第128話 『その日、クラス分けが発表された』

 ――試験から数日。

 私は今、ランベルト公爵家でお茶を飲んでいた。この後用事があるのであまりゆっくりは出来ないけど、今はこれから一緒に過ごして行くであろうでの時間を、満喫しようと思う。


 あの魔法試験の後、教授は疲れてはいたけど、どこか満足気な表情で演習場を出ていき、何とかの先生はその後も戻って来る様子は無かった。

 なので引き続き、その後の片付けや現場の指示はフェリス先輩が率先して行っていた。


 そして晴れて、入学後は同じクラスの同級生と確定した彼らと、食堂で親睦を深め合った。その時、不完全な授業をしてしまった貴族組の子達には、改めて魔法を教えることを約束した。

 彼らは事前に平民組の成長っぷりを見ていた為、その講義がどれほど有用か思い知ったのだろう。そんな私の講義を、タダで教えてもらうわけにはいかないと言うことで、彼らは何か恩返しがしたいと申し出てくれた。

 それは平民組の子達も同様だったらしく、そこでも彼らは意気投合していた。まあ私の前でどう返すべきか云々唸っている彼らを見るのは嬉しかったし、心地よかったけれど、すぐに返さなくて良い事を伝えておいた。

 きっと多分、彼らは私が忘れた頃に何かお返しをしてくれるんだろう。楽しみにしていよう。


 正直、彼らのその気持ちだけで十分なんだけど、以前にソフィーにも言われたように、大きすぎる借りを人から与えられてそのままにされては、あまり良い心証を持たれないし、本人のためにもならない。

 私もタダだからって、その知識を寄越せと、頭ごなしに命令してくる輩には教えたくないとか思っちゃうし、今後のためにも彼らからのお礼はどんなものであれ、受け取っておくのが良いのだろう。

 その辺はソフィーとの間でも問題になっていたから、改めてちゃんと受け取れる心の準備が出来た事を、後日彼女に伝えてみた。

 すると「シラユキって面倒な思考をしてるわね」と呆れられちゃったけど、理解をしてくれたわ。

 やっぱり持つべきものは友達ね!


 そして、舌の根も乾かぬうちに、その食堂の場でもう1つ、彼らにプレゼントをあげることにした。先日作った精油と香水の一式セットだ。

 それを男女問わず渡した。


 女の子ならそれを自分に使うだろうし、男の子でも人によっては自分に。興味がなければ親や好きな子に渡すだろう。そうすることでこの香水の名が広まれば、私も色々と作りやすくなるはず。

 というか女の子達からは、魔法以上に感謝された。やっぱり身嗜み用品は乙女の必需品よね。


 まぁもし、精油と香水が思った以上に広がらず、私の考え通りに行かなかったとしても、これらの製品はカワイイ自分を作ったり維持するためには必要なアイテムであることに変わりはない。

 私からのカワイイのお裾分けだ。この計画が失敗したとしても、これらのアイテムが気に入ってくれたのならそれだけで嬉しい。


 最後に彼らに、アリシアを紹介したところで、ツッコミどころ満載な彼女の存在に一波乱起きたが……。まあそれは良いとして。


「シラユキさん、このお菓子美味しいです!」

「それはアリシアが作ってくれたお菓子なのよ」

「ふわあ、アリシアさんすごいです!」

「ありがとうございます、ココナさん」


 今のメンバーは私、アリシア、ソフィー、ココナちゃんの4人。今日は初等部と高等部、共にクラス分け発表の日らしく、ママとリリちゃんは発表の早い初等部へと向かった。フェリス先輩は教師陣と一緒になって働かされてるみたいで、この場には居ない。

 高等部もそろそろ開示されている頃だけど、私の点数が多分アレで、大騒ぎになっていそう。だから、少し時間をずらしてから向かおうという話になっていた。


 そしてココナちゃんが何故この場にいるかと言うと、平民かつ獣人でありながら、試験順位が2位と言う事で、よく思わない連中に狙われるだろうから。

 ……と言うのは建前で、私が連れ回してるからだ。


 なんならあの試験の後からも、ずーっと一緒にいる。理由は単純明快で、彼女を手放したくなかったから。勿論、これだけ関わった上で彼女を1人にするのは、忍びなかったから、と言うのもあるんだけど。

 迷惑になるからと辞退する彼女を引き留め、一緒のホテルに泊まるよう誘導、及び説得した。

 最終的にココナちゃんの意思で、一緒にいると決めてくれた。


 こんなカワイイ子を野に放つなんて危険だわ。私ですら、このモフモフ尻尾を前に10秒と我慢出来ない自信がある! 特に精油と香水、更にはアリシア特製のトリートメントで彼女の尻尾を磨いてからは、艶や輝き、香りが数段ランクアップした。

 私が目を離せば、きっと誘蛾灯のようにハイエナが彼女に群がるに違いないわ……!!


 リリちゃんもココナちゃんには懐いていたし、もういっその事、うちの子にしちゃえないかしら??


「お姉様から聞いたけど、シラユキ、随分と試験ではっちゃけたみたいね」

「えー、それほどでもー」

「褒めてないわ。……と、言いたいところだけど、良くやったわ」

「およ?」

「当日の試験官、シェパード先生だったんでしょ? あの人、私嫌いなのよね。学校の先生は魔法が上手い生徒を甘やかす傾向が強いんだけど、あの先生はそれが特に顕著でね。魔法が使えなかったり、扱いが下手な劣等生を完全に見下してるの。平民の子達で魔法が上手い子なんて稀だから、平民自体が舐められてる。そんな厄介な先生の前で、平民が一斉に高等部の在学生並の魔法を使った。そうすることで先生の鼻を明かしてくれたんでしょ? それを聞いた時、心からせいせいしたわ!」

「ソフィーがデレた!」

「デレたわけじゃ……はぁ。全く、感謝くらい素直にお受け取りなさいよね」

「えへ」


 鼻を明かすどころか、プライドを木っ端微塵に粉砕してやったから、あれからどうなったのかわかんないけどね。

 そういえばまだ、土下座して貰ってないなぁ。


「ココナちゃんは、在学生でも……ううん、お姉様クラスの魔法使いでしか出せないような8700点を叩き出したって聞いたわ。シラユキは常識の範囲外にいるからノーカウントとして、ココナちゃんとは良いライバルになれそう」

「えー」


 常識じゃないとか言われると、仲間外れにされてる気分だわ。幸せそうにお菓子をモキュモキュしていたココナちゃんが、ハッとなって慌てる。


「はわ!? コ、ココナの魔法は一般的な魔法と違って、シラユキさんが言うには一部の種族でしか扱えない限定的な魔法なのだそうです。なのでちょっとしたズルなのです。だからココナは、本来の魔法でもそのくらいの威力を出せるくらい頑張りたいのです! こちらこそ、宜しくなのです!」

「ええ、宜しくね! ……あの、ココナちゃん。私と友達になってくれる?」

「は、はいなのです。ココナなんかで良ければ……。あ、いえ、ココナもお友達になりたいです!」

「うぅ、ようやく私の前にも、平民の友達が出来たわ」

「え? ……私は??」


 え、うそ、涙出て来た。


「シラユキは……その、ほら。……親友、でしょ?」

「!! ソ、ソフィー……!」


 今度は別の意味で涙が出て来た。


「ちょ、ちょっと、恥ずかしいからあんまりこっち見ないで。……っていうか近い近い近い!!」

「ねぇソフィー、好き。大好き。キスして良い?」

「は、え!? それはちょっ……うっ! ……そ、そんな顔されたら、断れないじゃない。……こ、ここで! ここならいいわよ!!」


 そう言ってソフィーは、恥ずかしそうに頬を差し出した。


「ソフィー!」

「んっ、ばかっ、抱きつくな! ひゃっ、くすぐったい! やめ、やめ……ひんっ」

「んー!」


 好き好き好き!

 ソフィーへの感情が抑えきれず、しばらくの間彼女を抱きしめ続け、頬擦りしたり、啄む様なキスを止める事は無かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「……はぁ、さっきは酷い目にあったわ」


 ソフィーは遠くの空を見上げながら、そうつぶやいた。


「先ほどのはソフィア様の自業自得ですね。お嬢様にあんな事を言っては、こうなるのも目に見えていたのでは?」

「うぅ。アリシア姉様達とのイチャ付きぶりからして、多少は覚悟していたけれど、あんなに激しいとは思わなかったのよ……」


 だって大好きなソフィーからあんな滾る事を言われたら、興奮しちゃうわ。


「それとソフィア様、その様な緩んだ顔で仰られても、説得力がありませんよ」

「あう……」


 アリシアの言葉に、ソフィーは顔をモニモニとマッサージをする。しかし、いつまで経っても表情は緩んだままだ。

 カワイイ……。


「ソフィー」

「……なによ」

「大好き」

「はいはい、私もよ」

「えへへー」


 目線は合わしてくれないけど、顔がほんのり赤いし耳なんて真っ赤だ。そんな彼女がカワイくて愛おしい。


「んもう。今は外なんだから、少しは自重なさいよ」

「えへ」

「はぁ、もう。幸せそうな顔しちゃって」

「あ、あのあの、もう発表? が張り出されてるんですよね」


 この空気に耐えられなかったのか、ココナちゃんが声を上げた。


「はい。筆記試験と魔法の実技の点数が貼り出されるようですね。それと、そこにはお嬢様やココナさんを含めた編入生の成績だけではなく、初等部から高等部に進学する生徒達の点数も貼り出されるようです」

「卒業試験って訳じゃないけど、3年間どれだけ頑張ったのかを見る為と言うのと、編入生との差を知らしめるためと言うのが目的みたい。編入生に負けるようではーとか、例の先生も口酸っぱく言っていたらしいわ」

「実際は、在学生の9割以上は負け確なんだけど」

「どこかのお節介さんの介入によって、ね」


 あら、それは一体どんな美少女お節介さんなのかしらね?


「まあ学年トップというのも肩が凝るから、正直助かったわ。爵位もそうだけど、魔法力という点でも期待されてて、頻繁に先生達からプレッシャーをかけられていたのよね。それから解放されると思うと、いやー助かるわー」

「大親友がこれから辛い目に合うのに、ソフィーってば随分と楽しそうね?」

「だってシラユキ、そんな外野からの圧なんて気にもとめないでしょ。というか、あなたにそんな圧をかけられる人、この学校にいるの? 居ないと思うわ」


 ……言われてみれば、そんな気もする。

 そうこうしている内に学園へと到着し、大きく開かれた門を通った。


「じゃあ確認なんだけど、一番になったからしなきゃいけないこととか、そういうのはあるの?」

「うーん、そうねえ。お姉様は魔力やスキルの高さに加えて、その容姿や性格。全てを評価されて生徒会長という役職に任命されてるわ。だから全部を満たしてるシラユキにも、その内声が掛かるんじゃ無いかしら」

「えへ」


 ソフィーったらもう。嬉しいこと言ってくれるわね。


「……でも、しばらくは大丈夫だと思うわよ。お姉様も生徒会長に就いたのは今年の頭だし」

「ふーん?」


 まぁもし、今後そう言った物に声を掛けられるようなら、ソフィーも無理矢理巻き込んじゃおっと。


「ふっ、今からもう生徒会長の話か? 随分と余裕の様だが、これからの俺は一味違うぞ」

「ん?」

「げっ」


 不意に背後から声を掛けられ、ソフィーが顔を顰めた。ソフィーがそんな顔をする相手であり、私もどこか聞き覚えのあるような声。

 そんな相手は現状、かなり限られてくる。


 あー、この俺様系のノリでこの声ときたら……アイツか。

 相手が誰だかわかってしまったので、一呼吸置いてから振り返る。


 するとそこに居たのは、如何にも世界は自分のためにあると言いたげなくらい、尊大な顔をした男がいた。


「また面倒な男が現れたわね」

「おや、良いのか? 今日はいつもの様に猫も被らず、ストレートな物言いじゃないか。お友達の前では本性を出さないんじゃ無かったのか?」

「フン、その猫なら返却済みよ。それにこの子はタダの友達じゃなくて大親友なの。隠し事なんてしないわ」


 突然ソフィーが手を繋いできたので、私も握り返す。もうソフィーったら、好き好き!


「ほう、ソフィアにもそのような人間が現れるとは珍しい……なっ!?」


 その時になってようやく、彼はこちらを認識した様だった。別に隠れていたわけでも存在感を消していたわけでも無いんだけど、随分と私のソフィーに入れ込んでるみたいね??


「う、美しい……。お初にお目にかかる、周りくどい言い回しは好まぬから、ハッキリと告げよう。君ほど美しい女性は俺の妃にこそ相応しい。何不自由させることはないと約束しよう。俺の物にならないか」

「あら、ありがとう。真っ直ぐな告白は嫌いじゃ無いわ」


 正史ではソフィー並の正規キャラクターなんだけど、この時期のコイツはほんと残念ね。この物言い、周囲の貴族男子共に滅茶苦茶影響を受けてるじゃ無い。まぁ、今までのボンクラ共と比べたらだいぶマシだけど。


「でもお断りします。私、勘違い男は趣味じゃ無いの」

「なっ……」

「ぷふっ!」


 まるで渾身の告白が粉砕されたかの様にショックを受けてるけど、何あれ? あれで落ちる女の子が居るとでも思ってるのかしら?

 まあでも、コイツの立場から言われたら、普通はコロッとイっちゃうのかな。私はイかないけど。


「さ、皆。行きましょ」


 踵を返してその男を放置する。ココナちゃんは慌てて頭を下げて追いかけて来てくれたけど、あんなのに頭を下げる必要はないわ。


だなんて、世も末ね」

「そうなのよね。って、シラユキ知ってたんだ」

「一応、肖像画を見せてもらっていたからね。それにソフィーが嫌そうな顔をしたんだもの。それで察しがつくわ」


 まあ当然ゲームで何度も会ってるんだから知ってはいたけど、これなら言い訳としては十分通るでしょ。実際肖像画はこの目で見たし。なんなら陛下に「息子をよろしく」という意味で見せられたし。

 ……一体、どう宜しくすればいいんだろうか。まあ特に言及されなかったし、私の裁量で宜しくしようと思う。


「ええっ、あの変な人が王子様なんですか??」

「ぶふっ! そ、そうよ。あの変な人が王子様なのよねー。あははっ」

「ソフィー、さっきから楽しそうね」

「ふふっ、だって、アイツが雑に扱われることなんて今まで誰もして来なかったんだから。それが新鮮で、面白くて仕方がないのよ。はー、シラユキが来てから笑いが絶えないわ」

「それは良かった」


 ソフィーは一度深呼吸をして、顔をキリッとさせる。


「アイツ、見た通りの性格で、根は腐ってないんだけどちょっと面倒な奴でね。また絡んでくると思うけど、適当にあしらえば良いわ。しつこいようなら相談してね、2人のことはアイツより大事なんだから」

「ええ、分かったわ」

「分かりましたです!」


 そんな、聞く者次第では不敬罪で怒られそうな会話をしながら、校舎前へと辿り着く。

 そこではいくつかの巨大なボードが立ち並び、張り出された紙には、総合順位とそれぞれの点数、および合計点。あとは編入生か進級生かが記載されていた。

 その点数に基づいたクラス分けは、既にボードごとに決められている様だった。


 6枚のボードの内、一番左が最高位のクラスであるSクラス。そして隣がAクラス、Bクラスと続いて……。最後はEまであるみたい。


 そんな中でもSクラスとAクラスの張り出し前には、人だかりが出来ていた。彼らは皆、生徒なのかしら?


「何故だ、この僕がAクラスだと!? 一体どうなっている!!」

「おかしい。Sクラスの半数以上が編入生で、更に1位の点数はなんなんだ。ありえないだろう……」

「魔法テストが満点!? 一体どんな魔法を使ったというんだ」

「Sクラスの7割近くが姓なしの、平民だなんて。噂では全員が高水準の魔法を放ったと聞いたが、まさか僕たちは平民に負けた……?」

「あのソフィア様が3位に転落……!? 僕達は、夢でも見ているのか」

「一位の編入生は女らしいぞ」

「試験当日、ソシエンテ教授が一位の女に弟子入りをお願いしたとか」

「俺はスコアボードが破壊されたと聞いたぞ」

「ははは、まさか! そんなわけが無いだろう」


 こう言うのは尾ひれがつくものだけど、今のところ大体合ってるわね。知らないのは弟子入りくらいだわ。

 さて、結果発表の紙は一番上から見てしまっては味気ないものだわ。とりあえずSクラスの一番下から……。


 おっ、一応もしもの可能性を考えて危惧していたんだけど、一緒に試験を受けた彼らは、ちゃんと全員無事にSクラスに入れたみたいね。よかったよかった。

 編入生での最下位は、従者組の子ね。彼は確か、ボールを綺麗な形に維持するのに、四苦八苦していた記憶がある。なんとか入れた様で安心したわ。

 そこから上へと見上げて行くと、貴族組や従者組が団子になっていて、その上には平民組が続いている。

 さらに上、一桁の順位に来るとヨシュア君やアリエンヌちゃんの名前が出てきた。そしてその上には正史で見たことのある名前が勢揃いしていて、3位はソフィー。2位がココナちゃん。

 1位は当然、シラユキちゃん。点数がちょっとバグってるけど。一位なのは違いない。


 うんうんと納得していると、ソフィーが私の点数を指差して驚きの声を上げた。


「……はぁ!? 魔法試験1799万点!? い、一体何をどうしたらこんな数字になるのよ。シラユキは常識外れだと思っていたけど、ちょっと意味わからない数字だわ」

「いやー、良かったわ。私の見間違いではなくて、ソフィーにもそう見えていたようね。でも、コレは私も知りたいのよね。一体どう言う計算式なのコレ」

「これは騒ぎになるわけよ。……えっと確か、スコアボードで出した点数を合計して、そこに『詠唱速度』『魔法の見た目』『維持能力』『飛翔速度』『操作能力』の5つの合計点数を掛け算したものと聞いてるわ。ちなみにそれぞれ50点満点で、見た目の美しさだけは100点満点ね。

「あー……。合計点の横にその5種の点数が記載されているわね。私の場合全部満点。それに6属性が9999だったから、全部を足せば59994。それに300を掛ければ一応その数値になるか。……にしても、雑な計算式ねぇ。もうちょっとなんとかならなかったのかしら」

「……はぁ、シラユキみたいな常識外れが参加する事を考慮してないんだから、こうなるのは当然でしょ? 見なさいよ、私やココナちゃんとの点数差。あと、シラユキ暗算速すぎよ。数学が満点な理由がよくわかったわ……」


 それくらいの計算は……うん、まあ触れないでおこう。

 えーとそれで、ココナちゃんは詠唱速度50点、魔法の見た目100点、維持能力42点、飛翔速度45点、操作能力45点。威力は確か8767点だったから、282を掛けた247万点。


 ソフィーは詠唱速度33点、魔法の見た目75点、維持能力35点、飛翔速度35点、操作能力40点。威力は知らないけど218が掛けられて213万点。


 それじゃあ単純に考えて、ソフィーは大体合計9800点くらいかしら? ソフィーの場合は風魔法単体じゃなくて、複数の属性が操れるから、こんな感じなのね。

 他の魔法を加味してもこの点数に行かせるには、恐らく風魔法で一番高威力の『ハイウィンド』を使ったのね。ソフィーのレベルやステータスでは、よくて5000点くらいだろうけど、詠唱速度を度外視して魔力を溜めに溜めてから放てば、6000か7000くらいには届くかも。


「いやー、ダブルスコアどころじゃないわね」

「ほんとよ全く、前代未聞もいいとこだわ。筆記の試験もそうよ。シラユキの事だから頭も良さそうと思っていたけど、3教科が満点とか驚くわ。作法や薬学は満点は逃したけど、意地悪な問題も多かったからね。ここは仕方がないわ」

が満点扱いになっちゃったかー」


 歴史に関しては、自分でもちょっとお巫山戯が過ぎたかなと思ってたのに。

 まあ、学校側がソレで通すなら良いけど。


 あと、問題は薬学ね。

 一応んだけど……。やれやれね、ここも改革が必要だわ。


「シラユキさん、ここにいたんですね!」

「およ?」


 その声に振り返ると、ヨシュア君達編入生組だった。

 彼らの元へと駆け寄り、話を聞いてみると、どうやら皆で先に集まってお互いの健闘を称え合っていたらしい。まあ、私は時間を置いてやって来たので、そのウェーブに乗れなかったのは仕方がない。


 私がいない場所でも仲良く出来ているみたいだし、彼らは大丈夫そうね。


「シラユキさんがいつまでも来ないから心配してたんですよ」

「そうですよ、ボスがいないと俺たち締まらないですからね!」

「シラユキさんのおかげで、入学だけじゃなく念願のSクラスに入れました! 本当にありがとうございます!」

「皆が素直に私の話を聞いてくれたからよ。私の話を胡散臭がって、聞いてくれていなかったり、協力してくれていなかったら結果は違っていたはず。だから私の力だけじゃなくて、皆が私を信じてくれたからよ」


 いきなり仲良くしましょ。なんて言ってきて、更には秘匿するべきはずの魔法技術をタダで教えるだなんて、新手の詐欺みたいな真似をする人間。普通は怪しまれたって仕方がないわ。

 そんな私を彼らは受け入れて、真摯に聞いてくれたからこそ、この結果を得られたのよ。


「シラユキさんほどに善良な人を疑うなんて、あり得ませんよ」

「そうですよ。貴族も平民も関係なく、対等に仲良く、そして手を取り合おうだなんて、貴族の誰にも言えない言葉ですわ。そんな貴女の言葉だからこそ、信じられたんです」

「ヨシュア君、アリエンヌちゃん……」


 2人とも嬉しいこと言ってくれるじゃない。


「嘘をつく人や、僕達を騙そうって人はね、表面上は笑顔なんだけど瞳の奥では別の表情が浮かんでいるものなんだ。でもシラユキさんはそんな奴らとは違って、瞳の奥まで輝いて見えたよ」

「そうだべ、シラユキさんみたいな綺麗な人を疑ったらバチが当たるべ」


 ロック君、リクレス君も。そんなこと言われたら皆のこと大好きになっちゃうでしょ!

 

「最初に見た時にビビッと来たぜ! この人は里の誰よりも強くて、信頼のおける人だって。俺の中に流れる獣の血がそう言うんだ。ボスを信じるのは当然のことさ」

「ボスの言うことを信じられない不届き者はこの群れにはいません! うちらはずっと付いていきます!」

「ココナも付いていきます!!」


 あんた達はブレないわね。そこがまたカワイイんだけど。

 ココナちゃんはそれ以前にカワイイ。


「ところで、シラユキさん。一緒にいらっしゃるのは……」

「もしかして……」


 ソフィーに視線が集まる。やっぱり有名人だから、顔は知られているのね。ソフィーはちょっとビクッとしちゃったけど、すぐに気を持ち直して綺麗なカーテシーを決める。


「皆さまお初にお目にかかります。私はソフィアリンデ・ランベルトと申します。以後お見知り置きを」

「こ、これはどうもご丁寧に……」

「ソフィアリンデ様と同じクラスになれるだなんて……」


 カーテシーの際に、私の手が振り払われたのがムッとなったので、ダメ出しついでにソフィーのほっぺをつついておく。


「はいダメ、やり直し」

「は?」

『え?』


 皆から不思議そうな声が漏れる。

 ソフィーなんて、「何言ってんのコイツ」みたいな心の声が聞こえて来そうな顔をしてる。そんな簡単に剥がれる仮面なんて捨てちゃいなさいな。


「ソフィーったら、そんなんだから友達出来ないのよ。ここにいる皆は、これから同じクラスの同級生になるのよ。そんな堅っ苦しい猫被りの挨拶をしていては駄目だわ。もう一回最初からやってみなさい」

「な、なっ……」

「彼らの前で他所行きの仮面を被る必要はないわ。彼らは対等な友人になるの。編入生ではない繰り上がりの子達は他人行儀でも良いかもしれないけど、彼らは皆、私の友達よ。つまり私のであるソフィーも、彼らと接するなら対等であるべきだわ」


 その言葉にハッとなったソフィーは、私と彼らの顔を交互に見て、しどろもどろになりながらも口を開く。


「えっと、その……」

「ほら、頑張って」

「う、うん。……み、皆さん。わ、私と友達になってください!」


 手をまっすぐに伸ばし、ソフィーはギュッと目を閉じた。皆は顔を見合わせ、次第に顔を綻ばせる。そんな彼らに私は大きく頷いた。


 良いのよ!


 そんな意味を込めて力強く。


 すると、皆安心したかの様に微笑み、ソフィーの手に自らの手を重ねて行った。


『勿論!』

「あ、ありがとう」

「良かったわね」

「うん。……シラユキって、本当良い子ね」

「え? カワイイ子?」

「言ってない! ……けど、あははっ。そうね、シラユキは最高に可愛いと思うわ」

「えぇ、ソフィー……」


 今日になってソフィーのデレが凄い!


「今までのことも、今日のことも……。貴女には本当に感謝してるわ。大好きよ、シラユキ。これからもいっぱい助けてもらう事になるだろうけど、私、めいいっぱい貴女に恩を返していくと約束するわ。これからも宜しくね」

「ええ、こちらこそ! 私もソフィーの事大好きよ!」


 彼女を抱きしめると、ソフィーからも力強いハグが返ってきた。彼女と気持ちを通じ合えるなんて、こんなに嬉しいことはないわ。

 入学前からクラスの半数以上とは仲良くなれてるし、大事なソフィーとも親友になれた。

 アリシアは問題なく私のメイドとして学校に登録されてるし、リリちゃんやママも初等部への入学は問題なく済んだ。


 王国に巣食う問題はこの手で片付け、諸悪の根源であった魔人も倒した。

 陛下からも色々と協力を得られそうだし、今後も多少の無茶な発展を許してもらえそう。


 憂いも無くなった事だし、これらかしばらくは、ゆっくりと学園生活を楽しもう。


 これから始まるのは2回目の魔法学園。

 ふふ、今からもう待ち遠しいわ。


『学園生活、楽しみだなー』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これにて4章『魔法学園 入学準備編』は完了です。ここまでの読了、ありがとうございました!

続きの5章は、またしても数か月ほどお休みをいただいてから展開していきたいと思います。が、今回の4章で登場人物も増えた事ですし、4章の展開だけでは拾いきれなかった話もいくつかありますので、5章展開前にいくつかの『閑話』を書いて行こうかなと思います。詳細は『活動報告/近況ノート』をお読みください。


この作品が面白いと感じたら、ページ下部にて評価していただけると5章執筆の励みになります!よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る