5.21.依頼を受けよう


 朝食は体温まるものであり、非常に美味しかったとその場にいた誰もがテトリスを称賛した。

 朝の料理を任せていた津之江も驚いたほどである。

 何をどうしたのかを詳しく聞いてみたりはしたのだが、今までと変わったことはしていなかったので何を変えたのかと聞かれても答えることができなかった。


 それが分かればこれからの料理にも繋げていけるだろうと、津之江はテトリスを励ました。

 何度か頷いたテトリスは、自分の作った料理をまた美味しそうに口に運び、何を変えたのかを吟味し始めた様だ。

 この調子であればもう言うことはないだろう。

 後は彼女次第である。


「さて、では何か依頼を受けに行くことにするか」

「ギルドはローデン要塞の入り口付近にあるわ。でも依頼はDランク以上のものしかないからね」

「左様か」


 ローデン要塞は魔物が多く出てくる場所。

 それ故に腕っぷしに自信もある者しかここには来ない。

 戦力としては普通の冒険者ギルドよりも格段に強い猛者共がここに住んでいることになる。


 ここは最前線。

 魔王軍が時々ここを落としに攻めてくるのだという。

 その名残がレッドウルフ。

 昔の戦いでの生き残りがこの森に棲み着いたらしく、今ではレッドウルフが多くこの森に生息しているらしい。


 だが滅多に姿を現すことはない。

 そもそもそこまで森の奥に向かう者が少ないのだ。

 過酷な環境での過酷な戦闘。

 好き好んで山の奥に向かう者は命知らずなのだ。


 そしてちょくちょく魔物がローデン要塞付近に降りてくる。

 ギルドは安全を考慮してその魔物たちを優先して討伐する様にしているらしい。

 なので簡単な依頼は、ローデン要塞の下町でなければないのだとか。


「手応えはありそうであるな。スゥ、行くか」

「っ!」

「だ、大丈夫ですか……?」

「某がいるのだ。危険はない」


 そもそもそこまで奥に行こうとは思っていない。

 今回はどちらかというとスゥの体力作りが目的である。

 雪山は体力を多く消費するので、体作りにはいい場所となるだろう。


 比較的簡単な依頼を受けてお金も手に入り、ついでにスゥの体力作りができるのだ。

 一石二鳥である。


「さて、泊めさせてもらっている礼だ。何か必要な物があれば取って来よう」

「お肉を所望します」

「……津之江さん? よだれ……」

「はっ」


 テトリスに注意され、すぐに手で涎を拭う。

 食べ物のことになると必死になってしまうらしい。

 だが好きな事を好きだといえることは良いことだ。

 それは女子の身でも変わることはない。


「分かった。では可能であれば狩って来よう」

「ありがとうございます」

「では、レミを頼んだ」

「はい、お任せください。レミさん、宜しくお願いしますね」

「はい!」


 今日の行動が決まった一同は、一斉に立ち上がる。

 店は昼から開くということなので、それまではレミの稽古。

 朝しか稽古ができないので、後は自主練という形でレミに薙刀術を教えるそうだ。


 簡単に覚えれるものでもないだろうが、基礎を知っているかどうかで色々変わってくる。

 教えを乞うてもらった後のレミとの模擬戦が少し楽しみな木幕であった。


「では行ってくる」

「~!」


 獲物を狩れるかどうかは分からないが、可能な限り探してみることにしよう。

 そう思いながら、二人は冒険者ギルドへと顔を出しに行った。



 ◆



 ローデン要塞の冒険者ギルドは石造りの建物であり、全体的に寒そうな作りをしていた。

 だが中に入ってみれば思いのほか温かい。

 よく見てみれば、石造りの壁に何個か黄土色に淡く光る石が入っていることに気が付いた。

 それに手を近づけてみれば、それが非常に暖かいことが分かる。


 石焼か何かなのだろうか。

 そう思いながらも、とりあえず依頼が貼り付けられている立て札へと足を運んだ。


 向かいながら周囲を確認してみるのだが、ここは冒険者の数が他の場所と比べて非常に少ない気がした。

 それに見た目からも分かるが、冒険者の質がいい。

 良い武器に良い武具。

 傲慢な態度をとっている冒険者は全くいないということも、それだけで理解できる。

 これだけ治安の良い冒険者ギルドも珍しい。


 立て札へとたどり着いた木幕は、一通り依頼を眺めてみる。

 すると、見事にC、Dランクの依頼がない。

 あるのはS、A、Bの三つだけだ。

 どれもこれも長期にわたる依頼の様で、誰もやりたがらないものばかりである。

 簡単な文字は読めるようになったのだが、勿論その内容までは分からない。

 だが長期の依頼には変わった印があるので、それを見て判断している。


 その中で、Bランクの依頼に一日で解決できそうなものが一つだけあった。

 文字が読めないので、絵だけで判断するしかない木幕だったが、そこには何かの動物が描かれていたのだ。

 これは恐らく討伐依頼だろう。

 何度か依頼をこなしていたので、なんとなくで分かるようになったのだ。


 すぐにそれを引き千切って受付へと持っていく。


「これを」

「はい。えーと、スノードラゴンの討伐依頼ですね。三匹討伐で依頼達成となります」

「場所は」

「ここから南に少し行った場所に棲み処があります。増えすぎるとこちらにはぐれた群れが来てしまう可能性があるので、適度に間引いていただければそれで問題ありません」

「承知した」


 やること自体は非常に簡単そうだ。

 ここから少し離れている様だし、スゥの鍛錬にもなるだろう。

 防寒具をしっかり着込み、スゥにも着こませてから出発することにしたのだった。

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