第146話 『その日、ミカちゃんとの約束を果たした』

「ツヴァイ」


 思い立ったが吉日。早速作成のための準備を行うことにした私は、便利な部下を呼び寄せた。


「はっ」


 どこからともなく現れる影、ナンバーズの2。従順な、私のツヴァイ。その姿は今朝の学生への変装姿ではなく、ナンバーズの正装である黒装束だった。

 でも男の人には気付かれない程度にコッソリとお洒落をしているわね。出会った頃の残念な空気はどこへやら。ツヴァイがオシャレに目覚めてくれて嬉しいわ。


「ミカちゃんを呼んできてくれる?」

「承知致しました」


 疑問はあるだろうに、迷うことなくツヴァイは答え、影へと消えていった。


「シラユキちゃん、なぜミカエラを呼ぶんじゃ?」

「以前彼女とはとある約束をしていたんです。まあ私からの一方的な物でしたけど、それを果たそうかと」


 そうして待つこと数分。ミカちゃんの剣を作るという事で、自重しない事にした私は、迷うことなく高価な素材を並べていった。そして組み立ての手順を確認していると、突如手元のマップに、とんでもないスピードで動くマーカーが現れた。

 そのマーカーは直線だろうとカーブだろうとスピードを落とすことなく駆け抜け、果ては地上の道すら無視してこちらへと向かってきていた。……今、空中を走ってなかった?


 そしてマーカーは、私たちのいる部屋の前でピタリと止まった。まるで運動エネルギーを無視したかのような急停止に、吹き出しそうになった。面白過ぎるでしょ。

 そして何事も無かったかのように扉をノックする音が部屋に響き渡る。


 陛下が許可を出すと、扉は大きく開け放たれた。そこには全力疾走をものともしない、満面の笑みを浮かべた美人女騎士がいた。

 汗が舞ってキラキラしてるようにも見える全力スマイルだ。うん、カワイイ。

 

「ミカエラ・レヴァンディエス。レディー直々のお呼びとあり参上した!! ……おお、レディーだけでなく、アリシアにフェリスフィア嬢。そしてモニカ嬢まで! ここは天の園かい?」


 ミカちゃんは相変わらずね。それに、ミカちゃんっていつも第二騎士団の正式鎧を着ているわね。私服の彼女も見てみたいなぁ。デート、してみよっかなぁ。

 でもアリシアが心配するだろうから、両手に華デートでも良いかもー。


 私がそんな事を想っている間に、先輩たちが挨拶を交わす。2人は彼女の扱いに慣れているのか、先程の発言はスルーしたみたいね。ちなみにアリシアは、以前ほどミカちゃんに敵意は抱いていないみたいだけど、目礼だけで済ませていた。

 一応この場には陛下に宰相、公爵様もいるんだけど、ミカちゃんの視界には映っていないみたいね。


 放っておいたら無限に口説きそうだし、早く用事を伝えよう。


「ミカちゃん、いいからこっち来なさい」

「おっと、すまないレディー! それで、なぜ私が呼ばれたんだい?」


 ミカちゃんが私から2メートル離れた位置でピタッと停止する。これはアリシアが定めた、ミカちゃん専用の「私に接近しても良い距離」だ。

 彼女に対しての敵意はないけど、未だに警戒はしているみたい。一応、私から近づく分には問題ないんだとか。私としては、最近心を許しそうになるけど、アリシアに危険だからって止められてるのよね。

 アリシアったら心配性ね。


「ミカちゃんは、私の決闘の話、知ってる?」

「ああ、学園の悪しき風習を叩きのめすのだろう? レディーの事は第二騎士団全員で応援しているよ」

「ありがと。で、その景品のことは聞いてる?」

「うむ。なんでも、レディーが持つ貴重な装備品を提示したのだったな。今日の来城はそのためだと聞いている」


 貼り紙を貼ったのは今朝。そして場所は学園の寮と校舎だけなんだけど……。耳が早いのね。


「その通りよ。それを今から作るところだったんだけど」

「作る?」

「折角だからそれをミカちゃんの剣にしようかなって。ほら、約束したでしょ? ミカちゃんのために丈夫な剣を作ってあげるって」

「確かに言ってくれたが……良いのかい?」

「良いの良いの。ただ、一度見世物にする形になっちゃうのがちょっと申し訳ないかな」

「とんでもない! レディーから剣を下賜して頂けるとは光栄の極み。更には手作りなんて……嬉しいことこの上ないよ」


 目を輝かせて手を握ってくるミカちゃん。それに対し、アリシアが割って入り、睨み合いに発展しそうなところを落ち着かせる。どうどう。ステイステイ。


 2人を地面に座らせ、おとなしくなったのを確認したのち、ミカちゃんの要望を聞いていく。


 まずは普段使いの剣を見せてもらい、彼女の望む重さ。バランス。リーチに重心。グリップの握りなど、細部まで確認していく。そして組み立てをしながら確認をしてもらい、1つ1つ形作って行く。

 あと、ついでに盾も作ることにした。なんと言ってもミカちゃんの戦闘スタイルは、小盾に片手剣スタイルだもの。どうせならと両方作ってあげようと思ったのだ。


 ミカちゃんだからこそ似合う、今の私に出来る最高の武具を作ってあげよう!



◇◇◇◇◇◇◇◇



 ……完成した。


 鍛治、調合、そして錬金術は『鍛治師』から始まる専用職業が存在しているにも関わらず、その職業に就いて居なくとも生産することは出来てしまう。なのに何故、そのような職があるのかと言うと、いくつか特典があるからだ。

 1つ目は、精錬や製造の成功確率に大きな上昇補正が付く。

 どんなにベテランでも、慣れた作業でもちょっとした油断から些細なミスをしてしまう事はあるだろう。専用職はそんなミスも無かったことにして、製作を継続する事が可能となる。言わば保険のような機能が付いている。


 2つ目はハイクオリティな品である『至高』が出現する可能性が上昇する。しかし、これらはオマケに過ぎない。


 3つ目こそが『鍛治師』にとって最大の強みだ。

 それは、素材の力を引き出して作品に特殊な効果を上乗せさせたり、効果を増強させるスキルを使えることにある。これは本職の人間が製作しなければなし得ない、唯一無二の能力だ。

 消耗品などの鏃だったり、インゴットの作成なんかには使えないけど、一品物を作る時には大いに役立つ能力である。


 ただ、ゲームではその一品物を作成する際、手出し可能な素材とそうでない素材とがあった。なにせ、『鍛治師』や『錬金術師』などの生産職は、ハイランク。下から2番目の後衛職業ということもあり、ステータスが軒並み低かったのだ。

 その為、とんでもなく高いステータスを要求する一部の素材に関しては、専用職では取り扱いが不可能とまで言われ、『鍛治師』の力を用いた一品物の作成には、どうしても限界があったのだ。


 けれど、そんな苦痛とはもうおさらば。

 今のシラユキちゃんなら、頭がおかしいステータスを持っている上で、生産職のスキルも使い放題なんだもん。

 レベルは低いから使える特殊スキルの恩恵は限られるけど、それでもステータスだけをみれば、ゲーム時代のレベル100鍛治師で扱えなかった素材も加工出来るわ。


 閑話休題前振りはこの辺で


 剣の刀身は最高の硬度を持つアダマンタイト。そこに霊鉄でメッキを施し、最後にヒヒイロカネで細工を行った。


 つまり私は、ヒヒイロカネに『鍛治師』の能力を使って、素材の能力を最大限に引き出したのだ。使った能力の名称は『金属之心得:壱』。『鍛治師』のレベル15から使用可能で、一部の金属の性能を引き上げて製作物に付与する能力だ。

 これが使えるのは、その名の通り金属素材だけなので、木材や織物には作用しないので、服や杖には使えないのよね。


 そして事前に決めた通り、ダイヤモンドを柄に嵌め込んである。柄は霊鉄なので、魔力を流せばダイヤモンドと共鳴し、輝きは刀身まで伸びる。そうなれば、剣そのものが淡く輝いて見えるだろう。

 そしてダイヤモンドも、分類としては鉱石のため、『金属之心得:壱』の対象となっている。


 早速詳細を見てみよう。


********

名前:栄光の金剛剣[至高]

説明:アダマンタイトをベースに作られた光り輝く剣。製作者の圧倒的な技術により成し得た、世界に2つとない至高の一振り。この剣を持つ者に、勝利の女神が微笑む事だろう。

攻撃力:489

武器ランク:10

効果:STR+80、DEX+100、VIT+250、AGI+60、INT+50、MND+100。体力と魔力自動回復。不壊。

セットボーナス:被ダメージ10%カット

製作者:シラユキ

付与:斬撃強化・刺突強化・軽量化

********


********

名前:不敗の金剛盾[至高]

説明:アダマンタイトをベースに作られた光り輝く盾。製作者の圧倒的な技術により成し得た、世界に2つとない至高の一品。その輝きは持ち主の心を表し、善なる者が持てば聖なる光を放ち、悪なる者が持てば闇の力を放つ。

防御力:555

防具ランク:12

効果:STR+100、DEX+50、VIT+350、AGI+50、MND+150。状態異常の持続時間軽減。不壊。下級魔法自動反射。

セットボーナス:被ダメージ10%カット

製作者:シラユキ

付与:打撃強化・衝撃緩和・軽量化

********


「うーん、素晴らしく良い出来ね。今用意出来る素材の中では、最高の物が出来たわ」


 にしても、両方に[至高]がつくどころか、セット効果もつくなんて。完全に対の装備になったわね。

 両方装備することで被弾するダメージが10%軽減かぁ。物理とも魔法とも記載がないし、どんな種類のダメージでも軽減されるタイプね。付属される効果としては、最高位の効果よ。

 魔法反射も地味に美味しい、というかこの世界の魔法技術で考えたら無敵じゃない??


 強いからという理由でピシャーチャとかの魔物素材を混ぜなくて正解ね。光り輝く美しい武器に出来たのも、鉱石を中心に作り上げたからに違いない。

 混ぜたらきっと、取り返しのつかないモノが出来上がって居たはずだわ……。


 『栄光と不敗の金剛装備』。うん、良いわ。とっても良い!

 早速ミカちゃんにつけてもらおう。


「ミカちゃん。ほらほら、固まってないで装備して見せて?」

「あ、ああ」


 困惑するミカちゃんの手を取って装着させる。両方に軽量化の効果を乗せてるからか、見た目に反した軽さにまた驚いたみたい。

 それでも、武器を構え、演武を披露すると熱が乗ったのか、困惑は吹き飛び堂々としたものとなっていく。綺麗ね……。


「……言葉にならないとはこの事だ。こんな素晴らしいアイテムは見た事がない。それをいとも容易く作り出せるなんて……。レディー、君は一体……何者なんだ」


 ミカちゃんの言葉に視線が集まる。

 まあ、こんなに強くて、綺麗で最強カワイイ上に、生産能力もあるんだもの。不思議に思っても仕方がないし、皆興味を持つのも当然だわ。

 ……でも。


「あら、知らないのミカちゃん。カワイイ女の子には秘密がつきものなのよ?」

「……ふふっ、そうだったな。失礼した、レディー。本当に……これをいただいても良いのか?」

「当然よ。貴女のために作ったんだもの、使ってくれなきゃ悲しいわ。あ、でも、さっきも言ったように決闘が終わるまで待ってね」

「勿論だとも!」


 それにしてもミカちゃん、カッコイイなぁ。色んな女の子を摘み食いしてるにも関わらず、入団希望者が減る事はなく、ずっとずーっと女の子に人気なの、分かる気がするわ。

 あと、本人は言われ慣れていないみたいだけど、カワイイところもあるしね。


「ザナック宰相、鑑定お願いしますね」

「承知しました。しかし、この圧倒的なまでの圧力。それに輝き。どうみてもランク8には思えないのですが……。まるで絵物語に出てくる、勇者が持つ聖剣のようです」

「うむ。悔しいがミカエラにもよく似合っておるし、これを装着した彼奴には、流石のワシでも勝てる気がせなんだぞ」

「もしや、音に聞くランク9なのではありませんか?」

「有り得るな。シラユキちゃん、本当にこれはランク8なのかい?」


 大人達が鑑定を放り出して感想を言い始めてしまった。まあ初めて見るランクの装備に興奮する気持ちはわかるけど、鑑定を済ましてからにしてほしい。

 事実を伝えると余計に作業に集中出来なくなるかもしれないけど……まあいいか。今日の予定はこれでおしまいだし。


「いいえ、作っている最中に興が乗ってしまいまして、剣の方はランク10、盾の方はランク12の装備となります」

『ランク12!?』


 皆仰天しているが、アリシアだけはママの武器を見ているので、その輝きに納得しているみたいだった。


「そして性能ですが~」


 そうして鑑定を済ます前に、それぞれの性能を説明すると全員が仰天し、ミカちゃんは驚きつつも納得し、何かを考え始めた。


「この装備があれば……奴にも勝てただろうか」

「うーん、どうかしらね。でも、良い勝負が出来たのは間違いないわね」

「そうか……。己の身が未熟なのが原因だとばかり思っていたが、装備を整えるのも大事なのだな」

「そうね。陛下もだけど、ミカちゃん達は総戦闘力に対して身に付けてる装備が貧弱だもの。それだと強敵を相手にするのはしんどいわ」

「となると、隊の皆にも相応の装備を支給する必要があるな。長年私をサポートしてくれている副長達は、入団の頃からずっと、鋼鉄の剣を装備したままなのだ。……レディー、素材はこちらが持つし報酬も弾もう。いや、レディーの言い値で構わない。隊の皆に合った武具の製作をお願い出来ないだろうか」


 ミカちゃんのお願いは、大事な団員達を守るためのものでもあるのだろう。その瞳には、真摯な願いが込められていた。


「良いわよ。でも、今はそれで良いとして、今後もずっと私がサポートして行くのは現実的じゃないわ。私以外にも現役で鍛冶に専念してる人を探して、その人達を鍛えるつもりよ。団員全員に装備を支給するのは、もう少し待ってね」

「ああ、それで良い。その辺りはレディーにとって都合の良いようにして構わない。ありがとう」

「あ、でもミカちゃんの装備は私が面倒を見てあげるわ。どんなに凄いスピードで後進を育てたって、今のこの装備を作れる程になるのは、随分先のことになるだろうしね」


 その言葉がよほど嬉しかったのか、ミカちゃんは目を潤ませて何度もお礼を言ってきた。そんなに喜んでもらえるなんて、私としても大満足だわ。


 そうしてザナック宰相の鑑定が終わるまで、防具の話でミカちゃんと盛り上がり、一品ものとして彼女が愛用していた『第二騎士団団長正式大鎧』を『打ち直し』をすることにした。

 元々ゲーム内でも一点ものとして存在していたし、『打ち直し』は素材さえあれば簡単に出来てしまうのだ。変に気を使うこともなければ集中力もいらない簡単な作業。元のランクが低いこともあり、必要とする素材も安い。

 そう言うこともあり鎧を脱いでもらう事になったんだけど、この部屋には男性陣がいる。それに剣や盾に見入っていて、動きそうにない為、一旦隣の部屋へとアリシアを連れて移動する事にした。


 ちなみに先輩達は展開についていけないみたいで、まだ心ここに在らずといった感じだったので、部屋に置いて行く事にした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「じゃあミカちゃん、悪いけど鎧を脱いでもらえる?」


 すると、彼女が嬉しそうに言うのだった。


「ならば、レディーの手で脱がして貰えないか」


 その言葉にいち早く反応したのはアリシアだった。察知したミカちゃんが動き出す前に、瞬く間にインナー姿にひん剥いたのだった。


「アリシア……」

「ミカエラ様、悪ふざけがすぎますよ」

「ふっ。怒る君も大変美し……じょ、冗談だ!」


 アリシアは笑顔のまま、無詠唱の『ウィンドランス』を展開した。おお、速度も形も、籠められた魔力も。どれも上手に出来てるわね。これは褒めてあげなきゃ。


「アリシア、上達したわね。良い子良い子」

「お嬢様……ありがとうございます」

「あと怒ってるアリシアは、私もカワイイと思うわ」

「お、お嬢様!」

「ははは、仲が良いのは美しいな」


 ミカちゃんはインナー姿でニコニコしている。こんな所を第二騎士団の人たちが見たら、鼻血を噴いて卒倒しちゃうかも。それにしてもいい腹筋ね。撫でても良いかしら……?


「お嬢様?」


 アリシアから圧が飛んでくる。


「じゃ、じゃあ、これを改良しちゃうねー」

「うむ、任せる。しかし改良すると言うのは、レディーが先程見せたものの事だろうか? あれと同じように、鎧すらグニャグニャと弄れるのか?」

「ぐにゃぐにゃ? あー、さっきの製造過程の話ね。あれとは違うことをするのよ」

「ミカエラ様。お嬢様の邪魔をしないように」

「ははっ、すまない。つい楽しくてな」


 そうしてミカちゃんの見ている前で、2回『打ち直し』に成功し、ミカちゃんの鎧はランク4⇒6⇒9へと進化したのだった。


『ミカちゃんのインナー姿、引き締まっていて見惚れちゃうわね!』

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