11.7.最強の共闘


 バッと手を広げたナリアが、周囲に多くの武器を生成した。

 もう力が残っていない。

 あと何回か腕を斬り飛ばされてしまえば、消えてしまいかねなかった。


 力が使えないことに焦って力を使うことを抑えたのが敗因だろう。

 こうなれば残りの力を使ってギリギリで勝つしかない。

 どうしてこんな人間にいいようにされているのか。

 一体何が制限を着けてしまったのか、彼女は未だに分かっていなかった。


「ング……ゴノォオオ……!!」

「ひゅー、恐ろしいのぉ」


 鈴で作り出したナイフを操り、更に想像した投擲物と接近戦で使えそうだった鉄の手袋と盾を創造。

 すべての武器を飛ばしながら、自分自身も突撃していく。


 だが沖田川は待ちの戦い方を非常に得意とする。

 腰を落とし、指を一刻道仙に掛け、飛んできた刃が間合いに入った瞬間に柄を握って振り抜く。


「雷閃流、横二文字」


 回避行動を取った木幕に対し、沖田川は飛んできた武器を二度の斬撃で打ち落とした。

 だがそれだけでは攻撃は終わらない。

 抜刀状態から左手の親指を峰に添える。


「雷閃流極地居合、虚鞘抜刀術」


 ジャギャギャギャン!!

 飛んできたすべての武器を叩き落とした。

 その瞬間また虚鞘抜刀術の構えを取り、グッと踏み込んでナリアに迫る。


 木幕は何とかナイフを弾き落し、武器を回避してナリアに肉薄した。

 双方が丁度いいタイミングで、攻撃を仕掛ける。


「葉我流剣術」

「雷閃流」


 木幕の攻撃は盾で防げると判断し、ナリアは剣を沖田川に向ける。

 すべてのナイフを沖田川に向かわせて、まず一人を確実に仕留めるつもりだ。

 剣を大きく振りかぶった瞬間、二人の斬撃がナリアを襲う。


「発芽!!」

「雷門!!」


 突きを繰り出した木幕と、上段からの力強い一撃を繰り出す沖田川。

 沖田川の攻撃は多くの刃によって防がれ、更にナイフによって体中に穴が開く。

 木幕の一撃は完全に防がれてしまったらしい。


 ようやく一人!

 そう思っていたナリアだったが、次の瞬間沖田川が消えた。

 この一瞬のラグを逃してはならない。


 すべての刃を一斉に木幕へと向ける。

 四方八方から飛んできた刃を防ぎきることはできないだろう。

 木幕もナイフの動きを見てマズいと思い、咄嗟に身を引いたのだが間に合わない。

 いくつかのナイフを叩き落したまでは良かったが、他のナイフを落とせるだけの技量は持っていなかった。


 ギャギャギャギャン!!

 木幕の後方から、ナイフを弾く音が聞こえる。


 髪の長い男性で、それは後ろに投げ出されている。

 青と藍色が混じった羽織を着ており、背には柳の木の家紋が刺繍されていた。

 背中合わせとなった彼らは、小さく笑う。


「さっきぶりだ、木幕よ!」

「お変わりがないようで安心いたしました」

「フハハ! 案ずるな! 怪我をしてもあの場に戻れば回復する様だ! だがお主は違う。気をつけよ」

「無論、分かっております」


 柳格六。

 愛刀の天泣霖雨を握り、その切っ先をナリアへと向ける。


 こいつが元凶。

 柳と木幕を戦い合わせて、諸悪の根源。

 自ずと柳の体にも力が入る。


「コォシャクナァ!!」

「奴は誠に神なのか?」

「違いましょう。愚者です。我らが俗世の均衡を保つために、斬らねばならぬ存在」

「然り! したらば木幕、あれをするか!」

「……お遊びではないのですから……」

「まぁまぁ! これが最後なのだ! 最後ぐらい主君に付き従ってみてはどうだ!」

「はぁ……御意」


 柳は刀を右手に持ち、木幕は刀を左手に持つ。

 双方が鏡合わせのように同じ構えを取った瞬間、同タイミングで駆けだした。


「左は任せる!」

「任されました!」


 飛んでくるすべての刃を叩き落す。

 身のこなしで回避したりもしているが、ほとんどは刀で弾き落していた。


 ナリアはだんだん焦ってきている。

 すべての攻撃が彼らには効かず、むしろ自分が追い詰められていることに。

 自分が死んでしまうのであれば、いっそ道ずれにしてやらなければならない。

 両の手に力を込めて力を発動させる。

 自分の魂を使った技だ。

 どんなに制限があったとしても、これだけは絶対に成功する確信があった。


『駄目ですよ』

「!!? そ、その声……!!? まさか!!!!」

『貴方は終わりです』

「ミトメナイ! 駄目だ! 私がこの世界の覇者なのよ!!」

『本当の神様は、そんなこと言いません。堕ちなさい、邪神ナリデリア』


 手に込められていた力が霧散する。

 それに絶望していると、目の前に刃が近づいていた。


『『冷雨流!! 双刃霖雨!!』』


 柳が飛び上がり、足を引っ込める。

 木幕が伏せ、一気に駆け抜ける。

 下段と中段の水平切り。


 その攻撃はナリア……もといナリデリアを切り裂いた。

 だが攻撃はこれだけでは終わらない。


 冷雨流は、落ちてくる雨を模した技。

 水が地面に落ちれば、それは跳ね返って違う場所にも雫が落ちる。

 二度斬撃を繰り出すのが、基本的な攻撃方法。


 駆け抜けた木幕は葉隠丸を両手に持ち、ナリアの背を捉える。

 飛び上がった柳は着地する瞬間に上段の構えを取り、柄を両手で握り込む。


 ザザンッ!!!!

 柳が斜めに切り下ろして斬り、木幕が斬り上げて背を斬った。

 最後に双方が水平に刀を持ち、肩の力を使ってナリアの首を狙う。


 切り上げと同時に半回転した木幕は狙いを定めた。

 斬り下ろした刃を八双に構えてから水平に構えた柳も、狙いを定めた。

 木幕は左から斬り、柳も左から切り込む。

 お互いが向き合っている状態で切り込むので、その刃は向かい合う様にして肉と骨を切り裂いた。


 スパァンッ……。

 綺麗にはじけ飛んだ首が、宙を舞う。

 首のなくなった胴体はしばらく固まっていたが、首が落ちる音が聞こえたと同時にゆっくりと横に倒れてしまった。


 柳と木幕は血振るいをした後、刃を鞘に納刀する。


 チンッ。

 この音が、戦闘終了の合図であった。

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