9.14.対峙、フレアホーク


 フレアホーク。

 炎を操ることを得意とし、体から発せられるその熱量は大地を焦がす程の高温である。

 飛び回ることにより体の熱を上昇させ、口から噴出される火球は掠っただけでも大火傷となるだろう。


 そんな危険極まりない存在が、自分たちを狙っているのだ。

 何とかしなければならないのだが、どうやって対処すればいいのかまったく分からない。

 魔法が斬れるこの薙刀でもどこまで捌けるか分からなかった。


「スゥちゃん! とりあえず師匠から離れるよ!」

「っ!」


 任せられたのだから、最低限こちらに注意を引かせる必要があるだろう。

 近場に落ちていた小石を投げて注意を向けさせる。

 フレアホークはすぐにこちらに気が付いて急降下してきた。

 マズいマズいと思いながらも、とりあえず木幕から離れて安全を確保する。


「フレイン」


 船橋がそう呟いた。

 するとフレアホークがぴたりと止まり、木幕の方をゆっくりと見定める。

 標的を変えたフレアホークは、レミとスゥを無視して向こうへと戻っていってしまった。


「うっそでしょ!?」


 一早く現状に気が付いたレミは踵を返して木幕の隣りへとがむしゃらに走っていく。

 だが飛んでいる方が圧倒的に素早いため、先制攻撃を許すことになってしまった。


 フレアホークは口から零れ出る炎を一つの塊にして、木幕へ向かって吐き出した。

 その火球の速度は素早く、レミの現在地からでは斬ることができない。

 木幕に向かって叫ぼうとした時、彼の足元の地面が隆起してその火球を防ぎ切った。

 だがその地面は赤く熱されており、防いだと同時にボロボロと崩れ去ってしまう。


「スゥちゃんナイス!」

「っ!」


 いつの間にか獣ノ尾太刀を握っていたスゥは、奇術を発動させて木幕を守ったのだ。

 それを予想していたのかは分からないが、木幕は船橋から一切目を離すことがなかった。 


 初撃を防いでもらった後、レミは木幕の側によってフレアホークを睨む。


「師匠すいません。今回は一緒に戦うしかなさそうです」

「……だな。背中は任せるぞ」

「了解!」


 戦いの盤面が完成したところで、船橋も本腰を入れて構えた。

 接近と遠距離からの攻撃。

 彼女とフレアホークはどうしたことか連携ができるらしい。

 今の一撃でそれを看破した木幕は、小さく舌を打って厄介な敵だと呟いた。


 恐らく、これが彼女の奇術だろう。

 普通であれば木幕も奇術で対抗するのだが、今回は魔物が魔法を使っているだけだ。

 船橋が使っているわけではない。

 なので、木幕は奇術を使用しない。


 彼女は持てる技のみで自分と本気で立ち合おうとしているのだ。

 であればそれに応えるのが男というものである。


 しかしフレアホークが厄介だ。

 まずそちらを始末しようかと考えた瞬間、船橋が突っ込んできた。

 それと同時にフレアホークも火球を放つ。

 ヌシもろとも攻撃するつもりらしい。

 何を考えているのだと困惑しながらも、まずは目の前の攻撃を受ける。


「よっ!!」


 隣ではレミがその火球を霧散させた。

 こちらは問題がない様だが、なんともやりにくい戦いだ。

 剣技に集中していると、奇術はうまく使えない。

 それを船橋は看破しているようだった。


 鍔迫り合いにて、双方が睨みを利かせる。


「今まで戦ってきた人も、剣術と同時に奇術は発動させなかった。できないんでしょ?」

「……女子のくせにやりおるわ」

「女子、女子って……僕は女じゃない!」

「なるほどな」


 バチィッ!

 隣でまた火球が霧散したのと同時に、力を弾き合って鍔迫り合いから連撃に持ち込む。

 攻撃を止めると奇術を使われるということが分かっているのだろう。

 確かにこのままでは奇術は発動できない。


 であれば。

 木幕は葉隠丸を握る手に力を籠める。


「葉我流剣術陸の型、樹雨」


 上段から相手の攻撃を尽く叩き落す。

 向こうが攻めに転じるのであれば、こちらもそれと同じく奇術を捨てて真剣勝負へと戦い方を変える。

 使えないのであれば使わない。

 そう判断することによって乱れがなくなり、剣術の制度がさらに上昇する。


「そいやっ!」

「ギュワアアア!!」

「うへぇ……気持ち悪い鳴き声……」


 レミは火球を尽く潰して木幕を守っている。

 こちらから攻撃ができない以上、こうして守りに徹するしかない。

 今はこれで何とかなるだろうが、フレアホークが行動を変更すると手が付けられなくなる。

 できるだけ早期決着をしてもらいたいと、レミは木幕に伝えた。


「いつまで持つか分かりませんのでよろしくお願いします!」

「任せる」

「任せ……? え、いや人の話を……っと! やぁ!」


 話をしている最中にも、フレアホークは火球を飛ばしてくる。

 遠くでは何が起きてもいい様に、スゥが地面に手を置いて警戒してくれていた。

 レミにそれに安心感を覚える。


 そのおかげか、ある程度冷静になって火球を霧散させることができていた。

 何度も攻撃を斬る内に、コツも掴めてきたのだ。

 斬るのではなく、叩いた方が霧散しやすい。

 魔法を霧散することができる武器とは凄いものだなと、今一度感心した。


「やぁー!!」

「はぁ!!」


 今まで続いていた連撃が、また鍔迫り合いの状態で止まる。

 何度か剣技を受けてみて分かったが、彼女は確かに鋭い剣筋を持っていた。


 男として育てられた船橋は、女性にはない強さが宿っていたように感じる。

 女だからと馬鹿にしていると痛い目を見るだろう。

 無論、木幕もそのうちの一人だった。


 ヒュバッ!


「むっ」


 鍔迫り合いを押し返した葉隠丸を振り上げた瞬間、その下を刃が通る。

 体には当たらなかったものの服を斬られてしまった。

 この世界で見繕ってもらったものなのでまだ服はあるが、こうして斬られるのは久しぶりだ。


 一旦距離を置こうと思ったが、彼女はそれを許しはしなかった。

 また大きく踏み込まれて鍔迫り合いで押されていく。

 身を引こうとしていたために、数歩足を動かして下がってしまった。


「シー……」

「ほぉ、これだけ動いて息を切らさぬか」

「なめてると死ぬよ……」

「お主もな」

「なに?」


 木幕は力の入れ方を変えた。

 その瞬間今まで押していた船橋の刀か簡単に押し返され、大きく弾かれてしまう。


「ぐ!?」

「炎鬼……!」


 葉我流剣術裏葉の型、炎鬼。

 槙田を真似た力技である。


 木幕には四人の師がいる。

 槙田、水瀬、西形と沖田川だ。

 彼らと戦って学んだ技術を、ここですべて発揮して見せることにした。

 

 成長する剣術。

 これこそが木幕が最も得意とする戦い方であった。


「参る」

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