10.8.軍議


 軍議が始まった。

 今この場にいるのは七人。

 木幕善八、沖田川藤清、葛篭平八、津之江裕子、石動伝助、西行桜、辻間鋭次郎だ。


 船橋牡丹は未だ再生に時間をかけており、一向に起きる気配がない。

 彼女が参加したとしても、まともに話はできそうな雰囲気はないのでこのまま進めることにする。

 木幕がいついなくなってしまうか分からないのだ。

 できる範囲で今の状況を確認、そして今後の行動や最悪な状況、持っていくべき状況を打算しておく必要がある。


「では今の状況を確認しようかの」

そっがそれがええいい


 沖田川の言葉に全員が頷いた。

 ほとんど理解してはいるのだが、ここで再確認することにする。


「現在、柳格六という侍が魔王軍を従えておる。恐らく彼は儂らとは違う本物の侍じゃ。木幕と同じような、の」

「加えて相手の兵力は未知数。獣や魔族……でしたか。それらを従えているとなると、こちらも奇術での戦術を考慮した戦い方をしなければならないでしょうね」

「津之江の言う通りじゃが、それは後で話すとしよう。まずは現状の確認を」


 そう言って、沖田川は指を四本立てた。


「敵方が行動をするのは二ヵ月後というのが一つ。合戦の場所は津之江の居たローデン要塞であり、籠城戦を重視した戦い方になるというのが一つ。兵力が圧倒的に少なく、二ヵ月で集められる兵には限りがあるというのが一つ。敵の種類がまったくの未知数だというのが一つ……。儂が思いつくのはこれくらいじゃが、他の者はどうじゃ」

「わてん目線で言やぁー言えば、攻城兵器の種類、防衛設備もよー分かっとらん。移動手段なんかもだんなぁだなぁ

「おいからは武器の種類だべ。武器によって戦い方が変わってくるのは、多分おいより皆の方が詳しいとは思うだけど……一応」

「私からはローデン要塞の領地に関してのことを。あそこは過酷な環境下が故に兵力が少ない。代わりに一人一人の質がいい。それによって領民が少なく、町を大きくすることはしていませんでした。なので大軍を入れることのできる土地がないと思われます」

「俺は奇術についてだな。人間も使えるってことは、魔物も使えるんだろ? そんな話を何処かで聞いたぜ。奇術兵とのやり合いは避けてきたから、詳しくは分からねぇんだが」

「僕からは他の土地の情報について知りたいというのがあります。まず地の理で負けていてはこちらが圧倒的に不利です。ローデン要塞にいる者たちは分かるでしょうが、戦場はそこだけとは限りません。他の土地の情報も仕入れるべきかと」


 話を要約すると……。

 二ヵ月後に魔王軍が行動を開始する。

 その本陣はローデン要塞前なので、そこでの合戦が想定され、戦闘方法は籠城戦が主体となる可能性が高い。

 国同士の距離が遠い為、満足のいく兵力を二ヶ月で徴集するのは難しい。

 今回の敵は魔王軍であり、異形なる存在が多いので敵方の戦い方が分からない。


 味方攻城兵器、要塞や城の防衛設備の情報不足。

 加えて移動に使用する馬車や荷車の使用経路。

 武器の種類で戦闘の形式が変わる可能性があるので、兵士の特徴の把握をしなければならない。


 ローデン要塞は他の国に比べて小さく、ここ数十年は一つの大きな城門で魔王軍の侵攻を防いできた為に、兵力も少なく実働部隊がほとんどいない。

 動かせるのは兵士ではなく冒険者となるだろう。

 国の大きさが小さいので、これから集まってくる兵士を受け入れることができるか分からない。


 奇術は多種多様だ。

 どういった環境下で効果を発揮するものがあるかの把握にも努めなければならないだろう。

 最後に地理。

 兵士の移動時間も考慮するのであれば、様々な場所の地形を把握するのが良いだろう。

 それにローデン要塞で勝つことを目的に動くとはいえ、最悪の場合もある。

 突破されたことについても考えておかなければならない。


 以上が現状である。


「ふむ……この世についての情報がほとんどない、か……」

「まぁそれは仕方がねぇだろ。俺たちの居た世とはまったくちげぇんだからな」


 ここに居る彼らが知っているものは、生活に必要な知識がほとんどだ。

 必要以上のことは学ぶ必要はなかったし、このような大戦とは無縁だと思っていた。

 何か目的がなければ、覚えようとは思わなかっただろう。


「とりあえず、この世のことについては保留じゃ。分からないことは後で情報を集めるのじゃぞ木幕」

「承知している」

「では、今の状況でも解決できそうなことを考えて行こうかの。まずは兵力についてじゃ」


 そこで津之江が手を上げる。


「以前魔王軍が攻めて来た時ローデン要塞の兵力は割り出されています。確か千八百程度だったかと」

「某が兵の配置を采配した。津之江の言っていることは合っている」

「千八百……」


 ローデン要塞の総戦力は千八百だ。

 領民も合わせればもう少し多くはなるのだが、今回は戦えない人物を頭数にいれるのは止めておこう。

 彼らの避難も考えておかなければならないのだが、それはもう既に行われているかもしれない。

 ローデン要塞にいるであろう人物の采配に期待することにする。


「援軍に来れるとすれば、ルーエン王国とミルセル王国……。それとライルマイン要塞であるな。もしかしたらリーズレナ王国も来るかもしれんが」

「二ヵ月だらばだったら、確かにそれくらいだらなぁしかないよな

「どれだけの兵力が集まるか、木幕殿は分からんだべか?」

「国の大きさでしか判断材料がなかった。だがリーズレナの勇者であれば絶対に来るであろうな……」


 懐かしい顔を思い出す。

 今頃どうしているだろうか?

 もしローデン要塞で再会できたのであれば、酒を酌み交わしたいものだ。

 そんな余裕はないかもしれないが。


 ルーエン王国は必ずと言っていい程来るだろう。

 何せあのバネップがいるのだ。

 戦闘好きの老いぼれが出張ってこないわけがない。


「あとは……孤高軍じゃったかな?」

「うむ。彼らにも協力を仰ぐつもりである。……都合の良い話ではあるがな……」

「どんな形であれ、あの子たちはお主の為になるのであればと、馳せ参じてくれるじゃろう。神よりもお主に恩義を感じておるのじゃから、もう少し信じてやれい」

「そうであるな」


 彼らであれば、必ず助けになってくれる。

 今回は木幕の私情とはわけが違うと、彼らも納得してくれるかもしれない。

 そもそもあの事を話しているのはマークディナ王国にいた孤高軍三強の一人、ローダンしかいないのだが。


「とはいえ、これではどれだけの兵力が集まるか分かりませんね。すべての国を知っているのは木幕さんだけですし……」

「某も国のすべてを知っているわけではない。兵力はその時にならなければ分からないだろうな。兵力が分かれば、戦法も変わる」

「ですねぇ……」

「木幕殿」

「なんだ、石動」


 ひょいと手を挙げた石動に、全員が振り向いた。


「アテーゲ領の海賊は数が分かってるだ。あいつらはどうするべ?」

「それなのだが……」

「ああー……難しそうですねぇ……」


 ライルマイン要塞よりも遠い場所に点在している領地なので、普通に大地を歩いていくのであれば二ヵ月までにローデン要塞へは到着しないかもしれない。

 だが海を使えば予定よりも早く着くだろう。

 しかし……その海がローデン要塞にはないのだ。


「そうだったべかぁ……」

「あいつらはどうするのか、それも聞いておいた方がいいな。どの道寄ることになる場所だ」

「うむ。兎にも角にも、四つの国が兵を出してくれるのじゃ。半端な数にはならぬじゃろう」


 沖田川の言う通り、兵士の数は馬鹿にならないだろう。

 だが魔物の軍勢と戦えるだけの兵力を揃えることができるかどうかは、分からない。

 そこでローデン要塞の大きさが問題になってくるわけではあるが……これは臨機応変に対応していなかければならなさそうだ。


「詳しい兵力が分からぬ以上、話はできんかったのぉ」

「そんことも含めての確認だらーけぇだからよからぁ別にいいだろうんだらばじゃ、次は奇術の話しょーかしようか


 葛篭は辻間を見ながら、そう言った。


「え、俺?」

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