7.45.砂鉄採取!
二日間の休養の後、デルゲン海賊団一味と木幕一行は再び沖ノ島へと向かっていた。
航海も順調で波も高くない。
だがスゥは酔ってしまったようで、風の当たる場所で寝ていた。
出航時、木幕が美人を連れて来たと大騒ぎになったが、隣にいたスゥを見て誰もがしょんぼりした。
とんでもない誤解が発生したような気がするが、会話で無題に時間を浪費するよりはいいだろう。
ちなみに、スゥはしっかりと獣ノ尾太刀を持ってきてくれている。
さすがに地面から出て来た時は驚いた。
この刀の力には驚かされる。
「……にしてもデルゲン」
「なんだぁ?」
「……何だこの積み荷の量は」
木幕が目線を向ける先、甲板には数多くの物資が積まれていた。
山のように積まれているので視界すら不安になる。
よくこれで船が沈まないものだ。
デルゲン海賊団は宝石の売却が終わった後、すぐに砲弾やら修理道具やらの物資を購入しにいった。
釘、材木、修理道具に樽やロープ、医療品などの物資が予想以上に多く購入することができたのだ。
それをすべて乗っけてみたらこのざまだ。
だが経由するのも面倒くさいので、一回で輸送することにしたのである。
「買いすぎちまったぜ! はっはっはっは!」
「残りの金はあるのか?」
「いや実は使いきれなくてよ。持って帰ってきちまったんだこれが」
「い、いつもは使い切るのか……」
「ったりめぇよ! 貯金してても何にもならねぇからな!」
金は使って価値を見出す。
デルゲンはそう考えているらしく、基本的に宝を売って儲けたお金は一日で散財するためにあるものらしい。
なので羽振りがいいと部下からは思われているようだ。
部下全員分の宴会費用を持っても尚、まだ使いきれない程に金が残っているのだとか。
そこまで聞くとあの宝石にどれだけの価値があったのか気になるところだ。
だが教えてもらったとして、この世界に疎い木幕はそれを理解することはできないだろう。
「さ、そろそろつくぞ。準備しろ」
「ああ。スゥ、レミ。そろそろだ」
「~~……」
「分かりました。あれ、石動さんは?」
「向こうだ」
木幕が指した方向を見てみると、石動が積み荷を降ろす準備を手伝っていた。
どうやら明日には刀が打てることに気が付いて居ても立っても居られず、体を動かしているようだ。
あの体格だから元気は有り余っているのだろう。
次第に港が近づいてくる。
帆を上げて惰力のみで船を進ませ、タイミングよく錨を下ろす。
ほぼ完璧な場所に停泊した船にロープが投げられ、固定作業が始まった。
そして橋がかけられる。
ようやく荷下ろしの作業が始まるようだ。
「デルゲン。今日中には行けると思う。船を出してくれるか?」
「いいぞいいぞ! 船はどれくらいのがいい?」
「これと同じくらいので構わんよ。そんなに量は取れないだろうからな」
「分かった! じゃあこっちは準備しておくよ!」
「助かる」
帰りの船も確保したところで、木幕一行は山へと足を進める。
スゥはようやく陸地に足を付けて、大きく深呼吸をした。
地面に立ったことで船酔いから解放される。
だがまだ気持ちが悪い。
何度かせき込む。
それで少しばかりすっきりしたのか、顔色も良くなっているようだ。
砂地を歩いて着いてくる。
海賊たち数名に砂鉄を入れるための木箱を用意してもらい、それを荷車で持ってきてもらう。
ここを出発する前に準備していた事だ。
この木箱が一杯になるだけ集めれば十分だろう。
「っ?」
「どうしたの、スゥちゃん」
「っ!」
スゥは地面が揺れたのを感じ取った。
腰に携えている獣ノ尾太刀の鯉口を切ると、その揺れはその場にいる全員に伝わってくる。
急なことに驚いた海賊たちは不安げな様子だが、木幕たちは始まったと期待の眼差しで獣ノ尾太刀を見た。
次第に揺れが強くなり、地面から黒い砂が湧きだしてくる。
それはすべて宙を舞い、用意していた木箱の中へと入れられていく。
石動がすぐに反応して、木箱の中に手を突っ込んだ。
握ってみればそれは確かに砂鉄。
満足そうに握り拳を作り、大きく頷いた。
「獣ノ尾太刀! このまま頼むべ!」
ドンッ。
返事をした獣ノ尾太刀が、また砂鉄を集めていく。
こんなに簡単に砂鉄が採取できるのはこいつがいてくれるお陰である。
遠くの方からも砂鉄が地面を滑ってこちらに向かってくる。
獣ノ尾太刀は近くにあった砂鉄を採りつくし、遠くの方の砂浜からも持ってきていた。
次第に木箱が一杯になり、また違う箱へと入れられていく。
用意していた三つの木箱が一杯になった時、ようやく獣ノ尾太刀の採取作業は終了した。
山に入らずにここで採取できるとは思わなかったが、これですぐにでも帰ることができる。
「~っしゃかえるべー! デルゲーン! 帰るべよー!」
「はぁ!? はっや!!」
デルゲンは海賊たちにその場を任せ、もう一隻の船を準備しに走っていった。
もう帰るのかと、スゥは口元を抑える。
またあの船酔いと戦わなければならないからだ。
助けを求めるように木幕の方を見たが、申し訳なさそうな顔をして首を横に振られた。
今度はレミを見てみるが、彼女も同様に首を横に振る。
味方はいないのかと落胆した様子で肩を落とした。
「す、スゥちゃん大丈夫……?」
「~っ……」
「船酔いは……確かにきついからな」
船の準備が進められていく。
スゥはまるで処刑台へと足を運ぶ面持ちで、船に乗り込んだのだった。
案の定、酔って吐く羽目になってしまったのは言うまでもない。
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