9.12.土砂崩れ
一夜が明け、三人はまた山を登っていた。
一日休んだことで二人は元気になったようだが、レミは既に足に来ている筋肉痛に悲鳴を上げている。
だがそれも動けば治る。
今日で山頂には到着しそうだ。
何もなければ、ではあるが。
しかしこう何もないと逆に不安になってくる。
あの声は明らかに自分たちに殺意を持っているだろう。
熊もあの声の刺客だったとは思うのだが、一日に一回の襲撃というのは少なすぎる。
それとも使えるだけの獣が既にいないのだろうか?
そんな事を考えながらも、木幕は周囲の警戒だけは怠ることをせずに地面をしっかりを踏んで歩いていく。
最近は雨も降っていないので地面はぬかるんでいない。
それが幸いして歩きやすかった。
「スゥよ、大丈夫か?」
「っ!」
しっかりと後ろをついてきているスゥは、周囲の警戒までこなしていた。
スゥがいればほとんど警戒の必要はないのだが、やはり念のためしておいて欲しい。
それと彼女自身の経験に繋がる。
一方レミだが、ここまで歩き続けて肉体的疲労はあるものの、ようやく山の登り方を学んだらしく昨日よりは平然として歩いていた。
どちらかというと筋肉痛で悲鳴を上げている様だが、痛みは慣れるものである。
なんにせよ、今日は心配が要らなさそうだ。
そこで、違和感に気が付く。
「むっ?」
「っ?」
「スゥよ、何か感じないか?」
「?」
その違和感の正体は分からなかった。
しいて言えば何かに見られているようなそんな気配を察知したのだ。
だが周辺を見ても存在はいない。
スゥは獣ノ尾太刀の能力を使って索敵をして見るが、これといって何かがいるということはなかった。
その結果を首を横に振って木幕に知らせる。
「どうしたんですかぁー? って、すごい土砂崩れの跡ですね……」
追いついてきたレミは、周囲を見ながらそう言った。
そこは土砂がごっそりと抉れている場所だ。
土が抉れて崖になっている所から木の根っこが飛び出している。
だがそこがいい感じに道になっており、歩くことはできそうだ。
しかしこういうところの隣りを歩くのは怖い。
できれば違う道を進みたいと思ったが、抉れている範囲は大きくとてもではないが迂回はできそうになかった。
別の道も起伏が激しいので、比較的安全に進めるのはここしかないだろう。
「どうします?」
「お主らは葛篭の奇術はあまり見ておらんかったな」
「ん?」
「スゥよ、お主の獣ノ尾太刀で土を固定するのだ。ヌシが狙うのであればこの道やもしれんからな」
「っ!」
獣ノ尾太刀の能力は、土を操ること。
操れる範囲は広く、その速度も素早い。
獣ノ尾太刀を地面から出現させたスゥは、柄を握る。
そして能力を発動させて地面を固定した。
能力の使い方は獣ノ尾太刀が教えてくれるので、スゥは簡単にやってみせた。
意志を持っている刀というのは、経験を主に教えるようだ。
中々恐ろしい力である。
地面も固定して安全も確保したので、三人はその道を少し足早に歩いていく。
数十メートルの距離を抜けて安全そうな場所まで行ってからスゥは獣ノ尾太刀の能力を解いた。
コロコロ……ゴッドドドドド……!
「へぁ!?」
すると、後方から地響きが鳴って足元を大きく揺らした。
三人はしゃがみ込んでその揺れに耐える。
後ろを見てみれば先ほどの崖の地面が扇状に崩れて木々を巻き込み流れていく。
大小様々な石や枯れた木が跳ねまわり、下へ下へと転がっていった。
今しがたあの場所を歩いた身としては、身の毛もよだつほどの光景だ。
スゥが地面を固定してくれていなかったらどうなっていただろうかと想像するだけでも寒気がした。
「スゥちゃん……ありがとう……」
「っ、っ……」
「予想通りだな。さて、では急ぐとしよう。今日には山頂に着くだろうからな」
「切り替え早いですね……」
今頃ヌシは作戦が失敗したことに悔しがっている事だろう。
そう思うとなんだかその面を早く拝みたいと思ったのだ。
とはいえ、あの鹿の奇術はヌシが何かしら施した結果だろう。
あれが何匹も出てくるとなればさすがに厳しいかもしれない。
だがその場合は……。
「レミに任せるか」
「へ?」
「奇術を斬れるのはお主だけだ。頼りにしているぞ」
「うわぁお、まじっすかぁ……」
「っ! っ!」
「スゥちゃんの刀だと鹿が撃ってきたような大きな魔法だと斬れないかもね……」
「っ!?」
ショックを受けた様にスゥは目を見開いた。
だが確かにそうなのだ。
魔法が斬れることは確かめることができたのだが……実戦に使えるかと言われると微妙なところなのである。
それにスゥはまだ力がない。
なので刀にその力があったとしても力負けしてスゥにダメージが入る可能性がある。
あまり無理をして魔法は斬らない方が良い。
「スゥは奇術が斬れずとも、索敵と獣ノ尾太刀の奇術で役に立っいる。そっちの方で活躍するといい」
「~っ」
「私もそろそろ薙刀を常備しておきましょうかねぇ……」
確かにそれが良いだろう。
これからは山頂が近づくに連れて危険度は増していくはずだ。
そっちの方がありがたい。
「では頼むぞ」
「次は何が来ますかね……」
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