町。

由葉

第1話

嫌いだ。

この町が。

この街の空気が。

この町の全ての人が。

この町に生きる人が。

この町に……………




この町に住んでいる自分自身も。




大きな時計台がシンボルの古びた街並みが広がる。そこが私が住んでいる町。

「おはよう。舞子ちゃん」

「おはようございます」

近所の人からの挨拶。笑顔で応える。

「今日もべっぴんさんね」

「そんなことは…」

この町でべっぴんと噂されている。

多分私がこの街の理想の女の子を演じているから。

長い髪。きっちりとしたブラウス。

完璧な言葉使い。

優しい笑顔。

これだけ見たら理想だ。


でも。

本当の私は違う。

私はショートヘアが好きだ。

長い髪なんて鬱陶しい。

ブラウスなんて着たくもない。

スカートなんて鬱陶しいだけだし、何より邪魔だ。

笑顔なんてしなくもない。何が面白いのかわからない。

もとより、敬語なんて使いたくもない。なんで老いぼれババアに敬語を使わなくちゃならないのだ。

反吐が出る。


そんなことを知らないこのババアは私を褒める。

上辺しか見ない。

早く死ねばいいのに。


いつからだっけ。こんなこと思うようになったのは。幼い頃はこんなこと思ってなかった。大きな時計台がシンボルのこの街が大好きだった。父と母がいるこの街が大好きだった。


「そう言えば、」


そう考えていたらこのババアが言った一言でこの街が嫌いになった理由を思い出した。


「舞子ちゃんのお父さんとお母さんがが行方不明になってもうすぐ10年ね。」


そうだ。

私がこの街を嫌いになったのは、父と母がこの町に殺されたからだ。

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