悪魔憑きの祓魔師(ソルシエ・エクソシスト) ~序列ゼロ位の祓魔師は学園に潜入する~
ブリル・バーナード
第一章 炎を斬り裂く刃 編
第1話 任務
―――悪魔憑き。
それは代償を支払い、悪魔と契約して魔書を与えられ、人知を超えた力を手に入れた人間のことである。
男性の悪魔憑きを《ソルシエ》、女性の悪魔憑きを《ソルシエール》という。
彼らは魔導を極め、世界の技術発達に大きな貢献をしてきた。
しかし、力を正しいことに使うのではなく、悪魔に囁かれ、甘い誘惑に負ける悪魔憑きたちもいる。
その悪に堕ちた悪魔憑きの犯罪者を捕まえるのが祓魔師、《エクソシスト》だ。
生まれつき悪魔に対抗することができる聖人、聖女と呼ばれる異能者たちもいるが、ほとんどの人は悪魔憑きに対抗する力はない。
どうすればいいのか。遥か古代の人たちも悩んだ。そして、結論付けた。
―――目には目を歯には歯を。ならば、悪魔憑きには悪魔憑きを。
祓魔省。それは悪魔憑きの犯罪者を取り締まる悪魔憑きで構成された日本の特務機関である。
▼▼▼
ここは限られた人しか知らない部屋。
日本の霊峰富士山の麓に設置されている祓魔省のどこかの部屋。
整理整頓され、埃一つない綺麗で清潔な執務室だ。
本棚には様々な言語で書かれた本が並べられ、執務机も置いてある。
部屋の中に置かれたソファベッドの上に俺、
俺の顔はちょっと西洋風で彫りが深い。黒髪と黒目。見た目は十代後半だ。ぼさぼさの髪と曇ったレンズのメガネで瞳を隠している。
俺の瞳は鋭すぎて危険だから隠せ、との愛しい女性たちからのご命令なのだ。
俺が今イチャイチャしているのは、褐色の肌、長い白髪、黒目に紅い虹彩の十代後半に見える美少女だ。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。完全に左右対称で黄金比の身体。男を惑わす魔性の女。神が造形したと言われても納得ができる。
彼女は俺の契約悪魔アベルだ。
「ふふっ。お兄ちゃ~ん♪」
アベルが人懐っこい笑顔を浮かべ、俺の身体に猫のように顔をスリスリと擦り付けてくる。
可愛すぎ。なでなでをしてあげよう。
「アベルは可愛いなぁ」
「えへへ」
気持ちよさそうに目を細めるアベル。
人を明るくする太陽のような美しい笑みだ。
俺とアベルがイチャイチャしていると、部屋のドアがノックされ、返事を待たずにバタンと開いた。
「ちっす! カインさんはいるっすか?」
元気よく入ってきたのは髪を茶髪に染めた二十代の青年。服は少しだらしなく着崩し、耳にはピアスをつけている。所謂チャラ男だ。
彼は
俺は幸平に手を挙げる。
「幸平、おーっす!」
「カインさん、ちっす! 相変わらずイチャイチャしてるっすねぇ。また
仁とは、《
悪魔との契約の代償として女性に触れられないらしい。
女性とイチャイチャする俺に嫉妬して、よく八つ当たりされる。
「放っておけ。いつものことだ。んで? 何の用だ?」
「ちょっと任務の話なんすけど」
「俺の? アイツら関係か?」
「いえ、違うっす」
「んじゃ、パス!」
「えぇ~! そんなこと言わないでくださいっすよぉ~!」
手に書類を持った幸平が、子犬のように瞳を潤ませて縋りついてくる。
くっ! 振りほどけない。こいつから頼まれると何故か、仕方がないなぁ、と思ってしまうのだ。愛玩動物というか、憎めないやつだ。
「セラエノ図書館学園に潜入する任務なんすよぉ~!」
「詳しく聞かせろ!」
俺はあっさりと手のひらを返して、ガバっと起き上がる。
学園に潜入だと!? まだ男を知らない若い少女が多いではないか!
俺に抱きついていたアベルがペイっと放り出されたが、スリスリと擦り寄ってきた。
幸平もキラキラと瞳を輝かせる。
「聞いてくださいっす! 熊本県阿蘇市にあるセラエノ図書館学園のことは知ってるっすよね?」
「そりゃもちろん」
セラエノ図書館学園。それは若い悪魔憑きを育成する世界的にも有名な学園だ。ここ数十年の有名な悪魔憑きは、ほとんど全てその学園の卒業生だ。
日本には地脈と言う地面を流れる魔力の放出地が三か所存在する。一つはここ、霊峰富士。二つ目は東北の恐山。三つ目が九州の阿蘇山だ。
この地脈の放出地が魔術や儀式を行使する場所に相応しい。だから、その場所に悪魔憑きたちが集まり、結果として学園を作ることが多いのだ。
富士山は祓魔省の本拠地だから無理。恐山は地脈の性質上無理。消去法で日本には阿蘇に学園が設置された。
日本は昔から魔を排除せず、共存をしていく風潮があった。宗教でも何でも取り入れ、独自のものに発展させている。日本人の良いところだ。
その結果、遥か昔から悪魔憑きを恐れず受け入れ、今現在、世界一の発展と悪魔憑きの育成を行うことができているのだ。
「今年、そのセラエノ図書館学園に世界各国の王族たちが入学予定なんすよ」
まだ入学が決まってはいないんすけど、と幸平が補足を行う。
昔から魔を恐れた他の国々は、魔女狩りなどで悪魔憑きを排除してしまった。その結果、日本よりも何世代も発展が遅れてしまっている。
悪魔憑きを受け入れ始めた現在、遅れを取り戻そうと若い人材を世界一の育成学園であるセラエノ図書館学園に入学させようと躍起になっているのだ。
「でも、あそこにはアイツがいただろ?」
「うっす。姉御がいるんすけど…ね? 姉御は結構大雑把で、全く報告をしてくれないんすよ。頻繁に学園が狙われてるんすけど……。仕事の報告をしない姉御のお目付け役も含めて、入学した王族の護衛が任務になるっす」
幸平が言いにくそうに言った姉御というのは、学園の守護を行う任務に就いている《
彼女は強いのは強いのだが、ガサツで大雑把だし、仕事も丸投げしてくる。学園が攻撃されても全く連絡もしてこない。
セラエノ図書館学園は若い悪魔憑きを育成する機関であり、悪魔憑きを嫌う国やテロ組織から頻繁に狙われている。
熊本地震や和水地震もセラエノ図書館学園を狙ったテロ組織が引き起こした地脈を使った大規模魔法テロ事件だった。表向きは普通の地震として公表されている。日本は頻繁に狙われているのだ。
俺に抱きついた悪魔のアベルが甘い声で囁いてくる。
「お兄ちゃん。任務受けよう? JKだよJK! ピッチピチのJKがたくさんいるよ! 綺麗な子がたくさんいるよ! 目の保養になるよ!」
「そうだな、アベル! 幸平! 俺は
「
任務の了承を受けた幸平が書類を置いて部屋を出て行く。
こうして、七人しかいない《
待ってろよ! 美少女たち!
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