4.23.井戸
作業開始から数十分後。
早速問題にぶち当たってしまった。
子供たち全員が、石で作られた井戸の中を覗き見ている。
スゥがポイと石を投げ入れると、暫くしてカラーンという音が帰って来た。
ここには水が溜まっていない様だ。
水が確保できない。
いや、実際には少し離れた場所に井戸があるのだが、ここからそこまで往復するのは大人でも重労働な作業となる。
子供では片道でへばってしまうだろう。
「お水無いねー」
「無いなぁ……。レミ姉ちゃん、これどうにかなんねぇの?」
「んー……長く使われてなかったからね……」
もしかしたらここは溜め井戸だったのかもしれない。
貴族が住んでいた屋敷なのだから、運び手はいくらでもいるだろう。
メランジェに話を聞いてみたいが、今子供たちを脅かしてもあれなので寝静まった後で聞くことにしよう。
水がないのは困った事なのだが、少し良かったと思える部分もある。
この井戸には昔毒が放り込まれたと言っていた。
干上がっているのであれば、既に毒の効力は失われている可能性がある。
ここを再利用しても、とりあえずは問題ないだろう。
だが念には念を。
運んできた水を一度この中にいれ、もう一度くみ上げてネズミか何かに飲ませてみることにした。
安全が確保できるまでは、ここでの水の使用は禁止だ。
「という事で、ライアさんお願いします!」
「ええ!? 今からですかぁ!?」
ようやく一人で低木一本掘り起こしたライアに鞭を打つ。
若い男性なのだから、これくらいの事は簡単にやってのけるはずだ。
全員の期待のまなざしを向けられ、断るに断れなくなった彼はすぐに水を汲みに行った。
三往復程してくれれば、実験することができるだろう。
しかし生活するにあたって水は必要不可欠だ。
ここが使えなかった時のことも考えておかなければならない。
壺などに水を入れておくのが良いかもしれないが、この人数だ。
一つでは足りないだろうし、そうなれば水を運搬する作業がどうしても必要になってしまう。
荷車などを使用できればいいとは思うのだが、この辺にそう言った物を借りる場所は見当たらない。
かと言って購入するわけにもいかないし、さてどうしたものかとまた頭を悩ませることになった。
ここはやはり彼女に話を聞いた方が良いかもしれない。
「ま、とりあえずやることやっちゃいましょう。さっ! ライアさんが水を運びやすいように、この辺も掃除するよー!」
「「「おー!」」」
掛け声と同時に、子供たちはしゃがんで草をまた刈り始めた。
根っこから取れる物は取り、そうでないものは男性陣に任せている。
この調子で行けば、今日中には草を刈りきることができるだろう。
芝生だった場所もある様なので、そこだけは少し草を残しておく。
今回重点的に刈り取る場所は、伸びすぎた物と石畳や門の付近、それか道に生えた物だ。
まだまだ時間はかかるが、これだけの人手がいるので大体は終わるはずである。
刈り取った物は一か所に集めて置いておき、しばらく放置する。
こうすることで枯れて萎む。
そうしてから燃やすといい燃料になるのだ。
この場所は寒いので、乾燥させる場所も選ばなければならないのが難点だが、使われていない倉庫に置いておけば問題ないだろう。
「ぜぇっ……ぜぇっ……!」
暫くしていると、ライアが帰って来た。
意外と早く帰って来たことに驚いてしまう。
だが、これを後何回かやってもらわなければならない。
「という事で宜しくね!」
「あれ……? 師匠にしばかれてるときよりキツイ……?」
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