4.30.棲み処
もう一つの依頼を達成するべく、二人は奥へと進んでいた。
あれだけの数の冒険者が洞窟の前にいたというのに、出会ったのは先ほど会った者たちだけだ。
もしかしたらクオーラクラブが活発に動く時間を見計らっているのかもしれない。
またはその逆……。
だが人が居ないのであれば、自分たちの持っている奇術を存分に使うことができる。
巻き添えを喰らっても困るので、そこを考慮すれば有難い話だ。
しかし人がいないと本当に静かな洞窟である。
その分周囲の美しさが際立っている様にも思えた。
だが……一体この洞窟は何処まで続いているのだろうか。
あれほどまでに大きな蟹がいるのだから、洞窟自体の長さもとんでもなく長いはずである。
目的の場所を全く知らない二人は、とりあえず歩いていればつくだろうという甘い考えを後に後悔することになった。
何せ全くと言って水を見つけることができないからだ。
所々で水がしみ出している所はあるが、大きな湖の様な場所は一切ない。
端から端まで歩いていても埒が明かなかった。
さてどうしたものかと考えるのだが、やはり歩を進めていくしかない。
「沖田川殿は感知系の奇術は無いのか?」
「その様な物は無いわい。地道に探していくしか無かろうて」
「ふむ……一度戻ってこの洞窟の地図を探すのも手かもしれぬが……。あの門番に二度も鉱石を渡さねばならぬと考えるとこの一度目で探してしまいたいな」
「儂もそれには同感じゃ」
こういう時、洞窟内に冒険者が居ればどれだけ楽だろうかと思うが、無い物ねだりをしたところで得られる物などないのだ。
素直に周囲を警戒しながら洞窟を進んでいく。
その道中、沖田川は先ほどクオーラクラブから採掘した砥石を眺めては、どうの様にして加工するかを考えていた。
まずは平面を出さなければならないので、その道具がこの世界にあるかどうかから考えなければならないが、とりあえずは大工か鍛冶師の工房に行けば道具ぐらいあるだろうと思っている。
問題はそれをどううまく利用して加工するかだ。
最終的にはすり合わせによる平面を出すやり方になるのだろう。
だがそこまで行くのにはそれなりの平面を出しておかなければならない。
ノコギリで切るか、それとも蚤で慎重に叩いて割るか……。
「……荒砥石も見つけたい所じゃな」
「ふむ……あるだろうか?」
「個体によって有している砥石が違うやもしれん。あれより大きいのか、小さいのが居れば倒してくれぬか?」
「任された」
二つ返事で了承した木幕。
その可能性は考えていなかったので、とりあえず出てきた敵は全て倒すことにした。
動きからしてこちらまで攻撃が飛んでくる心配はなさそうなので、問題は無いだろう。
とは言え、あれから一匹も見つけていない。
あの大きなクオーラクラブは斥候の役割を担っていたのだろうか……?
ピチャン……ピチャン……。
「お」
「どうかしたかの?」
「雫が落ちる音がする」
今までに聞いた物よりもはるかに大きい雫の音だ。
向かう方向が決まったので、すぐにそちらへを歩を向ける。
暫くの間歩いていくと、大きな地底湖の様な場所に出てくることができた。
青く輝いているその湖は、所々から泡が浮いてきている。
ここにクオーラクラブは住んでいると聞いた。
そして、その水中の中にもう一枚の依頼書に書かれている鉱石が眠っている。
クオーラウォーター。
その様な名前のついている鉱石だ。
なんでも鉱石の中に水が入っているらしい。
大きさもまちまちではあるが、やはり大きいものほど高価になる。
どの様なものかはまだ見たことがないので分からないが、依頼書の絵によると指先に乗る程度の小さなものらしい。
指輪や小さな装飾に使われることが殆どなのだとか。
周囲を見渡して安全を確認する。
とは言え見えるのは地上だけだ。
水中にはどれだけのクオーラクラブが居るか分かった物ではない。
潜って回収してくるというのは至難の業だろうし、水の中で戦うなどできない。
「じゃ、儂の出番じゃな」
「頼む」
前々から約束していた事なので、年上である沖田川が率先して水の近くに歩み寄る。
腰から鞘ごと刀を抜いて、それを地面に当たらない様にしてしゃがみ込む。
指先を水面につけ、鯉口を切った。
バチチッ!
その瞬間、沖田川の体に雷が纏わりつき、指先を通って水中に流れていった。
湖全体が一瞬黄色く光ると、泡が遠くの方へと移動していく。
「倒すことはできなんだか。じゃが逃がす事は出来たようじゃの」
雷。
これが沖田川が有している奇術であるらしい。
彼は雷が湖に落ちた所を見たことがあった。
初めは落雷かと思って見過ごしたが、翌日になってその湖に行ってみると魚が腹を向けて浮かんでいる所を目にしたことがあったのだ。
落雷は天の怒り。
それと同じ力を有してしまった沖田川は大層驚いたが、今はそれも慣れた。
だが自分でもこの奇術を使うのは怖い。
万物全てを殺してしまう御業であったからだ。
使い方は様々あるのだが、流石に乱用してはならない物だと自分に言い聞かせ、その力は必要な時にしか使わないようにしている。
「さて、後は任せたぞ木幕殿や」
「うむ」
このような力を手にして大層委縮しているだろうと、木幕も感じ取った。
だがそれを口にする事はせず、葉隠丸の奇術を使って湖の底をさらうことにしたのだった。
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