3.36.次の国へ……


 あの戦いから、一ヵ月が過ぎようとしていた。

 時間は割と早く流れる物だ。


 あれから二人は、この国での目的を達成するためにギルドに通った。

 服屋らしき場所で、木幕の着ている様な服を仕立ててもらったり、念願のレミの武器を作ることもできたのだが……。

 それにより、金が底をついてしまった。

 この国にはもう侍はいないとわかっていたのではあるが、金が無ければ旅は厳しい。

 なのである程度路銀を集めてから出国することにしたのだった。


 服はそれなりに良い仕上がりになった。

 生地が良く肌触りもいい。

 職人曰く、作るのは非常に簡単だったと豪語していたが、あくまでもこの世界での良い仕上がりだ。

 日ノ本の者と比べれば、雲泥の差である。

 それを口にするのは野暮だったので、適当に受け流して服を貰った。


 それと、レミの買った武器は槍。

 ここの鍛冶師は個人専用の武器を作るのが拘りらしく、全て特別性だった。

 なので作るのにも時間がかかってしまったのだが、どの様な武器の形が良いのかも決めれたので、ここだけは木幕が口を出して決定してした。


「ふんふん~」

「ご機嫌であるな」

「だって世界に一つしかない私の武器ですよ! 嬉しいに決まってるじゃないですかー!」


 レミは大切そうに槍を撫でて満足げな表情を浮かべる。

 彼女の持つ武器は槍ではあるが、この世界には二振りとしてない物。

 片刃で反りが付いており、持ち手は軽い木を使用しているが、その外を守るかのように薄い鉄が巻かれている為少し重量がある。


 薙刀。

 この世界ではこのような武器も槍と呼ばれてしまう様だ。


 斬る、突く、叩く。

 集団戦ではなかなか扱いきるのは難しい武器かもしれないが、その殺傷能力は高い。

 先が重い事により下段からの攻撃が主となる。

 足元から崩すこの薙刀は、扱いこそ難しいが優位は常にとれる武器であった。


 しかしここは日ノ本ではない。

 使っている鉄が違うのだから、どれだけ武器が耐えれるかは分からなかった。

 後はレミの器量次第だ。


 レミは薙刀を作ってもらってから、それをまるで娘の様に接している。

 大切にしようとしている気持ちが強く伝わってくるが、いざ使う時に躊躇してしまわない様、しっかりと教えておく必要があった。


 これからは木刀の稽古から、槍術の稽古に切り替わる。

 また何処かで木刀の代わりとなる棒を探しておかなければ。


「さて、レミよ。そろそろこの国から出れそうか?」

「あ、はい! 当てもないので、とりあえずここから一番近いルーエン王国に行こうと思っています」

「それはどの様な場所なのだ?」

「んー……とですねぇ……」


 それから、レミは少し言いよどみながらも、その国の説明をしてくれた。


「あんまりよくない所ですね……」

「と言うと?」

「リーズレナ王国にいた時、槙田さんと戦った場所がありましたよね。あそこってスラム街って言うんですけど、貧困層の人たちが身を寄せ合って暮らしている所なんですが……ルーエン王国はその規模が大きいみたいで……」


 ルーエン王国は、貧困層と裕福層の人間がはっきり分かれている国なのだという。

 冒険者になって金を稼ごうにも、一度貧困層の出だと知られればすぐにいじめられる対象になるのだとか。

 それに加え、貧困層の人々は総じて力が弱い。

 碌な物を食べれていないのだから、その日を繋ぐ食料を探すだけで精いっぱいなのだ。


 治安の悪い国だ。

 何処の国にもそう言った場所があるのは仕方の無い事かもしれないが……差別まで起きているとなると話は変わってくる。


「同じ人間だというのに」

「どうしてそんなことが起きているのかよくわかりませんけど、注意はしておいた方が良いですね。スリとかも結構出るらしいので……」

「盗られるでないぞ?」

「……あ! 気を付けなきゃいけないの私か!」


 今は全てレミに金銭の管理を任せているのだ。

 金目な物を持っていない木幕にとっては、そんな話は別にどうでもよかった。


 レミはすぐに財布を硬く縛り、懐に潜らせたうえで服に縛り付ける。

 これであれば盗られたとしてもすぐに気が付くし、そうそう盗られない。

 スリもナイフを持って器用に切り取りはしないだろう。


 準備も整った。

 後はこの国に来た時と同様、ルーエン王国行きの商人を探して護衛としてついて行くだけである。

 その辺は全てレミに任せてあるので、問題は無いだろう。


「……む? そう言えばレミよ。以前持っていた槍はどうした?」

「え? 売りました」


 容赦ないレミの言葉に、一瞬固まる。

 とは言えあの武器は主に捨てられた武器だ。

 そのまま持っていたが、いつかは手放せねばならないと思っていたのではあったのだが……。

 まさかこんな別れになるとは思っていなかった。


「……まぁ……よいか……」


 もう売ってしまったのであれば、戻っても来ないだろう。

 それに必要のない物だ。

 木幕は深く考えることを止め、次の国に行く準備をし始めたのだった。

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