等、席に着け!」


 突然と先生が入って来た。

 何も知らない状況でニッコリと笑っていた。


「ん、なんだ。其処の二人」


「先生、助けて下さい!」


 これが富崎の行動だった。

 そしてこの後、先生は事情を聞き、一年三組の担任の先行が俺の担任の先行に事情を話したら。

 事情を聞いた時、『夜神聖夜』の名前を言ったらしい。

 だから呼ばれた。

 そして現在(いま)に至る。


「はぁ~お前なぁ……少しは落ち着けよ」

「煩い、彼奴等が悪い!」

 おいおい、入学式なんだ。浮かれて当然だと思うんだが。

 新入生としては、新しい青春の始まりだしな。

「……夜神、富崎って、なんなんだ?」

 俺の担任の先生が疑問をぶつけて来た。

「えっと……富崎は人見知りで……嫌な事や、いきなりの事でも対処しきれないんです。言い掛かりを付けられて、腹立っても可笑しくはない。話を聞く限りじゃ、また怒鳴り散らしたんだろう」

 俺は富崎を見て問い掛ける。

「……ふん!」

 と鼻を鳴らした。

「うん~日笠先生の話じゃ……掴み掛かり、あまづさえ、暴力を振るおうとしていたとか」

「えー!」

 ビックリ仰天だ。まさか、こんな事にまでなろうとは。

「おい……少しはな」

 ってか、なんで俺がこんな事に巻き込まれる。

「殴り掛かった生徒は……無事だったんですか?」

「あぁ……ただの打ち身だけで、大した事はないと言っていた。女性の力だったんだ、大した事じゃなくて良かった」

 先生は安心したように言った。

 いや、入学式なのに、暴力事件になりかけていたんだぞ、大した事だろう。

「これから……どうするんですか?」

「そうだな……相手に非があった訳でもないし、謝るのが筋ってもんだな」

「……うっ!」

 富崎は戸惑った。

「一人じゃ無理だと思う。俺が付き添います。全く……一人じゃ何も出来ないんだから」

「言ってくれるね」

 富崎は静かに言った。

「分かった。頼んだぞ。では私は入学式に戻る。お前達は……まぁなんだ、落ち着いたら戻るように」

 先生はそう言い、部室を出た。


「はぁ~初日についてないな。なんで……こんな事に」

「……ふん~嫌なの! 女の子とサボれるのに」

 富崎は意味深な事を言った。

「おまっ! まさか、これが目的で、こんな騒ぎを!?」

「そんな訳ないじゃない。何言っているの、バカじゃないの」

 くっ、このアマ。

「所で、これからどうするの? しかし、なんなの、此処は?」

 富崎は周りを見渡す。

 段ボール箱や机、椅子、蛍光灯など色々置いてある。

 此処は普段、用具とか保管する為の教室だ。

「えっとだな……新しく部を設立する為に先生が設けてくれた部室だ。それで……なんだが……」

 夜神は言い淀む。

「へぇ~新しい部、ね~どんな部なの?」

「へっ! それは……『新・生活部』だけど」

 つうか女の子の前でこんな事言うなんて恥ずかしく思えた。

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