4.47.稽古②


 ウィリとウルスの指導を一度終えた木幕は、アネッサ、イータ、エンリム、ヨークの四人の指導に当たった。

 アネッサはこの中で一番年上の少女であり、よく子供たちをまとめてくれている子だ。


 ライアの指導を受けて様々な打ち込みをすでにしていたのだが、流石にまだ早い。

 その事をライアに説明すると、自分はこれくらいの時から打ち込みをしていたと言った。

 確かにそう言う流派もあるだろうが、打ち続けて強くなれるのであれば誰だって初めからそうするものだ。


「それに、お主はまだ未熟。分かったような口を利くでない」

「はぐほっ!」


 それを言ってしまえば木幕もまだまだ未熟ではあるのだが、彼よりは強いだろうしこれくらい言っても問題はないだろう。

 間違った知識を子供の頃から教えていれば、抜けなくなってしまう。

 現にライアもそうなのだろう。

 随分と綺麗な太刀筋に見えるが、時々我の筋が見て取れる。


 しつこく沖田川に叩きなおされていたのだろう。

 多少はまともである。


 という事で指導者交代だ。

 まずはアネッサがどこまでできるのかを知る為、普通に素振りをしてもらった。


 構えは申し分ない。

 握りも大丈夫だし、足、腰の落とし方まで立派にできている。

 しかし振り方は駄目だ。

 右手で振っている為に体が前のめりになってしまう。


 だが足捌きは問題なさそうだ。

 しっかりとすり足で前に進み、綺麗にピッと立ち止まる。

 直すべきは振り方だけだ。


 先程と同じ様に握りから説明し、振り方を教える。

 慣れていないが為に動きはぎこちないが、これをしばらく続けていれば形になってくるだろう。


「しかしアネッサ。剣を持つのは初めてではないな?」

「あ、はい! 藤清お爺さんが来てから、ライアさんの動きを見て真似していました……」

「どうしてそのようなことを?」

「他の子たちを守れたらいいなぁって……」

「ライアより筋がいいわけだ……」

「なん!?」


 見て盗むというのは教えてもらうよりも遥かに理解が深くなる。

 見て気が付くというのは難しい。

 それをやっていたというのだから、この子は大したものだと素直に感心した。

 頭を軽く叩いて「励めよ」とだけ言い残し、次のの指導に向かう。


 イータ。

 悪戯好きの少年だ。

 掃除の間にも結構さぼりを入れていたようなので、ここで思いっきり指導しておくことにしよう。

 とりあえず足捌きと木刀の振り方を見せてもらうことにした。


「せいっ! やっ! せいっ! はぁっ!」

「……ふむ」

「っ!? な、なんか悪かった!?」

「いや、面白いなと思うてな」

「へ?」


 すばしっこい、とでも言うのが正しいだろうか?

 足の踏み込みが他の子に比べて遠くに飛んでいる気がする。

 一見普通に見えるのだが、その違和感を木幕は感じ取った。


「ふむ、イータよ。できる限り思いっきり飛んで振り抜いてみよ。斬りやすい構えで構わん」

「え、うん。分かった」


 ぐっと足に力を入れたイータは、上段に構えて前に飛ぶ。

 左足で地面を蹴って右足が付くと同時に剣を振り抜いた。

 だが勢い余って左足が前に出てしまう。

 体勢を崩しかけたのをその左足でカバーし、右脇に剣を構えた。


 今のを見ていて分かったが、槙田の動きに近い足捌きをしていた。

 彼は間合いを詰めるのが非常に得意だった。

 一気に攻め寄り、その間に切り伏せる。

 飛ぶようにして前に出たイータは、その動きを真似できるのではないだろうかとも思う程だ。


 元々の身体能力が高いのだろう。

 それも足に特化している。

 故に……。


「よし、良い動きだ。では暫くは振りの修行だ」

「ぅえ!? 今の続けるんじゃないの!?」

「足はもう良い。次は攻めた時に切り伏せる為の握力、腕力、集中力、知識、判断を養え」

「僕だけ多くない!?」


 という文句は言いつつも、言われた通り普通の素振りを繰り返していく。

 悪戯好きの小僧ではあるが、割と素直なので可愛げがある。

 しかし掃除をさぼった事は忘れてはいけない。

 昼までに五百本の素振りを課しておいた。


「横暴だー!」

「難しい言葉を知っておるな。では追加で百本だ」

「なんでだよっ! クソー! 余計なこと言うんじゃなかった!!」


 嘆いているイータは放っておいて、今度は残りの二人を指導する。

 エンリムとヨーク。


「……」


 寡黙で一度も声を聞いたことのないエンリムだが……立ち姿は綺麗な物だ。

 これは期待できると思ったが、振り、足捌き、振った時の手の握りは絶望的だった。

 見掛け倒しもいい所だ。

 打ち込むときに膝が曲がりすぎで、肘も突っ張って、切っ先も地面に付いている。

 この子が一番時間がかかりそうだ。

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