10.36.最後の軍議
多くの戦士がローデン要塞に集まった。
その中でも選りすぐり人材が、冒険者ギルドの一室に集結している。
この場にいる人物は、多い。
まずローデン要塞から。
ローデン要塞ギルドマスターのドルディン。
引退した勇者、メディセオ。
派遣勇者から正式な勇者となったティアーノとその弟子、テトリス。
薬師のリトルもここに居た。
次に今回の総指揮を執ることになったルーエン王国のバネップ。
その使用人のリューナと、執事のクレイン。
リーズレナ王国からは、勇者一行が来てくれた。
戦斧使いのガリオル、魔法使いのメア、弓使いのリット、そして新たに加入して力をつけたロストア。
ミルセル王国からは、第三王子のハバルアと、ミルセル王国勇者のトリック。
そして大隊の指揮を執る予定のハボックという人物が同席していた。
孤高軍からはライアと、グラップ。
ウォンマッド斥候兵も集まっており、隊長のウォンマッドをはじめ、副隊長のエルマとシルフも同席していた。
木幕一行も、同じように同席している。
新たに集まってくれた数人の人物に、今回の作戦について改めて説明していく。
彼らはその作戦に頷き、同意をしてくれた。
「経験豊富なバネップ様が総指揮を執ってくれるのであれ安心だな」
「シルフ……もう少し口を慎みなさい」
ウォンマッド斥候兵の副隊長のシルフが、くつろぎながらそう言った。
彼と会うのは初めてだが、あまり目上の人に対して礼儀を尽くそうという感じは見て取れない。
それが彼の良いところなのかもしれないが、人によっては反感を買いそうだ。
同じ副隊長のエルマがそれを注意するが、彼は知らんふりをして鼻で笑う。
「では改めて、今回の総指揮を任せられたバネップだ。皆の者、よろしく頼む」
一度立ち上がって、全員の顔を見るバネップ。
誰もが軽く頷くが、ミルセル王国の第三王子だけは詰まらなさそうに口をとがらせていた。
あの若造はまだ納得できていないのかと呆れたが、それを指摘すると話がこじれそうなので誰もが口を閉ざしている。
会話の進行が遅れるのは良くないことだ。
それを誰もが分かっているのだろう。
そのあと、バネップは木幕を見た。
見られたことに気が付いたあと、立ち上がって広げられた地図に石を置いていく。
「布陣を説明する」
今から木幕が提案する布陣は、バネップと共に考えたものだ。
この世界と木幕の居た世界とでは少し形が違うようだったが、恐らく魔王である柳はこの世界にはない知識を持って陣形と策を組んでくる可能性がある。
なので敵の陣形のことを良く知っている木幕に、今回の布陣を考えさせたのだ。
それに、木幕は柳の戦い方を知っている。
彼は攻めの戦に非常に強い策を持ち出してくるのだ。
なので、このローデン要塞にも味方を配置させる。
「まずローデン要塞の東……この雪原に鶴翼の陣(Vの陣形)にてルーエン王国の兵士を展開させる。その左右。そこにも雁行の陣(\と/の陣形)にて同じ兵を展開」
木幕は雪原からローデン要塞に入る為の唯一の細道の前に、ルーエン王国の兵士として石を何個か並べた。
これは後に重要になってくる陣形だ。
敵の数が多い以上、始めの突破力ではなく後半の粘りを重視する。
そのあと、木幕は鶴翼の陣(Vの陣形)の前に横一文字に石を並べる。
「鶴翼の陣の前に、リーズレナ王国兵八千を
ローデン要塞の面々と、リーズレナ王国勇者の面々は頷く。
自分たちの配置がしっかりと明記された瞬間、そこでの配置を頭の中で作っていた。
「孤高軍は横陣の陣の左右に、雁行の陣で待機。そしてその中央に
「はっ!!」
「了解です!!」
ザッと姿勢を正した二人が、同時に声を上げる。
西形に至っては非常に嬉しそうにしていた。
騎馬がいないのが少し痛手となってしまっているが、彼であれば何とかしてくれるだろう。
最後にミルセル王国だが……。
「お主らは防衛に勤めてもらいたい」
「防衛、ということはローデン要塞の守りを固めるということですね?」
「左様」
ミルセル王国勇者、トリックが納得したようにそう言った。
ハバルアが口を挟む前に発言したということが分かる。
ずいぶんと気を使っている様だ。
だが彼らに守りを任せるのは、何かをしでかすかもしれないという理由からではない。
それにこれは絶対に必要な事だ。
「ローデン要塞に集められる怪我人の手当てなどを任せたい。何らかの理由で撤退する可能性もある。その場合、迅速に行動ができるように対処しておいてもらいたいのだ」
「人を助ける事は勇者の務め。共に前線で戦えないのは少し残念ではございますが、その役目全うして見せましょう」
「うむ」
気持ちがいい青年だ。
こうした素直な人物には好感が持てる。
それに彼は自分たちの役目が重要な事であるということも分かっているようだ。
前線で功を急く者よりも、彼は良い仕事をしてくれるだろう。
トリックは不安そうに第三王子のハバルアを見るが、彼は未だに詰まらなさそうに話を聞いていた。
やる気がないといった風である。
困ったよう頬を掻いたトリックは、とりあえずといった様子でそのまま座った。
「大きな陣形は以上だ。ウォンマッド斥候兵」
「何かな」
「分かっているとは思うが、お主らは目になってもらう」
「いつも通りの仕事だね、了解。それはこっちで勝手に決めていいかな?」
「構わない。お主の方が得意だろうからな」
下手に指示するより、こういうのは彼らに任せておいた方が良いだろう。
あとはこまごまとした兵士の配置だ。
それは各々の大将がやっていくことなので、あまり気にしなくていいだろう。
適材適所は、その人物を知っている者たちでなければ分からないのだから。
陣形が決まったあと、リーダー格は外に出て行ってこの事を兵士たちに伝えて行く。
残された者たちは、木幕の前に集まっていた。
ここに居るのは、木幕一行と孤高軍だ。
「某らが決めるのは、孤高軍とお主らの配置であるな」
「私はウォンマッド斥候兵についていればいいのでは?」
「エリーには違う仕事を任せるつもりだ」
「はぁ」
とりあえず彼らには、既に決めている場所に配置してもらう。
西形とグラップは先ほども言ったが最前線。
先手大将を任せるつもりだ。
その右に雁行の陣がある。
ここには槙田を置く。
左の雁行の陣には水瀬、レミ、スゥ、ライアを配置する予定だ。
おそらくこの布陣であれば、もしかしたら後方にいるリーズレナ王国とローデン要塞の連合軍が手を出すまでもなく、戦いは終わる。
可能性は低いかもしれないが、ここでできるだけ戦力を温存し、敵戦力を削りたい。
「敵方は、今回連れてきている兵士が精鋭部隊である。生き残れば、勝てる」
「簡単に言うなぁ……。だがまぁ、それくらいの方がぁ……分かりやすい……」
不敵な笑みを浮かべる槙田に誰もが若干引いたが、恐らくこの中で誰よりも戦闘狂なのはこの人物なのだ。
楽しみで仕方がないのだろう。
恐ろしいが槙田は実力があり、その強さだけを見れば信用はできる。
頭は悪そうだが、それが信用するに値するもう一つの理由とも言えた。
「相変わらずですねぇ……」
「っ……」
「ま、布陣が分かったのであとは簡単ですね。目の前の敵を倒すだけです」
「水瀬さんも簡単に言いますけど……敵は強いですよ? 生命力もあるし、魔法だって使ってきますから……」
「大丈夫大丈夫。守ってあげるから」
「軽い」
話を聞いている限り、心に余裕はありそうだ。
これは一番重要なことかもしれない。
「じゃ、僕もこれ使いますかね」
「あ、私も」
ライアとレミは、それぞれが魔法袋に手を突っ込んで武器を取り出した。
ライアが手にしたのは一刻道仙。
レミが取り出したのは氷輪御殿。
どちらも託された武器だ。
「あら、レミちゃんは赤い薙刀の方がいいんじゃないの? 奇術切れるんでしょ?」
「んー、そうなんですけどー……」
「使い分けした方がいいわ。強い敵と出会ったらそっちに替えるべきね」
「むむむむ……確かに……」
悩んでいるようではあったが、その辺はレミ自身に任せることにしよう。
「さて、エリー。お主には戦場偵察を任せたい」
「……え? もしかして今から……敵を見てこいってことですか……?」
「時間はないぞ。もうじき開戦だ」
「なんでもっと早く言ってくれないんですか!?」
「二週間前の敵の情報などいらぬ。直近の情報が欲しいのだ」
「ええー!! あーもう! 行ってきますよ! はいはい!」
エリーは少し怒りながら、部屋を出て行った。
彼女の力量があれば問題なく情報を収集してくれるだろう。
ウォンマッド斥候兵でもよかったかもしれないが、やはり忍びに育てられていた彼女の方が適任だ。
あとは情報を持って帰ってくるのを待つとしよう。
さて、もうじき開戦だ。
木幕ももう一度気を引き締めて、小さく頷いた。
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