7.17.下見
人の往来が激しい街の中は、相変わらず賑やかだ。
怒声を浴びせられたり、客を呼び込んだりと様々な人が仕事をしていた。
楽し気な音楽が街をさらに盛り上げる。
レミとスゥは通行人となり、目的地へと偵察をしに行っていた。
下見をしておかなければ情報は手に入りにくい。
なんせこの街は知らない場所だ。
地理が頭に入っていなければ立ち回ることも困難を極めることになるだろう。
とは言え、二人はこういう調査は不慣れだ。
どういう風に調べればいいのかあまり分かっていない。
それでもやるしかないので、考えうる必要そうな情報を、この下見で確認していくことにした。
まずはクリード・ラティシューの経営する奴隷商。
二日に一回奴隷を送り込んで来るくらいだ。
それ相応の大きな店なのだろうと予想していたのだが、実際はそこまで大きなものではなかった。
下級貴族が住まうような店で、他の場所と比べても大差ない。
しかし外で見世物のように奴隷が檻に入っているところを見るに、ここが奴隷商であるということは理解できた。
こんな小さな店が、石動の鍛冶場に二日に一回奴隷を送り込んでくるとは到底思えなかった。
見ていて気分がいいものではないので、レミはそそくさとそこを離れて遠目から観察することにした。
「あそこよね……」
「っ」
「あんまり儲かってはいなさそうな気がするなぁ……。本当に彼はここから来たのかしら」
殺さなかったあの犯罪奴隷を思い出す。
嘘をついていたようには思えなかったのだが……彼は二日に一回奴隷を送り込んでくるという情報を持っていた。
ここでその情報が手に入るということは、そう言った話をしていた場面に遭遇したか、それとも実際に見たのか……。
どちらかは分からないが、彼がここに居たということと、彼が持っていた情報の多さからして、ここで何か悪だくみが行われているということは間違いはないはずだ。
だがどうやって調べた物か、レミは難しい顔をして考えた。
奴隷を買いに行く振りをしてもいいかもしれないが、女と子供一人で入りたい店ではない。
「これどうしようね」
「っ!」
「え……?」
スゥは胸を張って手を上げた。
まだ字を完璧に書けるようにはなっていないので、こうしてゼスチャーで意志を表現する。
「スゥちゃんが調べるの?」
「っ!」
「だ、大丈夫かな……危ないよ?」
「っ! っ!」
「う~~~~ん……」
流石に「よし!」と言うことはできない。
スゥはまだ子供だ。
他の子供よりは強いとはいえ、大人と一人で戦える力はないように思える。
しかし、警戒されないという意味では適任だ。
子供の遊びとして中に侵入するのは容易だろう。
スゥに隠密スキルがあるのかは疑問だが、任せきるのはやはり気が引ける。
とは言えこれ以上にいいアイデアがある訳でもない。
他に何かあればよかったが、レミだけではこの情報収集はできそうになかった。
「じゃあ、予定として入れておこうね」
「ー……」
「まずは下見。逃げる場所とか確保しておかないとでしょ」
「っ」
確かにそうだと、スゥは納得したように頷いた。
人の出入りなどを見ていても、何か分かることがあるかもしれない。
できればこの辺に詳しい人に情報を聞きたいところではあったが……今は知人と呼べる人物はいなかった。
酒場で情報を収集してもいいかもしれないと、レミは考える。
そう言えば最近酒を飲んでいない。
村にいた頃はそもそも酒があまりなかったし、ルーエン王国のバネップからは酒を進められたが、あの時は飲まなかった。
あんな高い酒を公爵の前で飲めるわけがないのだ。
そう考えてみると、久しぶりに酒を飲んでみたい。
冒険者らしくしてみるのもたまにはいいのではないだろうか。
木幕がいないということも相まって、やってみたいという欲がどんどん膨らんでいく。
「よし、スゥちゃん! 今日の夜は情報収集を兼て外食だよ!」
「っ!」
あくまで仕事目的だと張り切るスゥと、久しぶりに酒が飲めると期待を膨らませるレミ。
だがまだ時間はある。
暗くなるまでは周辺を散策して情報を集めようということになった。
仕事はしておかないと、木幕が帰って来た時に怒られてしまう。
それだけは嫌なので、真面目なところは真面目に、遊ぶときは遊ぶとメリハリをつける。
しかし、今日は空振りに終わった。
奴隷商に出入りする人物は少ない。
周辺も散策して大体の地形は頭に入った。
本格的にスゥが索敵をしに行くことになるかもしれないので、この辺は入念にチェックをする。
あとは問題がなさそうだった。
できれば石動の鍛冶場に奴隷を向かわせる時に居合わせたいものだ。
その日は明後日だということは分かっているので、それに合わせてまた調べてみることにする。
とっぷりと暗くなったあと、レミは酒場を探して中に入ったのだった。
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