5.8.ローデン要塞


 朝からワイワイと騒いでいる冒険者ギルドで、大きな荷物が馬車に乗せられていた。

 クープ一匹に四つの馬車を繋ぎ、引いてもらう為に頑丈なロープを巻き付ける。


 これはローデン要塞行の馬車だ。

 残りの半分を持っていけば、物資輸送はとりあえず完了となる。

 既に帰国する冒険者は昨日の時点で帰ったらしく、宿はすっからかんの状態だった。

 後三ヵ国の物資が後に到着する予定らしいので、その準備も兼ねるらしい。


 この街でのギルドの一番の仕事はこの物資輸送だと言っても過言ではない。

 物流が途絶えた時点で、ローデン要塞は機能しなくなってしまうからだ。

 この時ばかりは、指導にも熱が入るらしい。


 馬車に乗り込むのはローデン要塞に行く予定のある冒険者、もしくは腕っぷしに自信のある者。

 これがほとんどだ。

 二人程クープを操れるギルドから派遣されている冒険者が出るが、それ以外は留守番となる。

 一番大切なのは持ってきてもらう物資を絶対にこの街に入れる事。

 そこからは何とでもなるので、経験豊富な人材はこの街に残しておかなければならないのだとか。

 この時期は尚更だ。


「よーし! 出発するぞ! 乗り込めー!」


 御者の号令で数人の冒険者が乗り込む。

 その中には木幕たちも入っていた。


 全員が乗り込んだことを確認した後、クープの耳を触って前進させる。

 のっそりとした動きだが、次第に馬車の重みに慣れて来たのか速度をどんどん上げていく。

 とは言っても人が軽く走る程度の速度だ。

 決して早いとは言い切れないが、一匹で四つの馬車を動かしているのだから大したものである。


 その速度は上り坂の道でも変わらない。

 とりあえず峠を越えるまではこのままだそうだ。

 こんな大きな動物に襲い掛かってくるような魔物はいないという事なので、馬車の中でくつろぐことにする。


「馬より良いな」

「確かに」

「っ」


 雪道だから揺れが少ないのだろう。

 これであればゆっくりすることができそうだ。



 ◆



 峠を越える直前、馬車が止まった。

 御者が全員降りて手伝ってくれと言ったので、とりあえず男は全員が降りる。


 どうやらここからローデン要塞までは殆どが下り坂になるようで、その勾配が少しきついのだという。

 なので今度はクープを最後尾にして、自重を支えてもらいながら下って行くことになる。

 その為暫くは人力で馬車を動かさなければならないのだ。

 とは言っても数メートルほどだ。

 できないことはない。


 素早い手際でクープに結んでいるロープをほどき、後ろに歩かせてからまた繋ぐ。

 冒険者全員が馬車を一つずつ動かしていき、斜面になっている場所に行くまで押し込む。

 少し行くとクープに結ばれたロープがぴんと張って止まるので、それを繰り返していく。


 中々重労働ではあったが、何とか全ての馬車を斜面まで持って行くことに成功した。

 後はクープと御者に任せておけばいい。

 もう一人の御者が一番前に立って馬車の進む方向を決めていくようだ。

 連結しているからこそできる事で、勾配が緩やかになればまたクープを前に出して牽引させる。


 だが、ここからが大変だった。

 急に吹雪はじめ、馬車が揺れる。

 前にクープが居ないので雪が踏み固まらない様だ。

 なので炎魔法で雪を溶かしながらまた進むことになる。


 ここに来た時よりはまだ優しい吹雪だが、御者曰くこれは優しい方なのだと言う。

 それを聞いて驚愕する冒険者一同を無視し、馬車を進めていく。


 ローデン要塞まで後二日。

 これを繰り返さなければならないのかと、この運搬に初めて参加する探索者たちは既に疲れているような表情を見せていた。



 ◆



 意気揚々と出発した時の元気は何処へやら。

 冒険者は疲労、魔力切れ、筋肉痛に苦しみながら、ようやくローデン要塞を拝むことが出来ていた。


 要塞の壁は分厚く、谷の間に作られている大きなものだ。

 遠めから見ているので詳しくは見えないが、強固なものであるという事は分かる。

 ここが魔物の進軍を抑える為の最前線。

 それを見て元気になった冒険者もいた様だが、やはり疲れているのか出発した時の程の元気は無かった。


 要塞の後方には街がある。

 決して大きなものではないが、冒険者がここの最前線で戦う分には十分だ。

 

 さて、ここに同郷の人物がいればいいと思いながら、また馬車に揺られるのだった。

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