第022話 『その日、シラユキと意気投合した』

「ハァーイ、マスター」


 絶世の美少女、シラユキが笑顔で手を振っている。

 シラユキが笑顔で迎えてくれるなんて、これ以上に嬉しいことはない。なんて幸せな夢なのだろう。きっと今日1日頑張った俺に対するご褒美かもしれない。

 あぁ、シラユキはいつ見てもカワイイ。っていうか幸せ過ぎて死にそう。


「ちょっと! マスターに褒められるのは嬉しいけれど、私は夢なんかじゃないわ」

「えっ? ……いや、夢の住人はみんなそう言うし、これはきっとそういう夢だな」

「なんですって!? ……んもぅ、仕方ないわね。じゃあ勝手に始めるから、マスターはそこで聞いていなさい。……第1回、シラユキちゃんによる1日の総括~! どんどんぱふぱふー!」

「え」


 なんか始まった。両手を使ってモーションを取るシラユキカワイイ。


「ふふっ、昨日は出来なかったからまとめて行うわね。まず最初ね。見慣れないからって、まさか揉みしだかれるとは思わなかったわ。マスターってエッチなのね」

「グフっ」


 目覚めた当初にシラユキの身体に行った、俺の奇行の事だろう。痛いところを突かれた。あの時は出来心とはいえ、暴走してた自覚はある。


「あの時は、その……」

「あっ、別に怒ってはいないのよ? ただびっくりしたというか、マスターになら何されても許しちゃうというか……何なら指を使っ」

「ストップ! シラユキストーップ!」


 シラユキは胸を揉むジェスチャーをした後に、片手を下に伸ばし始めた。それ以上はいけない! いきなり何し出すのさこの娘は!?


「……私は夢みたいだし、その命令には従えないわ。指を使って私の」

「夢なら従うべきでは!? いや待って、認める! キミは本物! 夢じゃない!! だから、それ以上は勘弁して!」


 俺の考えが筒抜けなように、シラユキの感情が何となく伝わってくる。彼女は本気だ。それを口走られると非常に不味い。

 イタズラが成功したみたいに『ニマッ』と笑う。ヤバい、カワイ過ぎでは? 俺は、ここで死ぬのか?


「ちょっと、そのくらいで死なないでよ! それで、なあに? これ以上先を言われたら幻滅しちゃう?」

「いや、その……分かるだろう? 俺の考えてること」

「いいえ、全部はわからないわ。マスターが強く思ったことや感情の流れは汲めるけど、全部が全部お見通しじゃないのよ? それにもし分かったとしても、やっぱり私は直接伝えてほしいわ。だって私たち、今までどんなに望んでもできなかった、……会話ができているのよ?」


 その言葉に、俺は衝撃を受けた。

 ……ああ、そうだな。そうだよな。そう思っているのは、俺だけじゃなくて、キミも、そう思ってくれていたんだな。


「わかった。ちゃんと伝えるよ。……2次元の、創造の中のシラユキじゃなくて、リアルの……本物のシラユキから、そういう言葉を口にされると、そういったシーンを鮮明に想像しちゃいそうで……。多分、考えるだけで悶え死にそうだから、本人の口から言われるのは、勘弁して欲しい」


 自分で想像しないようにはしてるけど、口に出されたら……。想像力働きすぎてヤバい。絶対死ぬ。


「そうなんだ。なら、ここで実演なんて」

「しなくて良いです」


 断固拒否する。見たいかそうでないかと問われればもちろん見たいが、俺の魂が戻ってこられない可能性が高い。今はまだ、目の前で気ままに動く彼女が見られるだけで幸せだ。


「ふふっ、了解よ。身体を得たらたっぷりカワイがってもらう事にするわ」

「ど、努力します……。そうだ、シラユキに聞きたいことがあるんだ」

「なによう、まだ総括の途中よ?」


 と言いつつも続きの言葉を待っている雰囲気を感じる。ああもう、カワイすぎてヤバい。


「どうしてキミは……いや、一体いつからキミは、自分の意思を持っていたんだ?」


 俺は、一番気になっていた核心を突いてみることにした。これ以外の疑問点は、正直雑談みたいな物だ。


「……そうね、明確に私という存在が生まれたのは、この世界に来てからよ。それでも前にいた世界のことは鮮明に覚えているし、前の世界でもたまに私が表に出ることがあったわ」

「えっ……それは、本当に?」


 シラユキが表に出ていた? 俺が操るシラユキではなく、彼女が彼女として?


「ええ。でも、私としてはマスターには思い出してほしいから、全部は説明したくないわね」

「ああ、分かったよ」

「あら、もっと粘られると思っていたわ。随分物分かりが良いのね」

「シラユキの事だからな。俺が分からないなんて恥もいい所だ。絶対に思い出すよ」

「ふふっ、そう」


 彼女は上機嫌に微笑んだ。カワイイオブキュート!!


「もう、そんなに褒めないでよ、話進まないじゃない……」

「だってシラユキがカワイイんだから、仕方ない」

「ふふっ。ありがと、マスター」


 シラユキと会話ができるということが、幸せすぎて思考が上手くできない。聞きたいことがいっぱいあったはずなのに、結局聞けたのはカワイイ子に対するアプローチ方法に関して、改めて確認出来ただけだ。


「前の世界で表に出た時、特にミーシャね。あの子に初めてキスした時、感触はあったけれど温もりを感じなかったのよ。反応はカワイかったけれど、あれが本当に不満で不満で……。マスターに言わせれば、あそこはデータの世界で現実ではないんだろうけど、やっぱりカワイイモノを愛でるなら、直接触れて愛でたいじゃない? それが叶って今は、触れればちゃんと温かいのよ! 我慢なんて、とてもじゃないけどできないわ」

「なるほど……」


 ……ってミーシャに初めてキスした時!? あの時のことは今でもハッキリと覚えてる。仲良くなり始めた時に起きた事件だ。そう、事件。

 下手したらアレは通報されていたのだから、事件に違いない。


 確かにあの時、ミーシャの事が非常にカワイく思えて、そう感じたと思ったら体の制御が利かずに、押し倒すようにキスしてしまっていた。

 ……あれがシラユキが出てきたタイミングか。

 ……うん、そういうことなら色々と覚えがありすぎるぞ! こういった事件は片手じゃ足りないんだ。


 それを思うと、よくミーシャに通報されなかったと思う。いや、男だとバレて死後に晒されているかもしれない。こわっ。

 俺が作り上げたシラユキ像をシラユキ自身が崩していた可能性があるって事でしょ? ううむ、それは何というか……なんとも言えんな……。


「シラユキがいつ出てきたか、大体思い出したよ。10や20じゃ足りないよね」

「もう思い出してくれたの!? さすがマスター、嬉しい!!」

「ヨ、ヨロコンデモラエテコウエイダヨ……」


 俺は複雑な気持ちでいっぱいだよ。


「それじゃ、総括の続きね。エメラルドスネークは、確かにカワイかったわ。あと、懐かれたのは恐らくMP、もとい魔力か……もしくはCHRの高さが原因ね。魔獣ってそういった目に見えない部分に敏感みたいだから」

「そうなんだ。詳しいね、シラユキ」

「ふふん、見直したかしら?」

「うん、惚れ直した」

「んもー、だから進まないってばー」


 はにかむシラユキカワイイ。


「次に木を殴り壊したアレね。確かにアレはカワイくなかったわ。それに植物は、基本目で見て愛でるものよ。もうしちゃダメよ?」

「はい、気をつけます」

「よろしい」


 メガネ無いけどメガネをクイッとするモーションを取るシラユキカワイイ。


「次に門番ね」

「あれは、シラユキのカワイさに素通りさせたと思ってたけど、当たらずといえども遠からずだったのかもね」

「そのようね。多少問題があっても通した可能性が高いわ。ねえ、気付いてた? あの後からずっとつけられていたのよ?」

「マジで? 視線は感じてたけど……」

「マジよ」

「っていうかどうやって気づいたの? 俺と五感を共有しているとかじゃないの?」

「えっ? ……ふふっ、今は内緒!」


 何だろう。すごく気になるけど、内緒と言いながらポーズを取るシラユキがカワイすぎてどうでも良くなった。


「次にギルドね。まずは絡まれた時だけど……」

「う、うん」


 急にシラユキからの圧が強まる。あれ、なんかマズった?


「駄目ね! 不合格!」

「えええ!?」


 ダメ出しされた!?


「見た目だけでも屈強な男たちに囲まれたなら、怯えるべきよ。あとでボコることに変わりはないんだから、もっとカワイさを前面に出しなさい!」


 まさかの演技指導!?


「そうよ! 今、その演技をしなさい! 怒られて怖がる気の弱いシラユキを演じてみなさい!」


 唐突だな!?

 でも、出来るか出来ないかで言われたら、だ。何年シラユキを愛してきたんだ、それくらいの事が出来ないでシラユキを名乗れるか!


 そうだ想像しろ。怒られて、怖がるシラユキ……。


 目に涙を溜め、身体を震わせ、気持ち内股で、上目遣いに……。

 それが出来たところで、シラユキと目が合った……。


「……ヒッ!」


 シラユキが近づいてきた。体の震えが止まらない。シラユキに肩を掴まれ、何かを言われる。

 嗚呼、やだやだやだやだ、怖い! 怖い怖い!! 怖い怖い怖い怖い!!!

 怒られる怒られる怒られる怒られる!!!!


「……ター。マスター! 戻ってきてマスター!」

「……ふぇ?」

「もう、役にのめり込みすぎよ、マスター。庇護欲を掻き立てられるカワイさがあったけど、後半は異常よ。逆に心配になるわ」


 いつの間にか蹲り震えていた。シラユキには頭を撫でられているし。

 ……あれ? 俺ってこんな、役に没頭するタイプだったっけ?


「たぶん演技力は器用さ……つまるところDEXね。ステータスに引っ張られたのかも。元々マスターは私を演じることに関しては、演技を意識せずに出来ていたわ。けれど、無理が生じる演技を勢いに任せてしまうと感情の制御が利かないみたいね。やらせたのは私だけど、もうこういうのはしない方がいいわね。ごめんなさいマスター」


 『シュン』としょげるシラユキもカワイイ。


「お詫びに私が考えていた、怯える私を見せてあげるわ」


 まるで小動物のように震えていた。上目遣いやっば!?

 っていうかシラユキの周りにカワイらしい花のエフェクトが……、夢の中だからって何でもありだな。


「たしかにカワイイ。連れて帰りたい! でも、俺の考えるシラユキ像からは外れるんだよな……」

「そうなの?」

「うーん、なんて言うのかな。全てのカワイイが、全てシラユキに似合うわけではない……。で伝わるかな」

「おお、流石マスター! 目からウロコだわ!」


 目をキラキラさせるシラユキカワイイ。これが俗にいう目がシイタケってやつか? まぁ実際のシイタケに、クロス傷は滅多にないんだが。

 この際だ。思っていたことを言ってしまおう。


「ついでに言っておくと、女の子の体を触りまくったり、キス魔になるのも、別にカワイくはないと思うぞ。むしろタダの変態まである」

「え!? そ、そうなの? ……でもでも、女の子ってスキンシップするものなんでしょ? それにキスする私とか、カワイくない!?」

「もちろんシラユキはカワイイよ。ただキスするにも相手が必要になるわけで。キスだけじゃなくて、何かを無理やり強要するのは、カワイくないでしょ?」

「うっ……確かに、そうね」

「でも気持ちはわかる。精霊とのキスは絵になるし、カワイさに磨きがかかっていたから俺自身好んでやっていた訳だしね」


 そういえばこの世界での精霊に意思はあるのだろうか。

 嫌がられたらショックだけど、精霊に関しては『白の乙女』があるから許してくれそうなんだけどなぁ。


「まあこれは、シラユキのやりたいことだと思うし、今のところリリちゃんや、シェリー、メアからは過剰なスキンシップも拒絶はされていないから良いとして……。嫌がる相手にはしちゃダメだぞ?」

「……はぁい。わかったわ」


 話していて確信した。シラユキはちゃんと、個を持っている。しかもそれは、俺が想像したシラユキ像そのままではない。

 元にはなってるんだろうけれど、そこから派生して自分を持っている。


 想像していたシラユキ像は、あの世界には本来不要な、人間の三大欲求を省いた上で形成されていた。俺にとって都合の良いように……。

 だがそれも、この世界に来たことでズレが矯正され、人の温もりを求める欲求部分が爆発したのだろう。


 思い通りに育たず上手く行かない……実際の娘もこういった感じなのだろうか。育てたことないけど。

 ああでも、欲望に忠実なところは、想像通りかもな。本来はカワイイ物に対してひたすら突き進むっていうはずのものだったんだが。


「マスターの考えはよくわかったわ。やっぱり、私に似合うカワイイがどういったものかは、マスターが一番わかってくれているのね」

「キミにそう言ってもらえると、光栄だよ」

「じゃあ、この総括もおしまいね」

「え? なんでさ」

「だって、カワイくないと思ったところを言ってあげなきゃ! って思って考えた企画だもの。マスターのほうが正しいなら、言うべきじゃないわ」


 まったく、急にしおらしくなったかと思えばそんなことか。……しおらしいシラユキもカワイイな!!


「いいよ、続けて。意見のすり合わせは大事だし、もしかしたら俺が気付いていないだけでシラユキのカワイイポイントがあるかもしれない。何よりシラユキとはもっと話していたいんだ。だから止めないでほしい」

「マスター……。うん、続けるね!」


 その後も俺達は、クルルの尻尾、ベビードール、ダンジョン、集落、アジト、戦闘全般、リリちゃん、シェリー、メア。

 色んなことをあーでもない、こーでもないと話し続けた。


『「ああ、とっても楽しい」』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る