第202話 『その日、集合させた』

 錬金術の成果に満足を覚えた私は、遅くなり過ぎる前にフェリス先輩と別れて部屋に戻る。

 すると、中では大事な家族が待っていてくれた。


「「「「「おかえりなさい (なの/です)!」」」」」

「ただいまー!」

「ただいま戻りました」


 皆と個別にハグして頬擦りしてを繰り返して、半日ぶりの彼女達を全力で愛でたり甘えたりする。皆にし終えると、アリシアもして欲しそうな気がしたので、同じようにハグからの頬擦りをする。

 びっくりしたみたいだけど、耳の動きで喜び度が分かる。こっちは正直なんだから。カワイイなぁもう。


「今日も皆、お泊まりしてくれるの?」

「ええ、そういうことになったわ。どうせシラユキの事だから、今回も妙な物作ったんでしょうし、情報共有は大事でしょ」

「はい、シラユキ姉様が何を作られたのか、私とっても気になります!」

「気になるのー!」

「なるのです!」


 んもう、カワイイわねー!


「それに待っている間に思い出したけど、昨日作ってた物が何だったのか聞いていなかったし。ああでも、言えない様な物なら言わなくて良いわよ。気になるけど、あんたが黙ってるなら無理に聞き出したりしないわ」

「ソフィー……」

「そうね。だけどシラユキちゃんの場合は、言えなくて黙っているのか、ただ単に言うのを忘れてるのか、判断が付かないけどね」

「あー……。えへ」


 流石ママ。当然のようにお見通しだった。


「それじゃ、ご飯を食べながらゆっくり共有するね」

「お母様、気をしっかり持ってくださいね」

「ええっ!? そんなレベルの物なの!?」


 困惑するママと、皆の笑い声が部屋に響いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 結局その日は、尽きない話題に盛り上がり続け、皆一緒になって眠りについた。そして今日は日曜日。今日も今日とて予定はいっぱいだけど、それでも予定はお昼からだから、午前中はアトリエでのんびり過ごすことにした。

 ナンバーズにはそれぞれお使いという名の使いっ走り……いや、同じ意味かも? をお願いして、午後の準備をさせる。


 寮の裏庭に到着すると、そこには沢山のギャラリーがいた。

 どうやら、いつの間にか出来上がっていたアトリエの存在に、噂が噂を呼び何人も集まっていたみたい。けれど、私の姿を見て彼らは皆納得したみたい。

 シラユキちゃんの知名度というか、姿を見るだけで納得させる存在感というか。そういうのが知れ渡ってきているわね。

 まあまだ学園内限定だけど。


 いつかは王都……いいえ、世界中に認知させてみせるわ。


「シラユキ、今日は何するの?」

「うん、この前の約束通り、皆の専用マジックバッグを作ろうかなって」


 わっ。と、皆から歓喜の声が上がる。

 テーブルに布や毛皮、塗料に加え、魔物素材の鱗に糸に、鉱石類。それからインゴットと宝石類を並べる。


「それじゃ、ここから好きな組み合わせを選んでね。前にも希望は聞いたけど、それ以外にも追加の模様とかがあったら、分かりやすく実物か、紙に絵を描いて見せてね。それからアリシアとママは柄は任せるって言ってたけど、使う装飾品くらいは好きなの選んでいいからね」

「……ねえシラユキ。これから作ってくれるのはマジックバッグなのよね? 鉱石やインゴットは選んだとして、一体何にどう使うのよ」

「そういえばソフィー達には見せてなかったわね。例えばこの糸なんだけど、何か分かる?」


 精霊銀の糸を持ち上げる。細くても強靭で、魔法の通りの良いこの糸は、服に刻印を打ち込むにはもってこいだ。あと綺麗。


「……見たこともない素材で作られた糸、という事しか分からないわ」

「これね、元はミスリルなのよ。インゴットを極限まで薄くした結果糸にしたの。アリシアやママのメイド服の装飾なんかにも使われてるわ。この部分とかね」


 アリシアのメイド服を掴み、皆に説明をする。


「鉱石も、切り口次第では水晶のような結晶にすることも出来るわ。単独でアクセサリーにすることも出来るけど、鞄に付加させることで映えるわね」

「なるほどねー。でも素材から何まで好きにして良いって珍しい事なんじゃない? 今までシラユキが装備を作る時って、皆に聴いた限りだとシラユキがほぼ全部決めて作成してたらしいじゃない」

「それはそれ、これはこれよ。装備を作る場合は身の丈と、更には相性の良い素材を吟味して作製に取り掛かるんだけど、今回はマジックバッグだもん。お洒落するためだけに使う物なんだから、私が口出したりしないわ。装飾で何を選んでも性能に差は出ないっていうのもあるし、皆、自分の好みの物を選んでねー」


 皆が組み合わせにワイワイ盛り上がっている間に、私はベースとなる部分の素材の用意を始めた。マジックバッグの異空間部分を司っているのは、基本的に魔法と刻印の力がほとんどだけど、ベースに出来る素材はかなり限定的だ。

 でもありがたいことに、それらの素材は潤沢にある。私が殲滅し、アリシアが採取をした人喰いミミズ。マンイーターの胃袋だ。

 沢山ある幼生体の胃袋は最大で中サイズまで作れて、限りある成体の胃袋は大サイズまで作成出来る。

 そして錬金術で作れるマジックバッグは、性能を突き詰めればダンジョンでドロップする物よりも性能を高く出来る。最大で、容量が2〜3倍くらいにはなったはずだ。


 容量の少ない既製品の小サイズでも回せてこれたんだから、容量が大幅アップした中サイズさえあれば困る事はないでしょ。うんうん。

 けどアリシアには色々と、高レベルな狩りに付き合わせる可能性がある以上は、1つだけじゃ不安を感じるのも事実。

 前回は出てこなかったけど、一応上級ダンジョンのマップ次第では、幼生体も成体も、両方ともエンカウントする可能性はあるのよね。


 うん。

 それを考えると、成体の胃袋も温存する必要はあまりないわね。


「アリシア、よくよく考えたんだけど、中サイズは完全に私用にしてしまって構わないわ。ダンジョンで使う用に大サイズを2、3個作っておくわね」

「承知しました」

「初心者組も近いうちに中級への移動を検討してるから、共用の大サイズ1個作っておくねー」

「わ、わかったわ。ママが管理しておくね」

「うん、よろしくー」


 そうしてマジックバッグを中サイズを人数分。大サイズも4つほど量産し、それぞれ分かりやすく模様や絵をミスリルの糸で刺繍する。

 結局お揃いが良かったのか、それともミスリルだからか、装飾用の糸は全員ミスリルの糸で決まった。


 まずアリシアの私用バッグには、エルフの王国とその背後にそびえ立つ世界樹を模した絵を。

 ママの私用バッグには、今後作製可能な中で最も強くカワイイ弓と薔薇の絵を。

 リリちゃんの私用バッグには、賢者の専用杖と薔薇の絵を。

 ソフィーの私用バッグには、彼女が好きな柄がまるで花畑のように咲き誇る絵を。

 アリスちゃんの私用バッグには、彼女一押しの表紙絵を。

 ココナちゃんの私用バッグには、彼女の故郷を思い出して小狐達が走り回る様子を描いた。


 そしてダンジョン用の大サイズのマジックバッグには、スピカがそれぞれ「1」「2」「3」「4」と指を立て、吹き出し付きで番号を教えてくれる絵を描くことで差別化した。うんカワイイ。

 スピカに見せてあげると不思議そうにしていた。その表情もまたカワイイ。


 各種糸を駆使して絵にしてみたけど、こうして並べてみると良い感じの出来じゃないの? 皆もとっても喜んでくれたみたいだし、シラユキちゃんも満足だわ!



◇◇◇◇◇◇◇◇



 皆とお昼の時間までたっぷりとイチャイチャしたあと、ハッとなったアリシアから、神丸にもマジックバッグを作ってあげる約束をしていたことを指摘された。

 完全にド忘れしていたので、泥棒の風呂敷みたいな渦巻き模様が入った、適当な外装の緑色のマジックバッグを急遽作成しことなきを得た。

 絶妙にダサいけど、まあ神丸だし良いでしょ。


 そうして街で昼食を食べたのち、そのまま皆で王城へと赴く。

 目的地は第二騎士団の訓練場だ。


 いつもの様に王城前で待機していた子に案内されると、事前の報告が届いていた為か騎士団員達は8列に整列して迎えてくれた。

 そう言えばこの子達第二騎士団は、ミカちゃんを筆頭に3人の副団長がいて、さらにその下には8つの部隊とそれを取りまとめる部隊長がいたわね。


『ごきげんよう、シラユキ様!』


 その熱い大歓迎に、アリシア以外の子達は驚いた様だった。


「皆久しぶりねー」


 彼女達の呼称は、最初は『シラユキちゃん』だったけど、魔人や香油の件に加えてミカちゃんとの訓練を見せたあたりから『シラユキさん』に変わり出し、決闘での戦いの前後からは『シラユキ様』に格が上がったのよね。

 多分ミカちゃんと同じ、尊敬の念からだとは思うんだけど、私としては最初の『シラユキちゃん』が良かったなぁ。


「様なんて堅苦しいわ。最初のようにちゃん付けで呼んでくれてもいいのよ? というか呼んで欲しいわ。距離を感じちゃうもの」


 よくお話しする副団長の子をツンツンしながらそう言う。


「ですが、尊敬する方にそのような……」

「……だめ?」

「うぅっ……! わ、分かりました、皆にもそうするよう伝えましょう」

「じゃ、まずは副団長の貴女が手本にならなきゃね?」

「はい……シラユキちゃん」

「よろしい」


 そうこうしていると、こちらに猛スピードで近付く子が視界に入った。あれが誰なのかは、確かめるまでもないわね。


 彼女は全力疾走してきたにも関わらず、砂埃を上げずに停止して優雅に片膝をついた。


「ああレディー、来てくれて嬉しいよ」

「ミカちゃんったら、今日もカワイイわね」


 その忠犬っぷりを誉める様に頭を撫でる。そう言えばミカちゃんがこの距離にきても、アリシアは何も言わなくなったわね? もう許したのかしら?


「聞いたよレディー。私が留守の間も大活躍だったそうじゃないか」

「あら、ミカちゃんお出かけしてたの?」

「はは、聞いていなかったかな? 先日の決闘の後から騎士科の後輩達を連れて王都の外で演習をしていてね。戻ってきたのも昨日の夕刻だったんだ」

「そうなんだ? 香油は届けられたって事は割と近郊にいたのね」

「うむ。……レディー達になら言ってもいいだろう。以前、君が魔人と戦った平地を覚えているかな? あそこはあの時以来、妙な魔力が漂う場所になったらしくてね、魔物が集まりやすい状態にあるんだ。ちょくちょく間引きをしていたんだが、大規模になりつつあると報告が入ってね。後輩たちの育成も兼ねて討伐に向かったと言うわけさ」

「ほへー。大変だったのね」


 魔人の残り滓が悪さをしてるのかしら? 長く続くようなら私も調査しようかな。

 とにかく、もう一度ミカちゃんの頭を撫でる。ちょっと恥ずかしそうだけど、気持ちよさそうにしているわね。よしよし。


 ん? 騎士科の子達って事は、あの子達も?


 そう思っていると、数十人の騎士科生徒達がやって来た。

 彼らは一定の距離まで近づくと、私に向かって跪き、頭を下げる。


「シラユキ様。我ら『フェルディナント少年騎士団』、呼びかけに応じ参上しました」

「あらレオン君、いらっしゃい。さっきミカちゃんに聞いたわ、昨日まで演習をしていたんですってね。疲れていないかしら?」

「問題ありません」


 彼らレオン君率いる『フェルディナント少年騎士団』は、あの日の決闘以降私の配下の様な扱いになった。まあ私が彼らをそのまま放置しておくのは勿体無いと思い、装備を見繕ってあげたり戦力の底上げの面倒を見てあげようかなと思ったのだ。

 今回この場に呼んだのは、第二騎士団も実質私の配下みたいになったのだから、どうせ面倒を見るならまとめてやっちゃおうかなと思ってのことだった。

 まさか私が声をかける前に一緒に行動しているとは思わなかったけど。


「それで、えーっと。ドリル先輩はレオン君の付き添い?」

「そ、そうですわ」

「こいつは俺の身内なので。連れてきても問題はないと判断しました」

「そうなの、なら良いわ。ああミカちゃん、もう1人客を呼んでるからもうちょっと待ってね」

「レディーの頼みならいくらでも聞くし、いくらでも待とう」


 ニッコニコのミカちゃんがカワイかったので追加のなでなでをしてあげる。その光景をドリル先輩はなんとも言えない顔で見ていたけど、そういえばミカちゃんのファンだっけ?

 それは胸中穏やかではないかも。


 そうこうしている間に、待ち侘びた客がやってきた。


「おお、ここにおったか」

「遅いわよ神丸。契約した以上、呼ばれたのならさっさと来なさいな」

「すまぬが、王城には来たことがなかったのでな。道に迷ってしまったのだ。ところで、シラユキは今来たばかりとは言わぬのか?」

「気を遣ってそう言うのは、基本的に男側だけよ」

「そうなのか? 難しいものだな」


 全く、神丸は相変わらず神丸ね。


「さーて、全員揃ったわね」


 周りを見渡す。

 第二騎士団、フェルディナント少年騎士団、神丸、そして私の婚約者達。ふふ、せっかく作ったんだから、早く役立てたいと思ってたのよねー。


「それでレディ。私達を集めて、これから何をするんだい?」


 期待に満ちた眼差しでミカちゃんが尋ねる。


「まずは顔合わせね。ここにいるのはほぼ全員、私が直接指導をしてる弟子だったり仲間だったり部下だったりよ。だから貴方達は、これから切磋琢磨して道を切り開いていく同志みたいなものでもあるの。これから喧嘩はしても良いけど出来れば仲良くしなさい。良いわね」


 そこで一度言葉を区切り、見回す。


 ほぼ全員納得してるみたいだけど、ドリル先輩は今の言葉が信じられない様で、驚愕した表情を浮かべてる。

 うんまあこれは仕方がないわ。面倒だし、呼んでないのについて来ちゃったんだから、説明は後回しね。


「貴方達は私が全力でサポートする中で、お互いに実力を高め合ってもらうわ。けれどそれぞれ力量差がハッキリしているから、普通の訓練だったり、寸止めの手合わせなんかじゃ本物の戦闘経験にはならないわ。だから、これを用意したの」


 先日作った『決戦フィールドV4』『決闘フィールドV5』『スコアボードV4(全)』を順番に取り出し、それらの説明をする。

 要所要所の説明の度に、周囲から感動の声が上がるけど、最後まで説明し切る。

 中でもV4以上に追加された新システム。仮想の魔物集団と戦うことの出来るアタッチメント機能に、皆目を輝かせた。


 このシステムは文字通り、フィールド内に任意の魔物を呼び出して戦うことの出来るもので、実戦に近い経験を得ることができるのだ。そして呼び出すことの出来る魔物は、が戦ったことのある魔物に限られる。なので魔物と戦ったことのない子が弄っても何も呼び出せない安心設計だ。

 この機能を使えば、現実では起こりにくいような条件での戦いも再現出来る。例えば、人間1人vsゴブリン50体を同時出現とか、10体ずつの10ウェーブなんて真似も出来る。けれど、呼び出せる相手には強さの上限値があり、高レベルの魔物などのボスクラスは呼び出すことは出来ない。


 また、こいつらは本当の実体を持たず仮想体であるため、フィールドの外に出ていくこともなければ、経験値を得てレベルアップしたりする事も、スキルを上げることも出来ない。まあこれは、フィールド系の物全てに言えることだけどね。


 安全な環境で磨く事は出来るのは戦闘の冴えと連携、個々人の技能や経験に限られ、スキルには一切変動がない。

 それでも、上級ダンジョンの雑魚連中なら余裕で呼び出せるから、喜ばれると思うな。


「この3種を、とりあえず第二騎士団にプレゼントするわ。これからは好きに使いなさい。説明書はミカちゃんに渡しておくから、あとで副団長さん達と一緒に見てね」

「ところでレディー、このフィールドもありがたいが、スコアボードを用意してくれたと言うことは……」

「ええ。近いうちに第二騎士団の皆は、武器防具だけじゃなくて魔法も、私が直接指導してあげる」


 またしても歓声が上がる。そんなに喜んでもらえるなら、私としても嬉しいわ。


「勿論、レオン君達も見てあげるし、ついでに神丸も魔法を教えるわ」

「某もか?」

「当然でしょ。刀一辺倒じゃ、技を極める事はできないわ。魔法を覚えれば極光流の陸の型以上も使えるようになるし、濁龍剣の威力も上がるわよ」

「なんと!? それでは御願い仕る」

「順番待ちだからね」

「あいわかった」


 素直に頷く神丸を横目に、各魔道具を設置し終えたところでミカちゃんから提案があった。


「レディー、早速ですまないが、この『決闘フィールド』を使用しても構わないか?」

「先にそっちからなのね、良いわよ。相手は……こいつ?」

「うむ。是非とも手合わせがしたい」


 ミカちゃんは鋭い眼光を神丸に飛ばし、神丸もまた猛獣の様な殺気を隠さず笑みを深める。


「某も、この国最強の騎士と街で謳われるお主の実力は気になっておった。だが良いのか、某は強いぞ」

「最強の騎士、か。最強の座はレディーに手放したが、騎士としてはこの国一番という自負はある。レディーや部下達の前で醜態を晒したりはせぬさ」

「その心意気や良し、相手をしようではないか。シラユキよ、装置の方を頼むぞ」

「おっけー。あ、ミカちゃん。武器と防具はちゃんとあれを使うのよ、良いわね?」

「だが……」

「あの武具は貴女の正式な道具よ。真剣勝負に手抜きで挑む方がよほど失礼だわ。それに、私と肩を並べて行きたいなら……分かるわね?」

「! ……分かった、全力で行こう」


 位置に着く2人を見届けて設定をいじる。

 このV5は、色々なことが試せる。ただ単に戦って相手を倒すだけの装置ではないのだ。


「まずは体力を無制限にしてー」

「「無制限!?」」

「冗談よ。時間は……そうね、10分間にしましょうか。体力は標準の100%に。勝負の決め手は神丸は攻撃役アタッカー、ミカちゃんは盾役ディフェンダーであることを鑑みて、神丸は削ることが仕事なんだから倒す事も大事だけど、サポート役の負担を減らすためにもなるべく被弾は避けなさい。ミカちゃんは逆にやられずに耐え凌ぎつつも、神丸に手傷を追わせることが重要ね。己を守る事は当然として、ヘイトを稼ぐには攻撃も出来なくちゃ話にならないわ。……よし、とりあえず仮だけどこの設定で行くわ。お互い思う存分戦いなさい」


 そうして、神丸とミカちゃんの一騎打ちが始まった。

 開始直後はミカちゃんが神丸の技術に翻弄され手傷を負ったが、慣れてくると持ち前の技量で受け流しや弾きが機能し始め、逆に神丸が削られる機会が増えていく。

 その後も技と技の応酬が続き、最終的にはミカちゃんも神丸も体力は7割を残してタイムアップとなった。


 実力も技術力も、ほぼイーブンね。

 本来であれば素の強さは神丸に軍配が上がるんだけど、装備の補正でようやくミカちゃんが対等になれたってところかしら。


 読み通り、5分設定なら瞬発力のある神丸が有利だし、20分設定なら持久力と観察眼を持つミカちゃんが有利だっただろう。

 10分と言う試合時間は丁度良い配分だったわね。


 健闘を終えた2人には盛大な拍手が送られ、彼らも互いを好敵手と認めた様で握手をして互いに讃え合った。


「よもやここまで戦える猛者がおったとは。どうやら某は、この国を甘く見ていた様だ」

「いや、私が戦えたのは貴公とレディーが戦う様子を、事前に見ていたからだ。それにこの武具の性能によるところが大きい。今まで私が身に付けていた物で戦っていれば、最初の一撃で威力を流せず盾は割れ、剣は折れていただろう。貴公の技の数々、実に見事な物だった」

「そう謙遜するな。某の技をアイテムの力だけで乗り切ることなど出来まい。正確に力を流したあの技量は、紛れもなくお主の力量であろう」

「ふむふむ」


 2人の戦いを見て考えを巡らす。

 試合展開は想像通りだったけど、2人の相性も悪くなさそうね。これならまあ、今後の狩りにミカちゃんも連れて行っても問題は無さそうかも。


 その後、副団長さん達にお願いをして、うちの第二パーティーであるママ達の盾役を募集した。立候補してくれる人はいるだろうかと思ったけど、嬉しいことに3人とも手を上げてくれたので、選考をママに丸投げした。

 ママ達は私に決めて欲しそうだったけど、皆を守る盾役なのよ? それなら皆で決めるべきでしょ。

 そう言うと納得してくれたみたいで、おっかなびっくりしながら選考をし始めてくれた。


 ミカちゃん達は、戻ってきたばかりでパーティー編成オーブの存在をついさっき知ったばかりなのだそうで、早速明日から何組かパーティを選別してダンジョンに潜ってくれるらしい。

 その為にも、先行する人たちのためにまともな武器と防具を作っておかなきゃね。


 レオン君達の教育はミカちゃん達に任せて、私は人数分の剣から用意することにしたのだった。


『ママ達、面接みたいな事をしていて面白そうね』

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