4.60.墓
夜が明けて周囲が太陽の光に照らされて現状が映し出されていく。
数十人の黒い服を着た人物が転がっており、それらは全て兵士に頼んで回収してもらうことになった。
彼らの素性を調べるのも同時進行で行われるらしい。
あとは彼らが何とかしてくれることだろう。
今は……屋敷の隣に小さな墓を立て終わったところだ。
沖田川の遺体はレミの炎魔法で燃やした。
この世界でも火葬が埋葬の方法としてあるらしい。
全員が木幕と同じように手を合わて目を閉じる。
泣いている子供たちはまだいるが、それでも懸命に涙をこらえようとしている様だ。
だがその隣でライアは、何かを決心した様な顔をして一刻道仙を抱えていた。
今まで使用してきた日本刀を模した武器は、これまで通り常に持っておくらしい。
「線香でもあればよいのだがな……」
「せんこう?」
「ここには無いか」
すっと立ち上がり、その場を去る。
まだ肩の傷が残っているので少し痛いが、暫くしていれば治ることだろう。
だが……。
「では、ギルドに行きますよ」
「……」
「仕事じゃないですよ。怪我を治してもらうんです。私とライアさんも行きますから」
ギルドでは怪我をした者を治してくれる施設がある。
そこに行けば軽い怪我であれば完治できるのだ。
だが奇術での医療はなんだか抵抗があった。
今では自分の持っている医術に頼って魔物を倒していたので、怪我などは一度もしたことが無かったのだ。
とは言えこれではバネップとの約束を果たせない。
ここにはもう滞在する理由はないので、早々に出立する予定だ。
ライアにもギルドに行くことを伝えて、三人は屋敷を出た。
もう死体も片付けられ、兵士も撤収してくれたようだ。
子供たちに留守を頼んで出発しようとした時、屋敷の門の前に馬車が止まった。
「誰ですかね?」
「あっ」
「……何故ここに……」
馬車から出てきたのは、バネップの隣にいた執事のクレイン・デステンバルだ。
そしてリューナも降りてきた。
流石にバネップはいない様だが、二人はこちらに向かって歩いてくる。
「おはようございます」
「お、おはようございます!」
「えーっと……公爵家の使用人さんと執事さんが一体何の御用でしょうか……」
「ヴェ!?」
公爵と聞いて変な声を出して驚くライア。
これが普通の反応ではあるのだが……もう少し抑えて欲しい物だ。
コホンと咳払いをしたクレインが、ここに来た理由を説明してくれる。
「昨晩の事はここの土地を任されているバネップ様に報告されておりまして……。こうして様子を伺いに来たのですが、まさか貴方がここにいるとは」
「と、というか皆さん酷いお怪我をしているではありませんか! す、すぐに治しますので動かないでくださいね!」
小さな杖を取り出したリューナは、レミの近くに来て手をかざす。
「聖なる光よ、我を依り代に、傷を癒し給え。ハイヒール」
リューナがそう唱えると、レミが怪我をしているところがポウと白く光る。
すると見る見るうちに傷が塞がって行き、完全に怪我が完治したらしい。
手をを開いたり閉じたりして腕の調子を確かめる。
「す、すごい! そっか……だから公爵家で雇われているのね!」
「え、えへへ……そうなんです。つ、次の人!」
「僕!? いいの!? 大丈夫!?」
「ご心配なく。逆に木幕さんのご友人が怪我をされているのを見てみぬふりをすれば、バネップ様に怒られかねませんから」
「そ、そうなんですか……? じゃ、じゃあ……」
了承を得た後で、リューナの回復魔法がライアを癒す。
それによりジャンプしても大丈夫になったようで、深々と頭を下げてお礼を言った。
木幕は一度は断ったが、結局治されてしまった。
戦場でついた傷は自然に治すのが普通だったし、暫くはこの痛みを感じていたいと思ったが……感じていても仕方がない事だ。
いずれは治るものなのだから、今治っても後で治っても別に変わりはない。
肩の痛みが消え、所々についていた傷も消えた。
包帯を外して腕を回してみるが、痛みはない。
「かたじけないな」
「ど、どういたしまして! そ、そういえば……今度はいつお屋敷に来られますか?」
「うぅむ……もう行くか。バネップ殿も楽しみにしておるのだろう?」
「話が早くて助かります。では馬車へお乗りください。もう歳だというのにあれから毎日剣を振っていて困っていたのです……」
その調子だとなかなか死にそうにはないなと思いながら、木幕はもう一つの約束を果たす為に馬車に乗り込んだ。
勿論、レミとライアも連れて。
「ど、どうしてっ!?」
「諦めてください」
「なんで……?」
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