4.29.対峙、クオーラクラブ
クオーラクラブを目の前にして分かったことがある。
蟹のような姿である為、直接叩ききることは難しい。
普通の大きさの蟹であれば問題ないが、なんせ人の背を優に超える化け物なのだ。
その甲羅の厚さも尋常ではないだろう。
とりあえずは小手調べだ。
あのような硬い物に葉隠丸を叩きつけたくないので、奇術を使う。
リザードマンとやらを倒したときと同じ様にして、葉を刀の軌道に合わせて動かしていく。
「はっ!」
幾重のも葉の刃がクオーラクラブに襲い掛かる。
流石に厳しいかと思ったが、ガガガガガガッという音を立てた後、バギッという音が鳴った。
よく見てみれば、先程葉を直撃させたところがぱっくりと割れていて、旨そうな蟹の身が露出していた。
この世界の蟹も普通に食べることができそうだ。
「グブクブクブク」
「割れたな。ならば数で攻める!」
攻撃が通るのであれば、やることは一つだ。
まずは機動力を殺すために十本ある足を全て攻撃していく。
葉はどんどん作り出すことができる為、無限の刃がクオーラクラブを襲って行った。
動きが遅いので、葉を何とかまき散らせようと一生懸命腕を振っているが、二本の腕ではそれを全て往なすのは不可能だ。
できるだけ関節部分を狙っているので、自らの足を攻撃してしまうなどという失態も何度も犯している。
相手が反撃に出ない以上、勝負はもう既に決まっていた。
三分もすれば全ての関節部位を破壊し、遂に腹を地面に突ける。
もう立ち上がることすらできないクオーラクラブの顔面を、葉の刃で貫いていく。
蟹なので生命力が強かったが、流石にここまで徹底的にやれば動かなくなった。
それを確認した木幕は、改めてこの奇術の強さを思い知る。
中距離で戦う事の出来るこの奇術があれば、大抵のことは何とかなるだろう。
しかしこれが無ければマズかったのは確かだ。
奇術なしでもこの世界を生き抜いていけるだけの力を身に付けねばと思いながら、葉隠丸を納刀する。
「おお、既に仕留めて追ったか」
「奇術のお陰ですぐに仕留めれた。やはり、奇妙な生物をこいつでは斬りたくないからな」
「うむうむ。さて、では早速鉱石を回収するかのぉ」
その言葉に頷いた木幕は、すぐにツルハシを取り出してクオーラクラブの背中に生えているクオーラ鉱石の根元を狙う。
パキンッと綺麗な音がして根元から取れた。
意外と柔らかい鉱石の様で、あまり力を入れなくても問題なく採掘できるようだ。
その調子で全てのクオーラ鉱石を回収していく。
一体の背中に生えている数は随分と多い。
それに加え、こいつは当たりだったようだ。
殆どのクオーラ鉱石が大きい。
手にもてない程の大きさの物は無いが、それでも一抱えほどある物はゴロゴロとしていた。
それを全て魔法袋に突っ込むのだが、まだまだ入りそうである。
一体どれだけ収納できるのだろうか。
「……む?」
「? どうした?」
沖田川がおもむろにクオーラクラブの体を触り始める。
体には岩がへばりつき、その下に甲羅がある。
だが彼は岩の方を重点的に見ている様で、何処から持ってきたのか金槌を取り出してそれを殴る。
コォン。
洞窟の中なので、音は良く響く。
それを何度か繰り返して、ようやく一つの岩を引っぺがした。
まじまじと見て、石とすり合わせる。
その断面を見て、ようやく目を大きく見開いてから声を出した。
「……おお! 良い石じゃ!」
「誠か!?」
それを聞いて、すぐに木幕もその岩を見に行く。
岩は見てくれこそまだ悪い物の、断面は外の色とは全く別の色であった。
青い洞窟であるのに、その色は白く見える。
真っ白な石なのだろう。
沖田川曰く、これは砥石としての運用を可能にしているらしい。
こんな魔物の体から取れるなどとは思っていなかった。
まさに
早速数を揃える為に、大きめの岩を掘るようにしてツルハシを振るう。
大きければ後で加工することが可能だ。
とりあえずは大きめの岩だけを採掘することにする。
この岩は中砥石として使うことが出来る物の様だ。
腕が良ければそれだけで仕上げの代用もできるのだが、これはあくまでも天然砥石。
どの様な性能になるのかはまだ分からない。
ひとしきり大きめの岩を採掘した木幕は、それを全て魔法袋の中に放り込む。
本当に便利な道具である。
今度何処かで見つけることができれば、購入しておくのもよさそうだ。
「よし、では……」
「うむ」
二人はクオーラクラブの身を手にする。
そして、がぶりと噛みついて咀嚼した。
その味は……。
「「……不味い」」
蟹は旨いと相場が決まっていたはずなのだが……この世界の蟹は、渋かった。
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