葵ガ丘盲学校中学部は今…!

羽田光夏(はねだひか)

第1話「入学式」-1

  春の風は、とても暖かくて心地いい。

 雲一つない空とは、たぶんこのことをいうのだろう。

「新入生入場」

講堂の外で、入場のアイズを待っている俺たちの耳に、いよいよその声が飛び込んできた。

(よし、行くか)

俺は自分にそう言い聞かせると、前に立つ人の肩にそっと手を置いた。

「姫ちゃん、行くよ」

肩に手を置いて歩き出そうとした時だった。

 その肩の主が、誰かに向かって小声でそう言うのが聞こえた。

 その声を聞く限り、どうやらそいつは男のようだった。

(何だ、男かよ)

華やかな音楽と、大勢の拍手に迎えられながら席まで歩く俺は、そのことをちょっと残念に思った。

 じゃあかわいくて美人な女の子ならいいのか?と聞かれたら、べつにそうでもない。

 今肩を掴んでいるやつが、男であろうと、女であろうと、今の俺にはどうでもいいことだ。

 とりあえず、今はこの建物の中を安全に歩くことができれば、それだけで充分である。


 ここは葵ガ丘盲学校。

 駅からバスで約40分。市の中心地からは、だいぶ離れた街はずれに聳え立つ、でっかい建物である。

 盲学校とは、目が見えない人や、見えにくい人たちが通う学校である。

 今年の3月まで通っていた、地元の小学校の担任から事前に読んでもらった資料によると、盲学校というところは、幼稚部、小学部、中学部、高等部普通科、さらには高等部専攻科という針や、灸や、按摩士や、マッサージ士などの国家資格が取得できる理療科、ピアノや声楽などの音楽の基礎を勉強できる音楽科、さらにはパソコンを使っての事務処理などの基本が学べる情報処理科など、専門学校的な学科まであるそうだ。

 なので、下は幼稚園児、上は60代の大人の人たちが、同じ建物で一緒に給食を食べたり、体育祭や文化祭などの行事を楽しんでいるのだとか。

 そんでもって、今日から俺は、この学校の中学部に入学するというわけだ。

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