ピーターパンが居ないなんてとっくの昔に知ってるけど

@pipiminto

憂鬱に浸って大人になれない




パチン、パチン、パチン、パチン。

軽快なリズムで私の体に穴が空いていく。


パチン、パチン、パチン。


死にたくなる世界の縁でそれでも生きるために穴を空けていく。


手首を切るのも煙草の火で体を焼くのもピアスを開けるのも、私には大して変わらない。対外的に印象が良さそうなものを選んでいるだけだった。


右の耳に6つ、左の耳に3つ。お腹に1つにベロにも1つ。

親は私を叱ったけどそんなこと知ったことじゃない。


じゃあピアスはふさいで手首を切りますって側にあったカッターで躊躇なく手首に刃を立てれば親は泣きながらその場に崩れた。


なんで泣くのかわからなかった。


母は私の手を震える手で握りしめると絞り出したみたいな声で簡単に死のうとしないでと言った。父は生きたくても生きられない人が居るのだと説教した。


どちらも間違えている。


私は死ぬつもりなんてないし、そもそも死ねない。死ねるわけがない。死んだらどうなるの?もし死後の世界があったらどうするの?それとも無になるの?そしたら私は、何処へ行くの?


放課後、どうしてバイクを乗り回す頭の悪そうな連中とつるんでいるのか。どうしてわからないの?

バカで何も考えていない奴らだから気を使わなくていいのよ。笑顔を貼り付けなくていいの。


昔の私は、いつも誰かの顔色を伺って、自分を殺して、作った笑顔でのらりくらり過ごしていた。過ごそうとしていた。

でも無理だった。いじめのローテーション。昨日のいじめっ子は今日のいじめられっ子。昨日のいじめられっ子は今日のいじめっ子。


私の中学校では、それの繰り返しだった。

だから高校ではピアスをあけて、髪を染めて、イヤホンをはめて。外の世界をシャットアウトしようとした。


それのせいで今つるんでる連中に目をつけられてしまった時は死んだと思ったけど、話してみたら居心地がよくて居心地がよくて、びっくりした。


ここが私の居場所だと確信した。だから私はここにいる。ずっとここにいる。ずっとここに、いたい。


わかってる。リミットは迫っている。


私はもうすぐ高校を卒業する。


居場所が、なくなってしまう。

だから放課後はずっと奴らと過ごす。家にも帰らない。

ずっと、ずっと、ずぅっとここにいたい。



「ピーターパン症候群だな。」


「え?」


「ずぅっとこのまま子供のままいたい病気。」


「…ふぅん。治るの?」


「治してやろうか。」


「……いらなぁ、ん。」



唇が塞がれた。

バカな奴らのバカなリーダーに。


くだらない。



「こんなの、子供の遊びじゃない。」


「じゃあ結婚する?」



私を押し倒しながら奴は言った。

思わず笑いが漏れる。



「ちゃんと養ってくれるなら、いいよ。」


「春から親父の工場で働くし、任せろ。」


「ネバーランドに連れてって。」


「おう。」



なんてくだらない口約束。

トキメキも何もない。無意味な約束。


誰か、早く私を殺して。

ねえピーターパン。私を、ネバーランドに連れてって。




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