10.7.どうした
「これはどういうことか、聞く権利は某にあるだろうか?」
「聞かぬ方がいいかものぉ~」
「そうか」
最年長が言うのであれば、今目の前に広がっている光景は全て見なかったことにしよう。
辻間と西行が楽し気に拷問している姿は見ていない。
さすがに木幕が来たのでやめた様だが、船橋は既に死んでいる。
まぁあの性格ではここで何か問題ごとを起こすだろうなと予測していたので、大して驚きはしなかった。
ここで生き返って何をしてくるかは分からないが、とりあえず放置でいいだろう。
「それはそうと、ようやく見つかりましたね。まさか生き返っているとは思いませんでしたが」
「ああ、そうだな。それと津之江。これからはお主が過ごしていたローデン要塞へと向かう。お主には様々な事を聞くかもしれぬ」
「それは構いませんよ。ですがまず木幕さんがここを自由に出入りできなければなりませんね」
「うむ。そこが問題だな……。しかし今回も侍に会わずに来たので何とかなると思うが……」
勿論根拠はない。
しかしここに来る時間が短くなっているのは事実だ。
もう少しすれば自由に出入りできる可能性もある。
望みは薄いのだが。
とりあえず木幕は彼らの輪の中へと入る。
役者が揃ったことを確認した沖田川は一度手を打って音を鳴らした。
「さて、軍議じゃ」
「む? どういうことだ?」
「儂らもお主の手助けをすると言っておるのだ。ローデン要塞へと向かってもまだ兵力も居らぬだろう? 相手の情報も集まっていないのだ。まずはそれを調べなければならないぞ?」
「ふむ、それもそうだな。急ぐだけでは後手に回るか……」
ローデン要塞にいる兵士たちは、質は良いが数が少ない。
恐らくあの場にいる兵力だけでは、柳の操る魔王軍と戦ったところで勝つことは絶対にできないだろう。
ただ純粋な兵力不足。
それに敵の情報もない。
魔王軍は異種族からなる軍団だ。
魔物と呼ばれる兵士が多くいる。
それらの情報は、最近冒険者ギルドで仕事をしていない木幕にとっては未知の領域。
そしてそれは、この場にいる者たちも同じである。
「
「当てはある。それは可能だ」
「では後は、その兵士たちの中から魔物に詳しい人物を探してみるのがいいでしょう。できれば対峙したことのある者がいいでしょうね」
「ふむ……バネップが来ればいいのだが……」
「あ、ローデン要塞の元勇者さんなんてどうです?」
「メディセオ殿か。逸材であるな」
彼は木幕からしても、勝てそうにない相手だった。
味方だからよかったが、恐らく葛篭とだけ良い勝負をする事だろう。
そんな彼は魔物のことをよく知っている。
だからこそ動くことができ、相手を屠ることができるのだ。
今思えば、この旅は柳と戦う為だけに用意されていた布石なのかもしれない。
これから来た道を戻り、彼らに声を掛けて行くことにしよう。
魔王が動いているというのだ。
全世界共通の敵を前に、渋るということは絶対にしないだろう。
もしかしたら既に向かっているかもしれないが、そうなっていても問題はない。
協力してくれているのであれば、ローデン要塞で合流することができるはずだ。
あと協力してくれそうなのは……。
マークディナ王国の孤高軍、アテーゲ領の海賊と海軍、ライルマイン要塞のウォンマッド斥候兵だろうか。
自分のために行動はして欲しくない孤高軍だが、これは人間たちのためだ。
それであれば彼らも動いてくれることを信じる。
都合のいい話ではあるが、ローデン要塞は圧倒的な戦力不足だ。
他の国からも援軍が来るかもしれないが……。
「
「なんだ?」
「ローデン要塞に兵力を向かわせる……。っつーこと自体が、罠な
確かにその可能性も捨てきれない。
だが木幕は柳の戦い方を知っている。
彼はその様な
「確証はあるのかえ?」
「ない。だが某は殿を信じる」
木幕のその言葉に、忍び二人が首を傾げた。
「戦だってのに相手を信じるって、よく分からんぜ木幕よ」
「僕も同じ意見です。準備期間なんて無視して実地調査した方がいいのではないですか? まぁこちらが不利なのに変わりはありませんが」
二人は戦に勝利することを目的とした行動を常にしてきた者たちだ。
確かに木幕の話には異を唱えるだろう。
言ってしまえば理解不能だ。
相手のことを知らないのであればまずは調べる。
その後に彼らがされて一番嫌なことを見抜いていく。
弱いところを攻め、必要であれば策を講じ、勝率を何割も上げていくのが戦だと考えている。
相手を信じることに何の意味があるのか、心底理解できない。
だがその二人の反応も頷ける。
しかし木幕には、この戦を侍が始めるにあたって何か大義名分が必要だと考えていた。
だから柳は各国に宣戦布告をし、兵をわざと集めさせた……。
「恐らく、この初戦は侵略ではない」
「侵略ではないだって? じゃあなんだよ」
「それを聞きに行くのだ」
「肝心なところが分からずじまいかよ」
詰まらなさそうにおどけた辻間は、どっかりとその場に胡坐をかいた。
それに続いて西行も静かに座る。
「ま、相手が動かないのであれば、まだ分かんないことも多いですし、情報収集と兵力の増強を優先するべきですね」
「
葛篭に呼ばれて見てみれば、彼らは綺麗に並んで座っていた。
上手に葛篭と沖田川が向かい合って座り、その隣には津之江と石動がいる。
そして最後に、下手に移動した西行と辻間が向かい合って座りなおした。
彼らの意図を汲み取った木幕は、上手へと移動する。
服を正し、背を正し、静かにその場に座った。
「軍議か」
「先ほども言ったが、助太刀しよう。皆、今まで黙っていたが、お主の目的は成就されるべきだと思っておる。儂らはこの世にとって
「わても同じだ。手前はわてよりゃ弱いが、志しはわてより遥か上を
上手に座る沖田川と葛篭がそう言った。
彼らはここから木幕を見守り、彼の意志を知っている。
神を討つ。
数多もの侍の魂を悪戯に持ち込んでいるあの神を倒すことに、誰もが同意した。
その為にも、まずはこの戦に勝たなければならない。
「初めはまた弱いお方が来たかと思っておりましたが、私は貴方に負けました。自慢ではないですが、私を負かしたのは貴方が最初の一人でした。私もまだまだですね。なので、ほんのひと時ですが、貴方に仕えてその成りを見てみたいと思います」
「おいはそんな綺麗ごとは並べられないだべが、ただ協力したい。おらを最高の鍛冶師にしてくれた木幕殿に、恩を返したいだべよ」
それぞれの内にある想いは別々だ。
だがそれでいい。
各々が個を表に出しているからこそ、楽しく、面白く、そして嬉しいのだ。
「俺は槙田の兄貴のために手伝うって感じだな。だけどあの兄貴を負かした木幕にも興味はある」
「確かに。ここに来てから何故かこいつと馬が合うようになりました。槙田様を打ち負かした木幕殿は、僕たちを従える権利がある。強者こそが生き残る。そして勝利を掴み取る。僕たち忍びは、負ける戦には参加する気はございませんので」
その場にいた男は、胡坐をかいて拳を地面に着けた。
女は両の手をそっと地面に置く。
全員が軽く頭を下げた。
『我ら一同、木幕様の家臣となりて戦いましょうぞ』
「良いだろう」
座ったまま、全員が武器の鯉口を切った。
日本刀を持っていない津之江と石動と辻間は、小刀の鯉口を切る。
全員が柄頭と叩いて納刀し、チンッと音を立てた。
簡略もいいところではあるが、何もしないよりはいいだろう。
静かな空気が一拍流れた。
そこで葛篭が口を開く。
「ま、口調は
「台無しだべよ」
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