第120話 『その日、門をくぐった』

 ――あれから、色んな出来事が起きた。

 楽しい事、忙しい事、残り少ない家族との時間を過ごした事。過ぎ去った日に想いを馳せながらも、改めて目の前に迫った懐かしい門を見上げる。

 門の向こうに聳える、魔法学園の校舎を見ていると、様々な情景が思い浮かんだ。魔法学園で過ごした、賑やかで幸せな記憶。そこで過ごした、かけがえのない青春の日々。


「お嬢様、如何されましたか?」

「ううん、こんな気持ちでこの門を見上げるのは、これが最初で最後だろうなって……」

「……そうですね」


 学園生活では、様々なイベントが起きた。大事な友人も出来た。そして、悲しい別れもあった。……どのシーンだって、私は今でも鮮明に思い出せる。


 感傷に浸っていると、隣から声がかかった。


「お嬢様、そろそろ予定のお時間ですよ」

「……」

「これから起こる事は、お嬢様にとっては始まりに過ぎないでしょう。ですが、世界規模で見れば紛れもなく新たな扉が開く瞬間です。私は、特等席でお待ちしておりますね」

「気が早いわね、アリシアは。でも任せておきなさい、貴女の期待は裏切らないと約束するわ」

「はい。いってらっしゃいませ、お嬢様」


 さぁ、行こう。こんな気持ちでこの門を潜れるのは、ゲーム時代を含めても2度目ね。シラユキの体で、学園生活を2回も堪能出来るなんて……。私ってば幸せ者だわ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 ……魔法学園には数えきれないほどの思い出が詰まっている。そんな学校をゲームではなく、リアルで見てしまえば、懐かしい記憶が込み上げて、色々とフラッシュバックしてしまうのも仕方のない事よね?

 これはやっぱり、忙しかったからかしら? 魔人を倒した翌日から、本当に忙しい日々を過ごしたから、現実逃避したかっただけなのかも。

 こんなんじゃダメだわ。気持ちをしっかり切り替えていかないと!


 魔人の件について、再度王城に呼び出されて陛下や公爵にじっくり説明をしたり。

 『アラウルネの発見情報』クエストを受けると言う子達の面談とかイタズラ……もとい手解きとか。

 人工魔兵との戦いで疲れ果てていた騎士団を慰安したり。

 あとは家族とイチャイチャしたり。


 本当に色々……あっちこっちに走り回っていたわ。

 正直、受験勉強をする時間もまともに取れなかった。筆記で落ちたら陛下のせいにしよう。


 さっき思い出した記憶も、ゲーム時代に学園生活を謳歌していた時のもので、別に今から卒業するわけではない。入学試験を受けに来たのだ。


 とりあえず今日は筆記試験からだったわね。そして明日には魔法の実技試験、と。

 基本的に途中入学するのは2種類。家庭が特殊な事情だったりとかで、初等部に入るタイミングを逸してしまった貴族。もしくは貴族からの推薦により、従者や冒険者、または平民が、魔法の素質を出遅れで認められたケースに分けられる。

 本来は『適性検査』が正しいタイミングなんだろうけど、稀にそれを過ぎてから魔法の発動が出来る子が現れるらしい。

 そして、そこにはやはり適齢期というのが存在する。


 まあ学生という区分がされている以上、18歳以降は学園に入ることが許されないんだそうだ。最初の『適性審査』から6年。その間に開花しない才能は不要というのが貴族としての見解らしい。まあ表向きは、『学生』という身分である以上、大人は入れないと言うのが魔法学園の言い分らしいけど。


 まぁ実際、貴族の推薦が無ければ入学費で金貨を取られるようだし、金貨は平民からすれば大金だ。18歳以降でも受講が可能となったとしても、魔法使いと言う夢はあっても、成功するかは不確定。今の世界状況じゃ、輝かしい未来は得られそうにないわね。


「シラユキちゃんは永遠の16歳だから問題ないわね」


 実際何歳なのか。設定どおりなのかわかんにゃいけど。


 で、そんな私の立ち位置は後者の、推薦を受けただけの平民であり、貴族の子達に比べると立場が低いらしい。陛下も公爵様も、その辺り気にしていたみたいだけど……。変に格を上げられちゃ、周りの子達に遠慮されちゃうわ。だから彼らには、そこは手出し無用と伝えておいた。

 だからといって後ろ盾自体が無くなるわけでもない。私の背後には西方地域を担当する名だたる貴族達に加え、陛下や宰相さんも入ってる。


 なので今の私は、表から見ればとってもカワイイ推薦入学者。

 裏から見れば踏み抜けば即死のキューティーボム。うんうん、これなら問題はないわね。


「エルドマキア王国、魔法学園高等部、入学試験へようこそ。受験票、もしくはそれに類する手形をお持ちですか?」

「はい、確認してください」


 係の人に受験を証明する手形を見せる。


「えっ!?」


 手形を見せた際、受付の人は目を疑ったのか、手形と私の顔を交互に見てきたけど、とりあえずニッコリ微笑んでおいた。


「か、確認致しました。試験会場の教室はあちらでございます。順路に沿ってお進みください」

「ありがとう」


 教えて貰った通りに校舎の中を進んでいく。

 証明の手形は、魔人の件で呼び出された時に陛下から受け取った。要するに、この者を魔法学院入学希望者として国が認めるというもののようで、そこには先程の後ろ盾。……つまりは西方貴族達と王家の家紋という、見る人が見ればひっくり返るモノが描き込まれていた。


 いや、実際ママはひっくり返ったんだけど。

 理由は、ママも含めて家族全員がその手形を貰ったから。まあ私たちは全員彼らの保護下にあるという事なんだけど、私との生活で衝撃に多少慣れてきたくらいでは、ママも耐えられなかったらしい。合掌。


 そんなモノを持っていて、尚且つ貴族ではない平民の推薦枠ときたら、『この人は一体何者なんだ』と、受付の人が驚くのも無理もない。アリシアから聞いたところによると、そこまでの後ろ盾があれば普通は裏口入学でも問題ないらしい。やらないけど。


「さて、この教室かな」


 事前に教えてもらっていた試験開始の時刻まで、まだ30分以上余裕がある。早めに来たのには理由があったが、問題は何人来ているかだ。


 ……よし、行こう!

 意を決して教室へと入ると、いつものように視線が集まった。部屋の割合で言えば、貴族っぽい子が1割。

 貴族ではないけど背筋がビシッとしていて落ち着いてる子……多分どこかの従者出身かしら。たぶんこの子達は、貴族と長く接してきた事で魔法の素質を認められ、箔付けの為に入学してきたのかしら? そんな子達が2割。

 そして残りが平民枠かな。人族の他に獣人族もいる。それが7割ね。


 王国の中で唯一の魔法学園ということもあってか、想像していた以上の人数がその部屋にはいた。推薦者だけと聞いていたから、正直舐めてた。

 せいぜい5人にも満たないでしょとか思ってました。はい。


 ……この部屋に20人近くは居るわね。彼らは運良く、私と同じ時期に試験を受けにきたんだ。折角だから同期の子達とは仲良くしたいし、なんなら全員の試験は手伝ってあげたいとさえ思っていた。

 だけどこの人数……ううん、1度にカバーしきれるかしら??


 兎に角、ここで何もしないというのはダメだわ。試験まで時間の余裕があるうちに、1人1人声をかけていきましょ。


 となれば最初に声をかけるべきは……。

 うん、貴族も平民も無いんだから、順番に行きましょう。


「こんにちは」

「あ、こんにちは。在学生の方ですか?」

「いいえ、貴方達と同じ受験生よ。私はシラユキ、貴方は?」

「ご丁寧にどうも。僕はグラード子爵家次男、ヨシュアと申します」

「グラード……西方にある穀倉地域だったかしら。それにしても子爵家が途中からなんて珍しいのね」

「領地をご存知なんですね。お恥ずかしながら、僕は領主となる兄の補佐として勉強してきました。ですがトラブルがあって僕が引き継ぐこととなり、予定に無かった魔法学園で学ぶ必要が出たのです」


 西方地域はトラブルばかりね。グラードの街は進行ルート上寄れなかったけど、大きなトラブルは起きてないはず……いや、何かあったから彼が継ぐ事になったのか。

 ……あれ? 確か正史では、あの街は子供が全員行方不明になったとか、他にも領主が事故にあったとかで街がぐちゃぐちゃになっていたような……。

 うん、まあどうせ奴らの仕業なんだろうし、元凶がいない今、これ以上不幸になることはないはず。


「大変そうね。でも、今後困ったことがあったら言ってね。相談に乗るわ」

「えっ、会ったばかりなのに、どうしてそんな親身になってくれるんですか?」

「だってこれから、貴方も、この部屋にいる人は全員私の学友であり、同期になるんだもの。友達が困っていたら助けるのは当然でしょ?」


 その言葉を皮切りに、周囲から飛んできていた視線に乗る感情が、柔らかくなる。


「シラユキさん……。はい、僕の方こそ宜しくお願いします。それと、シラユキさんも困ったことがあれば何でも言ってくださいね」

「ええ、ありがとう」


 最後にヨシュア君と握手をすると、周りで見守っていた事情持ちの貴族の子達が集まってきた。皆それぞれ、変わっていたり大変だったりする事情を抱えていたけれど、もう私と友達になったんだもの。

 彼ら彼女らが助けを求めてくることがあれば、全力で手助けしてあげたいわ。勿論、助けを求められなくても、困っていたら勝手にお節介で声をかけちゃうけど。


 さて、今の子達で貴族の子女達は終了ね。となれば次は……。私は近くの、部屋の隅で縮こまっている子達に話しかけた。


「こんにちは」

「へぁっ!? こ、こここんにちはです!」

「ははははじめまして!」

「よ、よろしくお願いしますだど!」

「ふふっ」


 慌てちゃってカワイイわ。最後なんてちょっと訛ってたし、そこがまたカワイイ。


「「「……」」」


 何故話しかけられたのかっていう困惑と、恥ずかしさと、眩しい物を見るような顔をしているわね。


「不思議そうね」

「は、はい。どうして僕たちなんかに……。あっ、なにか失礼を……!?」

「何言ってるのよ、これはただの挨拶回りだわ。挨拶に貴族も平民も無いでしょう? それに聞こえていたわよね、この部屋にいる皆は今後は学友となり、同期でもある友達だって。私はただ、部屋に入って近い順番で声をかけて行ってるだけよ」


 その言葉に周囲はざわついた。ヨシュア君達は静かなもので、ざわついてるのは平民の人間と獣人達ね。


「まだ信じられないみたいね。ならハッキリと伝えてあげる。ヨシュア君はたまたま入り口近くに居たから話しただけで、他の貴族の子達も彼らから話しかけてきたから順番に挨拶をしただけ。貴族がどうとか爵位がどうだとか出身がどうとか。私にとってはどうでも良い事だわ」


 今度は貴族の子達も一緒になってざわつき始める。このような場になっても冷静なのは、一部の子達と笑っているヨシュア君だけだった。


「シ、シラユキさん。今のは失礼ではないでしょうか。誰の耳があるか分かりませんし、あまりこのような事を大声で言うのは……」


 そう注意してきたのは、さっき一緒くたに挨拶した男爵家の長女、アリエンヌちゃん。彼女は優しくてしっかりとした雰囲気の子ね。


「アリエンヌちゃんが危惧してるのはアレよね。貴族に挨拶する時は爵位の偉い奴を優先しろとか、爵位の低い奴から声をかけるのは禁止だとか、そういう裏ルールを厳守して、無視すると突っかかってくる七面倒な連中の事を言ってるのよね?」

「え、あ、そ……ええ」


 私のハッキリとした指摘に、心当たりがあるのかだんだんと返事の声が小さくなって行った。カワイイ。


「そんな一部の阿呆が勝手に決めたルールなんて、無視すれば良いわ。だってそんな国法、この国には無いんだし、それにここは魔法学園よ。魔法学園では堂々と、貴族も平民も無いって言ってるんだから、その通りにすればいいのよ」


 そんな簡単に行けば苦労はしないんでしょうけど。


「そもそも、初対面で相手の爵位や立場を把握しろだなんて土台無理な話よ。上位者の顔なんて他人が知ってる訳ないし、そんなに言うなら頭の上に名前と爵位を紙に書いて掲げてなさいっての」


 まあ、実際にそんな事してる人がいたら笑っちゃうけど。


「ぷふっ」

「あはは!」

「ヨ、ヨシュア様、笑っては……ふくっ」


 平民の子達は呆気に取られてるけど、従者組は対照的に慌てている。そして彼らの主人である立場の貴族組には大ウケみたいね。

 威張り散らしてる上級貴族やその子供とか、思い当たる節がいっぱいあるんでしょうね。


「つまらないルールに縛られている他のクラスの子達や、学園の外はともかくとして、今この教室に居る私達は対等よ。私は、皆とは壁を作らず仲良くやって行きたいし、あなた達もそんな事は気にせずに接して欲しいの」


 そう言って、目の前にいた子に手を差し出す。


「ほら、握手しましょ。あと、この手を取ったら友達なんだから、敬語は不要よ」

「……分かった。これからよろしく」


 平民の子と握手を交わした。

 それを皮切りに、皆が爵位も生まれも、種族も関係なく繋がりの輪を広げ始めた。最初は皆遠慮がちだけど、打ち解けあえば自然によくなって行くはず。

 うんうん、良い感じね。中には自分からアクションを起こせない子もいるだろうけど、その時は私が引っ張ってあげれば問題ないわ。


「それであなた達は、どこから来たの?」

「ああ、僕達は北東部にあるファーレン村から来たんだ」


 聞いたことのない村ね。


「そうなのね、あなた達は皆同じ村出身なの?」

「ああ、物心ついた時から一緒にいるんだ」

「お、おら達の先生が魔法を教えてくれたんだで」

「今出来るのは簡単な土魔法ですけど、もっと勉強して村の役に立ちたくて」


 最初に話したのがファーレン村の村長の子、ロック君。

 もう1人は体が丸くて、少し訛ってるリクレス君。

 最後に紅一点のマイヤちゃん。


 3人とも扱える属性は土魔法だけらしい。村での役にってことは、畑仕事でとかかな? 確かに使えるととっても便利よね。

 植物を操るには精霊魔法や一部の職業のスキルが必要だけど、土いじりをする分なら土魔法で十分だ。それに攻撃としても物理的な遠隔攻撃手段になるし、一見地味だけど割と馬鹿に出来ない属性だったりする。


「そうなのね。3人は筆記試験の方は大丈夫?」

「一緒に勉強してきたからね、平気だと思う。それに、先生からは筆記よりも魔法をちゃんと発動させられるかが問題と聞いてるから、心配はそっちかな……」

「あー、まあそうね。魔法に関しては、本番で緊張しないよう気をつけなきゃだわ。もし自信がないならこの後、私が直接視てあげても良いわよ」

「え、良いの!?」

「ええ。筆記試験が終わってからなら、しばらく時間に余裕はあるだろうし。なんならこの教室に居る全員を見てあげても良いと思ってるわ」


 ファーレン村の3人組は顔を見合わせた。


「是非お願いします!」

「お願いするだよ!」

「お願いします!」

「分かったわ」


 本格的な指導は後日に回すとしても、テストで落ちない程度には手伝ってあげよう。


 その後も、他の平民組も魔法を見てあげる約束をしたところで、改めて教室内を見回した。

 うんうん、教室の雰囲気もいい感じになってきたわね。貴族も平民も関係なく、年相応に楽しそうだわ。従者組は流石に主人に対してタメ口は出来なさそうだけど、そこは仕方がないわね。


 だって、アリシアにタメ口で喋るようとお願いしたら、どんな顔をされるか想像できないし。……最悪「メイドはもう要りませんか?」とか悲しげに言われそう。うん、アリシアには禁句ね。


 これでもし、この中から誰か1人でも試験に落ちたらショッキングだけど、魔法でヘマが起きないようきちんと面倒見てあげなきゃ!

 それにこれだけ皆が積極的に仲良くなろうと動けば、あぶれる子なんて居ないはず。


 ……あ、居たわ。


 教室のど真ん中で、目を閉じて周りの喧騒を微塵も気にせず、自分の世界に閉じこもってる獣人の子が……。周りの子達も話しかけては反応の無さに気を遣って離れてる。

 いえ、これは……瞑想してる? 周りを避けてる訳じゃなくて、瞑想が深すぎて周りの変化に気付いていない?? もしそうなら、すっごい集中力ね。夢中になったときの私にも負けないんじゃないかしら。

 それによくよく見れば、耳も尻尾もスタンダードな犬猫タイプではなく狐タイプだった。更にはこの子、尾が3つもあるし、どこかで見たことある子だわ。


 失礼だけど、見ちゃお。


「『観察』」


*********

名前:ココナ・ミカド

職業:巫女

Lv:11

補正他職業:剣士、格闘家、魔法使い、狩人、槍使い、シーフ、重剣士、騎士、武闘家、魔剣士、魔術士、神官、レンジャー、付与士、バトルマスター、召喚士、ローグ

総戦闘力:1245

**********


 うっわ、すごい。

 補正ノーマルランク6、ハイランク8、エクストラ3。

 そして最後に、この世界で初の『』。後衛職のレベル11にも関わらず、このステータスは流石としか言いようがないわね。

 リリちゃんが『魔法使い』レベル11の時なんて、400ちょっとよ。それだけでも『ハイエンド』のスペックの高さが窺えるわ。


 本来『巫女』になる為の必須職が欠けていたりするけれど、そこは遺伝だしまぁ仕方がないわね。

 そしてこの名前に3つの狐尾。間違いない。


 王国東部に隠れ住み、代々巫女を輩出し、占星術や祈禱術を生業とする一族で、成長と共に尾が増えて行き、いずれは九尾にまで至れる希少種族。

 そんな種族に産まれ、一族からも将来有望と一目置かれ大事に育てられて来た箱入り娘。だからか、人の事を全然警戒しないし、無防備なくらいに人懐っこい。そんな性格に加え、庇護欲を掻き立てられる天性の愛くるしい容姿を持ち、更には尻尾がモフモフで、感情がそのまま耳や尻尾に出ると言う。

 そんな彼女に、大多数のプレイヤーは魅了され、一時期は連れ歩くNPCがココナちゃん一色になるというブームすら巻き起こした。


 そんな、プレイヤーから愛され続けるココナちゃんが、目の前に、生きてる!!


「ぐうかわ……」


 アリシアに夢中になる前は、私も自由気ままに動き回るココナちゃんを、小一時間ニヨニヨしながら鑑賞し続けたりすることはザラにあったわ。懐かしい……。

 正直世界で一番カワイイのはシラユキちゃんだけど、2番目と言われたら迷わずココナちゃんを推すくらいには彼女はお気に入りだった。

 そんな彼女は、正史では学園には所属しておらず、故郷の村で修業をしていたはず。なぜここに?


「……」

「……」


 もしかして、この集中状態が仇になって落ちたとか……?

 あ、あり得る。この子、出会って間もないころは自分の実力に自信が無くって、極度のあがり症だった。しかもそれを自覚していて、克服しようと努力して裏目に出たり。意識しすぎないように集中して今度は話を聞き逃したり。ちょっとダメな子だった。

 そのダメさがカワイかったけど、協力してあげれば、割とすぐに克服出来たから、あんまり長期間拝めなかったのよね。


 この子が落ちるなんて世界の損失だわ!

 1日で克服させる!!


「おーい」

「……」

「お嬢さーん」

「……」

「モフモフちゃーん」

「……」

「返事が無いからモフモフしちゃうよー」

「……」


 話しかけるも返事はない。相変わらず深みにどっぷり嵌っているようだった。

 じゃ、揉むか。


『さわっ』

「ひゃいん!」


 おお! フカフカで柔らかい……。

 ゲームでは見ているだけでタッチは許されなかったけど、実物はこんなに柔らかいのね。


『モミモミ』

「はうっ!?」


 ちゃんと尻尾には芯があって、でもカチカチに硬いわけでもなくずっと触っていたい魅惑の触り心地。なんだろう、枕にしたら良い夢見れそう……。あ、でも私の場合は、夢といっても小雪とのお喋り会なんだけど。

 ……そう思えば、小雪を作った後って、普通に夢を見たりするのだろうか? それとも小雪と繋がって、またお喋り会が開かれるんだろうか?


『コシコシ』

「ひゅうん!」


 尻尾はどれも同じ具合かと思ったけれど、それぞれ弾力や柔らかさに違いがあって素晴らしいわ。でもどれも、ずっと触っていたくなる……。まさに魔性の尻尾ね。


『ギュムギュム』

「はっ、あっ。……え? あ、あのあの、な、なにをしてるんですかっ!?」


 あら、ようやくお目覚め? あんなに揉みくちゃにされていたのに……。やっぱりこの子の集中力、異常ね。そこがまたカワイイんだけど。


『いいな、いいな! 私も揉みたーい!』 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


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