4.22.新しい拠点
一気に移動するのは目立つ。
なので数回に分けて、子供たちを移動することになった。
それもつつがなく終わり、今はようやく全員が新しい屋敷に移動し終わったところだ。
だが、周囲には子供たちの背を優に超える雑草。
建付けの悪い門。
新しい家だとはわかっているが、その現状には口をあんぐりと開けて見守るしかなかった。
「さ! 掃除しますよ!」
以前の使用人が使っていた物が倉庫にあったようで、鎌やらクワなどをレミは準備していた。
しかしどれもこれも錆びている。
切れ味としては最悪なものになるだろうが、無いよりあったほうがましだ。
彼女は子供でも扱える鎌を手渡していく。
それからレミは子供たちに注意事項を説明していき、各々の担当する場所を決めていった。
とりあえず彼女に指揮を取らせておいても問題はなさそうだ。
以前までは村で一生懸命働いていたのだから、こういうのはお手の物なのだろう。
大人たちには大きな鍬や鋤を手渡された。
力仕事はこれでやってくれという事なのだろう。
実際に、庭に生えた木は根が広がっている。
これは別に放置してもいいだろうが、草に混じって手や鎌では取れそうにない太めの低木が生えていた。
これは取っておいた方が良いだろう。
「ふぅむ。これは研いだ方が良いのぉ」
「鎌の研ぎ方は知らんな」
「よいよい。力仕事は出来ぬから、こういうのは任せてもらおうかのぉ。おーいレミさんや。砥石はあるかのぉ?」
「てことなので、注意してくださいね。……え? 砥石ですか……?」
子供たちに扱い方を説明した後、レミはきょとんとした表情を沖田川に向ける。
何か変なことを言ったのだろうか。
二人が首を傾げていると、レミは腕を組んで悩み始めてしまった。
「流石に……無いですねぇ……。あんな大きい物、こんな所には必要ないですし」
「……はて? 砥石とはこれくらいの物なのじゃが……」
そう言って、沖田川は和綴じの本くらいの大きさの長方形を空中に描く。
それを見てああ、と手を打ち、懐から小さな石を取り出した。
「これですかね?」
「「……」」
思っている砥石とは全く別なものが出てきた。
確かに今レミが取り出した砥石には平らな面があるが、他の面は凸凹だ。
これでは砥石を動かして研ぐことになってしまう。
「レミよ。これは……なんだ?」
「え? 砥石ですよ? 小さなナイフとか、短剣とかはこれで研ぎます」
「こんなものでは……刃はつかんのぉ……。道具もないしで刀の手入れは殆どしておらんかったな……」
「某も失念していた……。しっかりとした道具でなければ研ぐことは出来んと思い、そのままにしてある……。すまんな葉隠丸……」
「すまん、一刻道仙……」
二人のテンションが一気に落ちていく。
こういう時どうすればいいのだろうかと、少し頭を悩ませることになってしまった。
それにしても何故こんなに落ち込むことがあるのだろうか……。
「て、手入れであれば鍛冶屋の人に任せれば──」
「「それはならん!」」
「っ!? あ、はいすいません!」
この人たちのプライドは一体どこから来るのか理解ができない。
しかし、このままではあまり良くない。
何かしっかりとした砥石を探しておいた方がよさそうだ。
とりあえずどんな砥石が必要なのかを聞くことにする。
すると、沖田川が応えてくれた。
「これくらいの長方形の石じゃ。全ての面が平らでなければならん。それか盛り上がるようにして反っていても良い」
「しっかり研ごうと思えば数がいるが、某はそこまで極めれておらん。刃こぼれが直せる程度である」
「えーっと……砥石車ってのがありますよ……? 足で漕ぎながら丸い砥石を回転させて、そこに剣を置いて研ぐんですけど……」
「そんな事をすれば、刃が焼けてしまう」
「ううむ、もしかしたらこの世には砥石という物がないやもしれんのぉ。いや、天然はありそうじゃが……」
「山に行く依頼でも見つけるか」
「採掘の方法も考えねばのぉ」
二人は作業そっちのけで、砥石の収集を始める様だ。
そんなもの、その辺にある石ころと何ら大差ないとは思うのだが、彼らの場合はそれに異常なまでの執着がある。
これ以上何か言っても、また怒られるだけな気がするので、話がまとまったら手伝ってくださいよとだけ言って子供たちと一緒に作業に移ることにした。
ここの片づけは一日二日では終わらないだろうが、子供たちも頑張っているのだ。
自分たちも頑張らねばと、腕をまくって気合を入れる。
シーラには中を担当してもらい、ライアには力仕事を任せて低木を撤去してもらう。
レミは子供たちの手伝いだ。
刃物を扱う危ない作業になるので、しっかりと見ておく必要がある。
あとで全員分の食料を買っておかなければいけないなと考えながら、鎌を持って草を斬った。
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