10.65.今後の予定
仕切り直しだという風に咳払いをしたウォンマッドは、立っていたリトルに座るように手で指示を出す。
彼もそれに素直に従った。
「んじゃ、まず考えなきゃいけないことは……。攻めるか守るか」
両手を広げてその二択を全員に問う。
今回の議題ではこれが一番難しいだろう。
敵は余力を残して撤退した。
だがこのまま追わなければ、必ず体勢を立て直してまた攻めて来るに違いない。
相手は魔物で、体勢を立て直す速度も尋常ではないだろう。
だが追撃するにはリスクもある。
魔族領は未知の領域であり、人間は誰一人としてその場に近づこうとはしない。
地の利が向こうに傾いてしまうことを考えてみれば、追撃はしない方がいいのではないだろうか。
しかし根本を潰さなければこの脅威はまた訪れる。
今は脅威を一時的に退けただけに過ぎないのだ。
「では攻めるか?」
「物資を燃やしたから、せめて国からの増援が来るまでは待たなければなりませんよ」
「確かに……」
「守りに徹しても、同じ結末を辿るでしょうし……。ん-……」
「長期の滞在は不可能だぁ……。攻めた方が得策と見えるぅ……」
「うん、それは確かに。アテーゲ領の海賊たちも海から回っているらしいですし、物資が来てから攻めるのがいいかと」
「そもそもここから魔王城にはどれくらいで到着するんだ?」
「一ヵ月ほどだと聞いていますが」
「ぎりぎりか……。考えている暇はあまりなさそうだな」
その場にいた全員が、熱心に考えを巡らせている。
話を聞く限りでは、攻めようという話になりつつあるようだ。
「……これから到着する予定の援軍は?」
「あ、はい。マークディナ王国からの増援が来るはずです。孤高軍と合わせて一万弱かと」
「あとはアテーゲ領ですね。タイミングが合えば、魔王城攻撃の時に増援として現れてくれるはずです」
「……ふむ」
今残っている兵力は、二万四千四百。
増援が来るのは数日後……。
彼らが到着した場合、兵力は約三万四千……。
数からしても不利であり、向こうには地の利もある。
今から攻めたとしても、勝率は低いし数多くの戦死者が出ることは明白だ。
だが今から向かえば、アテーゲ領からの援軍といいタイミングで合流できるかもしれない。
行くのであれば、もう行かなければならないだろう。
援軍を待つ時間があるのか、微妙なところなのだ。
兵力さを鑑みれば待ってから出陣するのが妥当だが……。
「どうする、バネップ殿」
「儂よりも、木幕が決めてくれると助かるな。魔王であれば、どう動く?」
「……」
木幕は考える。
先の戦いではメディセオやローデン要塞の兵士が命を賭して戦ってくれた。
このままローデン要塞で守りに入るのは、彼らの努力を水泡に帰す行動である。
主戦力である大型の魔物は彼らの奮闘もあって大きく削れた。
兵力差は縮まないが……その兵力差を覆すだけの実力を持っている者は、ここに多くいる。
故に、木幕の決断は早かった。
「攻める準備だ」
その発言に、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうにする者や、本気かと疑いの目を向けている者も数名いる。
だが今を逃してしまえば、次はない。
ローデン要塞という主力の大半が居なくなってしまった現在、同じ戦い方をするのは不可能だ。
であれば、その効果が続いている内に攻めるのが得策。
彼らの奮闘を無下にしないためにも、ここは攻めに転じなければならない。
戦死した者が作り出してくれた好機。
これを無駄にはできない。
「決まりだぁ……。西形ぁ、次も決めろよぉ……」
「勿論ですとも!」
「やれやれ……。ウォンマッド斥候兵も気張りましょうかね。地形の把握を済ませなければ」
「そうと決まれば陣形を整えましょう! グラップ、行くよ」
「ら、ライアさん! ちょっと待ってくださいって!」
やることが決まった以上、ここに居る必要はない。
決まったことを兵士たちに伝えに行く為に、彼らは急ぎ足でこの場を後にした。
一段落済んだと一息入れたいところではあったが、そんな余裕はない。
「バネップ殿。援軍は待つか?」
「待った方が良いだろう。数日すれば彼らも到着する。それと同時に追加の物資も届けられる筈だ」
「それであれば待つほかないな。だがすぐに出発できるようにローデン要塞には移動する」
「構わん」
物資を燃やしてしまったため、今ルーエン王国やミルセル王国から運ばれてきている物資だけは待つしかない。
それを待っている間に、ローダン率いるマークディナ孤高衆も来ることだろう。
あとは……。
「今回は、某が前線に出る」
「うむ。では総指揮は任せろ」
お互いに小さく頷き合った後、彼らがギルドの外へ出てローデン要塞へと向かい準備を進めていったのだった。
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