第123話 『その日、平民組を視てあげた』

「それじゃ、私は彼らに付きっきりになるけど……どうする? まだ練習していくならこの『ボール』4種は残しておくけど……」


 その言葉に彼らは顔を見合わせた。


「それは是非ともお願いしたいところだけど……良いのかい? 4つも維持しながら教えるなんて器用な真似。いや、そもそも1つだけでも視界から外した時点で、維持なんて困難になるはずなのに」

「私の手から離れたとしても、その波長が感じられる距離なら問題ないわ。魔法や魔力操作が上達すれば、自分や周囲の魔力が、今どこでどんな風に展開されているか、その目で見なくても把握出来るようになって行くものよ。だから気にしないで、その維持する力を自分の物にしていきなさい」

「そう言う事ならお願いしようかな。不思議な事に、この演習場で魔法を使っていると、普段より負担が少なく感じるんだ」

「そう。でも疲れたら休む事も大事よ。途中で帰ったりしても良いからね?」


 まぁ、私が近くにいる以上、MP枯渇による疲れは起きないだろうから、感じるとしたら精神的な疲労か肉体的な疲労のどちらかね。

 まだお昼過ぎ。夕方まで時間はあるだろうし、可能な限り慣らして、自分の自信に変えていければ良いわ。


「皆、お待たせ。それじゃあ早速、と行きたいところだけど、まず皆がどれくらい出来るのか把握しておきたいわ。得意な属性の魔法をお願い出来るかな?」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そんな感じで彼らの成長状態を見てみようとしたが、結果は散々だった。まず、魔法としての完成度からしてバラバラだった。

 『ボール』と呼んで良いのか悩ましいゴツゴツしたものから始まり、一定の形すら保てず手の平から零れ落ちていく水。終いには視覚化すら出来ずに微風を感じる程度の物まで。

 うん、これ完全にあれだわ。魔法……の様なものが出来ると言う事で呼ばれただけの、貴族の当て馬的存在だわ。


 そんな中でも、ココナちゃんは一番まともだった。

 というちょっと特殊な種類の魔法ではあったけど、きちんと使うことが出来ていた。それに形もしっかりしているし、威力もそこらの貴族の魔法よりも高そうだった。


「綺麗な『狐火』ね」

「えへへ、ありがとうございます! シラユキさん、『狐火』をご存じなんですね」

「うーん、でもどうなのかしら。良い魔法だとは思うけれど、この国でまともに評価されるかは未知数なのよね」


 むしろ正史で、しっかりコレを使った上で落とされた可能性だってある。貴族ってのは偏見の塊だし、獣人の魔法っていうだけで下に見ている可能性だってあるわ。


「ココナちゃんは『ボール』系魔法はどうなの?」

「あう……、えっと、使ったことが無いです」

「あら……。じゃあ今日は、使えるようになるまで面倒見てあげるわ。ただ、ココナちゃんだけにかまける訳にもいかないから、最後に回しちゃうけど大丈夫?」

「は、はいです!」

「良かった」


 そして多分、彼女への指導は時間的に間に合わないと思うから、私が泊まっているホテルに連れ込んじゃお。


「それじゃ、まずは皆の魔法具合だけど、正直言って合格出来るか怪しいラインばかりだわ。だからこそ、まずはきちんと魔法が使えるよう鍛え直します。そうね、私とココナちゃんを除いて12人もいるんだし、3人組を4組作って。4回に分けて教えて行くわ」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 まずはファーレン村の子達である、ロック君、リクレス君、マイヤちゃんの3人からだ。全員仲良く土属性だから、教える方向性も一度に出来て楽で良い。

 とりあえず3人組って纏めたけど、彼らみたいに属性で分けても……と思ったけど、そんなに都合よく属性は散らばっていないか。

 それにもう分けちゃったし。後の祭りね。


 彼らには並んで座ってもらい、『魔力溜まり』から教えて行く。当然誰も、その存在については知らなかったので懇切丁寧に伝授してあげた。

 私の教えは……まあ10割近く趣味ではあるけど、ボディータッチが多いのよね。だけど、本来恥ずかしがるはずの女の子より、男の子の方が恥ずかしがるのよね。何でかしら?


「シ、シラユキさん! は、恥ずかしいよ!」

「我慢なさい、男の子でしょ」


 ロック君のお腹を撫でながら、嗜める。シラユキちゃんは美少女だからドギマギしちゃうのもわかる。私だってシラユキに接近されたら狼狽する自信がある。


「シラユキさん、良い匂いがするだでよ」

「こーら、それは認めるけど今は集中なさい」


 分かる。分かるよ!! シラユキいい匂いだよね、ずっと嗅いでいたくなる魅惑の香りだよね!!


「2人とも、せっかくシラユキさんが教えてくれてるんだから、真面目にしなさい。さもないと、後で酷いわよ!」

「「ハ、ハイ」」


 どっちもマイヤちゃんの尻にしかれてるのね。カワイイわ。


 『魔力溜まり』を教え終わったら、魔力操作を教え、そこから魔法の発現だ。土属性という身近な存在だからか、彼らはすぐにマスターしてくれた。淀みなく魔力を操作させる方法を教え、スキルも順調に3まで成長して行った。

 当然、スキルが3に満たなかった状態だったので、魔法の修得も出来ていなかった彼らに、いつものを読ませる。

 そこでもまた騒めきが起きたが、無視することにした。ヨシュア君から意味深な視線が飛んできてたけど、そっちもスルーした。


「「「『アースボール』」」」


 彼らの手から、完全球体の『アースボール』が生み出された。その光景に村人組だけでなく、貴族組からも拍手と喝采が起きた。

 そしてお呼びでは無い高笑いも。


「ハハハ、土属性だと!? 田舎臭い空気を感じるかと思えば、神聖な魔法学園に相応しくないネズミが紛れ込んだようだな!」


 ああん? なんか来たわね。

 正直見なくてもどんな種類の人間がいるのか想像がつくけど、練習の邪魔をするのなら即刻出て行ってもらわなきゃ。


 声のする方を見ると、学園の制服に身を包んだ男子生徒が居た。しかもまぁ、ありきたりに子分まで引き連れて。


 はー、せっかく私が、土属性だからって卑屈になりそうなところを、自信に変えてあげようとしてるのに、今のでちょっと村人組のテンション落ちちゃったじゃ無い。なんて事をしてくれてんのよ。

 ぶっ飛ば……おほん! ぶちのめすわよ!?


「こ、これはサルバトール家のコリック様。お久しぶりでございます」

「ふん、ヨシュアか。貴様が来ているというからわざわざ見に来てやったぞ、ありがたく思え」

「恐縮です」

「ヨシュア君」


 頭を下げようとしたヨシュア君を止める。コレがヨシュア君がさっき思い浮かべた偉そうな奴やつかな? っていうか既に私の邪魔をしてるから、もうコイツは私の敵ね。


「こんなのを相手にする必要はないわ。いいから君は練習に戻っていなさい」

「なにっ!?」

「シラユキさん!? だけど」

「だけども何も無いわ。今必要なのは何? 魔法の練習であって、偉そうに出てきたモブの相手をする事じゃ無いわ。貴方は下がっていなさい」

「モ、モブだと……貴様、何様のつもりだ! 名を名乗れ、貴様に決闘を申し込む!」

「はぁ、見てわかんないの? 馬鹿ね、制服着ていないんだから生徒なわけないでしょ。学園生じゃ無い人間は決闘の対象外よ。おマヌケさん」

「ぐっ……貴様、1度ならず2度までも……!」


 ほんと、豚といい魔人といい、煽り耐性ないわねコイツら。野生の獣の方がまだ理性的なんじゃないかしら?


「それで、何しにきたわけ? 土属性をバカにするアンタは、さぞ崇高な属性を扱えるんでしょうね」

「はっ、何を言うかと思えば。当然だ、高貴なる我が祖先から代々受け継がれた、炎魔法を使えるのだ。貴様ら平民風情が、容易く扱える属性ではない!」

「あっそ」

「なっ!」


 氷とか雷とかくるのかと思いきや、ただの炎って。何なら先月教えたドワーフ達の方が、今ならコイツよりも上手く扱えてると思うわ。


 それと炎って、強いイメージはあるけど土に対しては結構無力なのよね。お互いをぶつけ合った場合、超高温の炎ならまだしも、ただの炎じゃ文字通り焼け石になるだけで、土の方が勝ったりする。


「じゃあその高貴な炎とやらで、私の土魔法に対処してみなさい」


『パチンッ』


「な、何だこれは!?」

「土属性魔法スキル40の『アースウォール』よ。天井には空気穴を開けてあげたから、大人しくしていれば死にはしないわ。高貴(笑)な魔法とやらで抗える物ならやってみなさいな」


 阿呆を配下もろとも土の壁に閉じ込めた。何かギャーギャーと空気穴から聞こえるけど、あんまり騒ぐと酸欠になるわよ。それと、私のカワイイ耳には雑音として処理されるから、何を言ってるのかさっぱり聴こえないわ。

 そして数分もしないうちに静かになった。


『パチンッ』


 石の壁は砂へと変わり、そこには2体の哀れなモブが倒れていた。案の定、挑発されて怒り狂って炎魔法でも使ったんでしょうね。

 あんな狭い密室空間で少ない酸素を燃やせばどうなるかなんて、分かるはずなのに。いや、その辺の概念、テストに出なかったし、そう言う知識すらない……? まあ良いわ、科学の分野は私も別に得意という訳じゃないし、この辺りはなんとなくで良いのよ。


 一応生きているかの確認をしたけど……うん。ただの気絶みたいね。


「アリシア」

「……はい、お嬢様」


 何処からともなく冷たい目をしたアリシアが現れる。

 姿が見えないと思っていたけど、試験が終わった以上は近くに居るんじゃないかなーと思って呼んでみたら、案の定近くで控えていてくれた。流石私のアリシアだわ。


「このゴミ達を、外の庭にでも捨ててきて」

「お嬢様に対する暴言、見過ごせません。焼却炉に放り込みましょうか?」


 やっぱ怒ってる。


「そこまでする必要はないわ、適当に捨てといて」

「畏まりました」


 深くお辞儀をしたアリシアは、2つの荷物を引きずりながら出て行った。

 彼女の事だから、今の用事が済み次第、また近くで見守ってくれるんでしょうね。私の初めての、学園での友人との触れ合いだもの。彼女は出しゃばったりはしないはずだわ。


「じゃ、ゴミも片付いた事だし再開しましょう。貴方達も土属性だからって卑屈になる必要は無いわ。使いようによってはとっても便利だし、さっきみたいに炎魔法の天敵にもなり得る属性よ。あの阿呆の言葉に騙されちゃダメよ?」


 ファーレン村の子達だけでなく、他の平民組の子達もブンブンと首を振った。分かってもらえて何よりだわ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そして、3人組という分け方が功を制したのか、1組に30分。4組に約2時間ほどで、何とか全員をまともな『魔法使い』として生まれ変わらせることに成功した。

 正直、この中でも獣人組の子達は苦労した。獣人はドワーフ並みとは言わないまでも体温が高いみたいで、魔法の発現者が珍しいみたいね。ココナちゃんを合わせても、19人中4人しか獣人がいなかったくらいだ。

 しかも属性は、バラバラで炎、風、雷。集落も違えば風土も違う。その上、彼らが知る雷は、正しく使うために必要な知識とはかけ離れていた。雷がどういう存在かを理解させるのは至難の業だったわ。

 すんなりと覚えたリリちゃんは異常だったのね。天才肌とも言うのかしら?


 教えているうちに、リリちゃんとの違いをまざまざと感じさせられた。だってリリちゃんは、10分かそこらでまともに使用できたのに、教えていた獣人君は20分もかかったもの。まあ、覚えてからはスキルの上昇は速かったけどね。

 リリちゃんのように強力な魔法を使用してのショック療法も、最悪魔法という存在に恐怖を植え付けかねない方法だから使えなかったし。難しいところね。


 とりあえず、帰ったらリリちゃんを褒め回そう。


「ふぅ、これで全員終わりね。それじゃあ皆、改めて魔法を使って見せて」

『はい!』


『『ファイアーボール』』

『『ウォーターボール』』

『『アースボール』』

『『ウィンドボール』』

「『サンダーボール』」


 呪文詠唱なんてものを必要とせず、平民組が一気に『ボール』系魔法を展開して見せた。

 氷だけないのは残念だけど、雷が1人いただけでも十分珍しい事よね?


 ……うん、籠められた魔力も、形状も申し分ないわ。スキルを3まで上げさせた事で魔法を習得し安定した『ボール』になっている。

 まぁ完全な球体には至れていないけど……。あとは彼らの練習あるのみね。


「出来た……出来たよシラユキさん!」

「地元の先生の下でも、まともに魔法を使えなかった私が……」

「おら、夢を見てるんじゃないべさ? 信じらんねえべ……」

「おめでとう。みんな疲れたでしょうし、今日はゆっくり休むのよ?」

『はい!』


 ファーレン村の3人は最初に教えただけあって、今では全員スキル5だ。順当に成長しているし、入学する頃には10まで成長してるんじゃないかしら。


「シラユキ姉さん、いや、ボスと呼ばせてくれ! 俺達一生ついていくぜ!」

「群れでは魔法を使う奴は軟弱だって言う奴も居たけど、姉さんなら全員のしちまいそうだな!」

「姉さん、ウチらのボスになってください!」

「舎弟になるのは構わないけど、人様に迷惑は掛けちゃだめよ?」

『はい、ボス!』


 3種類の尻尾をブンブンさせる彼ら獣人組を窘める。……せっかく舎弟になったんだし、今度彼らの尻尾や耳をモフらせてもらおう。


 獣人は力こそパワーというか、強い奴が偉いって風潮の集落が結構多い。彼らはバラバラの集落から来たみたいだけど、どこも方針は同じみたいね。しかも、彼らの集落には定住する『神官』が居なかったのか、彼らは『魔法使い』ですらない。というか、平民組の半数は前衛職だったりする。


 多分、『神官』が居たとしてもまともに魔法が使えず、レベル0からレベル1に上がる為に必要なが刺せなかったんでしょうね。

 でも一応、ある程度のレベルさえあれば前衛でもスキルキャップ値は確保出来るし、ステータスが高ければそちらもある程度の威力は保証される。


 もし仮に、魔法学園だからって魔法職だけしか入学できないとかほざく奴が現れたら、カチコミに行こう。なんなら私も、魔法職とは言えないんだもの。『グランドマスター』は前衛職でも後衛職でもなく、オールラウンダーなバランス職だもん。たぶん。


 他にも一癖も二癖もある子達から感謝され、皆にしっかりと休息を取る事、そして明日は万全の体調で臨む用厳命しておく。

 貴族組に用意していた各種『ボール』系魔法も解除し、ずっと練習しつつもこちらを見守り続けていた彼らも解散させた。最後に残ったのはココナちゃん。そしてアリシアと……フェリス先輩だった。


「シラユキちゃん、お疲れ様」

「あ、先輩!」

「狐のお嬢さんもこんにちは」

「こ、こんにちはです!」

「先輩はアリシアと見ていたんですか?」

「ええ。それに約束したでしょ、錬金術の専用釜を使わせてあげるって」


 うぇ!? か、完全に忘れてた……。


「それに、明日の教師役の1人は私が担当するからその視察ね」

「あう、ごめんなさい。彼らの教育に夢中になってしまって完全に忘れてました……」

「フフ、良いのよ。そのおかげで今年は、誰も落選することなく入学出来そうなんだもの。……それにしても、シラユキちゃんと同年代で同じクラスになれる彼らは幸せ者ね。色んなことが毎日聞けるんだもの。勉強にもなるし良い刺激にもなる。正直言って羨ましいわ」

「ソフィーと同じクラスになれるかな?」

「そうね。去年の初等部でも優秀な子達は多かったけど、あの子はその中でも突出して優秀だったわ。今回の編入生は間違いなく全員が優秀な成績を残すでしょうし、元々予定されていたSクラスの面々が大幅に入れ替わる事でしょうね。もしかしたら、彼らから恨みを買っちゃうかも」

「ふふん、望むところよ」


 売られた喧嘩はまとめて買うわ!


『色んな耳と尻尾があるのね!』

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