黄金歌


 灰色に汚れたカーテンの隙間から朝陽が差し込んだ。

 奪われた夜を忘れさせてくれない彼の息遣いが、サリンジャーの描くライ麦を踏み潰す。

 幼娘が初めて手にしてしまった小鳥の亡骸への官能を呼び覚ましては、汗ばんだ紫のカーペットに罪悪感を滲ませる。

 幸せな家族の輝きは、始まりは決して純情ではない事を知った。

 恋も、愛も、幸せも、全てが後付なのだと、彼の暴虐の足音が、私の頭蓋の中で鳴り響く。

 大人になったという実感と、子供捨てきれないガラスの板挟みに、潰されてしまいそうになる心が涙となって血に成った。

 気楽に生きる事が素晴らしいのだと、後付の幸福論がまさかりとなって弱者の腱を断っていく。

 それが普通なのだと、特異を遠回しに踏み潰すニュアンスに吐き気を覚えて、腹に抱えた無垢の我が子が怯えてる。

 ほら、私の始まりたちが咽び泣いては怒っている。

 夜を孤独に歩く度に黒猫が口角を挙げては、死神のような尻尾を振ってこういうんだ。

 幸せかい?

 私は応える。

 さあ分からない。

 雪の降る町並みの黄金の輝きに、私は疲れて夜を見た。

 幸せだと決めつけるのも、不幸だと決めつけるのも、もう疲れた。

 鼻歌交じりに歌おうか。我が子がきっと喜ぶに違いない。

 気楽には生きれないが、気楽になら歌えるさ。

 自分の幸不幸よりも、我が子の歌を歌おうか。

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