10.10.マークディナ王国


 ガタンガタンと馬車が跳ねまわって前進していく。

 もう既に馬車の耐久力は虫の息であり、一つ大きな石をけ飛ばした瞬間に瓦解する可能性が高い。

 一ヵ月と一週間の道のりを五日で踏破するのはこの馬車では難しかったようだ。

 国までは何とか持ってくれと馬車に乗り込んでいた全員が祈っていた。


「というか目的地まであと少しなんですから、もう少しゆっくり走ってくださいよ槙田さん!」

「はぁー!? なーんだってぇー??」

「もーちょっとー! ゆっくりー! 走れー!!」

「走れぇー? 分かったぁ……」

「ちょおっ!!」


 馬車がさらに速度を上げて突き進みはじめる。

 西形の言葉を完全に聞き間違えた槙田は、自由気ままにフレアホークを操って走らせていく。

 どうして瀕死の馬車に止めを刺しにいくのか分からない。

 彼は馬車の様子もしっかり見てくれているので、判断してくれるとは思ったのだが……。


 やれやれと思いながら外を見やると、既にマークディナ王国が見えていた。

 まさかここに戻ってくることになるとは思っていなかったが……。


「あらぁー、ちょっとまずい」

「ど、どうしたんですか水瀬さん」

「壊れるわ」

「「え?」」

「っーー!!?」


 馬車が壊れるという判断をした水瀬は、瞬時にスゥを抱えて飛び降りる。

 それを目撃した他三人も、続いて飛び降りた。


 地面に着地する寸前、足元に水が走ってきて受け止めてくれる。

 若干濡れてしまったが水瀬のお陰で怪我はせずに済んだよう。

 だが約一名は転がって受け身を取っている。


「ちょーっと姉上! 僕にはないんですか!」

「貴方は奇術でどうにでもなるじゃない」

「いや、えぇー! というかなんで浮いてるんですかー!?」

「意外と上手くいくものね」

「っ~」


 水瀬は水を足場にして空中に浮いていた。

 そんなこともできるのかとスゥは水瀬の腕の中で感心したようにきょろきょろと周囲を見渡している。

 ゆーっくりと地面に降りてきた二人を見届けた瞬間、遠くの方から何かが壊れる音が響く。


 ガタンッ!

 バンッズザザザザザザザザザッ!

 バギャメギャバキバキバキバキ!


 馬車の方を見てみれば、フレアホークに結ばれているロープが壊れた馬車を引きずっている光景が目に入る。

 まだあの場所にいたのであれば、巻き込まれて大怪我をしていたに違いない。

 水瀬の判断には感謝しなければならないだろう。


 馬車が壊れる音を聞いて、槙田もようやく止まってくれた。

 

「使えねぇなぁ……」


 槙田は小刀を取り出し、フレアホークに結び付けていたロープを切断する。

 そのあと紅蓮焔の鯉口を切り、炎をフレアホークに向けて振りかけた。


「ギュワワッ」

「これが飯とはなぁ……。不思議なもんだぁ……」


 槙田はそう言いながら、鍔に親指を掛けて鯉口を閉める。

 道中でレミからフレアホークについての情報を教えてもらうことができていた。

 こうした魔物は得意とする魔法を主食としている場合がある。

 強い魔物にしかそう言った個体はいないのだが、フレアホークはそれに属するのだ。

 Aランクの魔物とされているが、飛行するので実質Sランクみたいなものだろう。


 自身の体の炎を沈めているのは、槙田がそういう風に調教したせいだ。

 こうしてみればただの大きな鷹だが……口からだけは常に炎が燻っているのですぐにフレアホークだとバレてしまうだろう。

 このままマークディナ王国へ入国するのは避けた方がいいかもしれない。


 徒歩で槙田と合流した一行。

 すぐに西形が槙田に注意をした。


「何でゆっくり走ってくれなかったんですか!」

「はぁ……? お前が走れっつったんだろうがぁ……」

「言ってない……」

「声がちせぇんだよぉ……」


 呆れたように欠伸をした槙田は、詫びれる様子もなくそっぽを向いた。


 木幕は少し離れたマークディナ王国を見る。

 昨日の夜あの黒い空間で軍議を開いた。

 なので今日からが本格的な情報収集の開始だ。


「さて……槙田は留守番してもらおうか」

「あぁ……? まぁそりゃそうかぁ……」


 さすがに魔物をマークディナ王国へと入れるわけにはいかないだろう。

 ここは残りの者たちで馬車を貰い受け、兵士たちの状況を確認するのがいいはずだ。

 それに孤児院もある。

 彼らの所に一度寄ることができれば、馬車を用意してくれるかもしれない。


「んじゃ、俺は散歩でもしとくぜぇ……。行くか」

「ギュワアア!」


 槙田はフレアホークに跨る。

 するとフレアホークは翼を広げて空へと飛んでいく。


「うっそじゃん」


 たまには自由に飛ばしてやらなければならないだろうという、槙田の計らいだ。

 フレアホークは楽し気に空を飛んで行ってしまった。

 あとで帰ってくるだろうが……何故槙田は鞍も付けずに跨ることができているのか不思議だ。


「ま、行きましょうか」

「であるな」


 槙田を見送った後、五人はマークディナ王国へと足を運んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る