10.79.水瀬&勇者一行VSスディエラー
「作戦はどうしますかガリオルさん!」
「相手は一人だ。俺たちの連携であれば大丈夫だろう」
「じゃ、いつも通りだね」
「わ、分かりました!」
魔族が余裕そうにステッキを振り回している。
だが水瀬は彼の動きを見て警戒していた。
そもそも、大型の魔物が次々と倒されている中、一人で突貫してくる兵がいるだろうか。
普通はいない。
だがいるというのであれば、自分の力に相当の自信があり、更には魔王もそれを承諾して向かわせている場合である。
それにここまで戦況が劣勢だというのに、その表情はとても穏やかだった。
余裕のある振る舞い……。
絶対に油断してはならない人物だと、すぐに理解できた。
「ねぇ、貴方たち。気を付けた方がいいわ」
「え!? そうなんですか!?」
「……ロストア君だっけ……? まぁいいや。君たちが死んだら士気に大きく影響するからね」
「大丈夫です! これでも何回も死線を潜り抜けていますから!」
「……そういう問題じゃないと思うけど……」
彼の言う死線というのは、絶対的不利の状況から血まみれになりながら城から脱出するくらいのことなのだろうか。
人一人守るのは尋常でない程に難しい。
しかし今回は誰かを守っている余裕はないだろう。
「話し合いは終わりましたかね?」
「行くぜ! リット、メア! 援護! ロストア行くぞ!」
「はい!!」
二人が地面を蹴って魔族に接近する。
彼らの息はぴったり合っており、その後方から援護する二人の息も完全に合っていた。
前線二人が一気に横へと飛んだ瞬間、射線が通って魔法と弓が魔族を襲う。
だが彼は一切動くことなく、その攻撃を受け止めた。
カーンッ。
風魔法の乗せられた矢は弾かれ、炎魔法は掻き消えた。
二人はそれに驚きこそしたが、炎魔法で相手の視界は奪っている。
そこをガリオルの戦斧とロストアのロングソードが畳み掛けるように振り下ろされた。
ギンッキィイン……。
「……な、かってぇ……!」
「お、俺はともかく……ガリオルさんの攻撃が通らないなんて……!」
二人の攻撃は、当てた場所で完全に止まっていた。
逆にこちらが刃こぼれをしているくらいだ。
本気の一撃を受け止められてしまった。
魔法、物理、遠距離攻撃全てが意味のない攻撃になったと誰もが理解しただろう。
「ふむ。この程度であれば……」
魔族が両腕を広げて二人を掴む。
それを援護していた二人に向かって投げ飛ばした。
「「おわああああ!」」
「よっ」
「わわっ!」
飛んできた二人を避けたあと、魔法使いのメアがもう一度炎魔法を繰り出した。
だが相手は避ける動作をせず、それをただ受け止めてしまう。
体勢を立て直した二人は、前へと歩み出て構えた。
「貴方たち四人には分身で丁度いいですね」
「なに?」
魔族がパチンと指を鳴らすと、隣に瓜二つの分身が現れた。
一人は勇者一行に、そしてもう一人は……水瀬を見た。
「!! 防御!!」
「え?」
水瀬が叫んだ瞬間、魔族は翼を動かして突っ込んだ。
その速度は速く、水瀬は何とか防ぐことができた。
しかし、勇者一行の魔法使い、メアが杖で殴られて遠くへと吹き飛んでしまう。
それを見たリットが叫ぶ。
「メアー!!」
「自分の心配をした方がいいですよ」
「貴様ぁ!!」
「ま、まてリット!!」
ガリオルが制止したが、それを無視してリットは弓をつがえる。
だがその瞬間に弓は破壊され、杖は喉を突いて貫通した。
湿った雑巾を捨てるかの如く、無造作に死体を投げ捨てた魔族は、ガリオルとロストアを視界の中に捉える。
彼はニコリと笑って追撃した。
「ぐんぬぅう!!」
「ガリオルさん!!」
連撃を耐えていたガリオルを助けようと、ロストアが割り込んで魔族に攻撃を畳みかける。
しかしその攻撃は翼で弾かれ、更には蹴られて吹き飛ばされてしまう。
なんに役にも立てないまま、彼は吹き飛ばされた先で気絶した。
「はぁあ!」
「おっと……危ない」
腕でガリオルの一撃を防ぎ、残っていた杖で彼の鎧を突きで砕く。
その衝撃で数歩後退したが、すぐに体勢を立て直して攻め立てる。
だがじり貧だ。
こちらの攻撃は効かず、向こうだけが子供と遊ぶように攻撃をしてくる。
今は何とか耐えることができているが、彼が本気になれば一瞬で終わってしまうだろう。
だがその中で、一つの現象を視界にとらえることができた。
「シーー……」
「さすが、やりますね……」
本体と水瀬がやり合っていたのだが、魔族は腕に傷をつけられていた。
「!」
傷があるということは、何処かに突破口があるということだ。
今までは何かしらの能力で自身の防御力を上げていただけなのだろう。
(そう言えばさっき、危ないとか言ってたな……)
魔族の発言からして、彼は無敵ではない。
どこかに突破口があるはずだ。
それを探すのに時間が掛かりそうだが……何とかなるだろうか。
「勇者! 動いている肉を狙いなさい!」
「う、うご!?」
水瀬はそれだけを言うと、再び魔族に向かって攻撃を仕掛けていった。
言葉の意味はなんとなくわかるが、それは突破口なのだろうかと首を傾げてしまう。
だが、魔族の表情を見てみれば、それに応えがあるということはなんとなく分かった。
無表情。
彼は表情こそ未だ穏やかだが、その感情は隠しきれていないらしい。
焦っている。
少し強めに握られたステッキを見て、ガリオルはそう直感した。
「動いている肉だな! 要するに……カウンター!」
これが突破口かどうかは分からないが、賭けるしかない。
ガリオルは地面を蹴り、魔族へ向かって戦斧を振りかざした。
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