第356話 邂逅
「おいおい、マジかよ……」
薄い白緑色の髪の青年、魔皇神序列6位に位置するヴェーダが苦笑いを浮かべて言葉をもらす。
ヴェーダは同格たる序列一桁の2人。
序列8位にして真紅の髪をした少女リリーと、序列3位の軍服をピッチリと着こなした美女クラヴィスを見るも、2人に変化は見られない。
風を司る権能を持ち魔皇神の中でもトップクラスの感知能力を誇るヴェーダだからこそ気付く事が出来たが……
ヴィスデロビアの眷属である序列一桁の魔皇神でも気づく事が出来ない程に巧妙に隠蔽されている。
つまり、それ程までの……序列一桁の魔皇神をも欺ける程の実力者が敵にいると言う事。
その事実にヴェーダの苦笑いが深まり、同時に翡翠色の瞳に好戦的な色が浮かぶ。
「ご報告します!」
ヴェーダが気付いた事をリリーとクラヴィスに言おうと口を開きかけたその時。
そんな言葉と共に3人の前に軍服を纏った男が現れて跪く。
「全軍、指揮系統の確認及び点呼が完了致しました。
並行して行った周辺の地形把握によって周囲に敵影は確認されませんでした。
全軍の即座に任務に移行可能です」
「うむ、ご苦労」
そう報告する、いかにも真面目で規則に厳格そうな男。
クラヴィスが率いる軍団にて軍団長と言う地位に就おり、その肩書きに劣らない実力を誇る強者。
確かな実力を持ってはいるのだが……
「悪いが、その報告は間違ってるぞ?」
「どう言う事だ?」
「ナニ、ナニ? どうしたの!?」
報告に口を挟んだヴェーダに、クラヴィスは怪訝そうに眉を歪め。
リリーは面白そう! とワクワクを隠そうともせずに満面の笑みを浮かべてヴェーダに詰め寄る。
「ここは既に敵の結界で包囲されてる。
しかも、かなり強力な結界……多分、魔皇神クラスじゃないと破れないな。
それに俺にも感知できないけど、今も監視されてる可能性も十分にあるぞ」
「っ!?」
「えぇ〜! ヴェーちゃん、それホント!?」
報告をしていた男が驚愕を顕に目を見開き、リリーはヴェーダの服を握り嬉しそうに揺らしながら可愛らしく笑って首を傾げる。
「おうよ、マジだ!」
「おぉ! そんな相手と殺り合えるなんて楽しみ!!
久々に本気を出せそうだね、ヴェーちゃん!!」
「だな!」
魔皇神として最上位の一桁である彼等は基本的に本気で戦う機会なんて滅多にない。
だからこそ、何百年ぶりかの全力を出せるかもしれないと笑みを浮かべる2人をクラヴィスの鋭い視線が突き刺さる。
「ヴェーダ、そんな重要な事を何故もっと早くに言わなかったのだ?
貴様の感知能力ならとうに分かっていたはずだ」
「いや、これがマジでさっき気付いたんだって。
ちょうどクラヴィスとリリーに言おうとした時に、そいつが報告に来てな」
「っ……!!」
ヴェーダに指を向けられ、クラヴィスの視線を受けた男が息を飲んで硬直する。
「まぁまぁ、そいつを責めてやるなよ。
あの結界の隠蔽は並みじゃない、他の奴らが気付かなかったのも仕方ないさ」
「別に責めてなどいない。
ただ、この者達も、そして私もその結界に気付かなかった事に対して不甲斐ないと思っただけだ」
「手厳しいな、クラヴィスは。
まぁ、俺でも気付くのに時間が掛かったほどだし、いつから展開されているのかも定かじゃない程だからな」
そう言って肩を竦めるヴェーダと、強敵の気配に無邪気にはしゃぐリリーを尻目にクラヴィスは思考を巡らせる。
「流石はヴィスデロビア様が懸念なされる相手、一筋縄ではいかんな……直ちにこの事を全軍に通達。
監視されている可能性が高い、周囲への警戒も怠るな」
「はっ!」
そう言うと同時に跪いていた男の姿が掻き消える。
「これより結界を破壊、その後に各自任務に移行する」
「オッケー」
「りょーかい!!」
クラヴィスの決定に、ニヤリと笑みを浮かべてヴェーダが答えて、リリーが元気よく手を挙げ……
「残念だけど、それはさせられないかな?」
荒野に突如としてその声が響いた時には既にその場に3人の姿は無く。
空間の歪みを感知するや否や、一瞬にして後方へと離脱した3人はその声の主と……声の主達と対峙する。
「貴様ら……ナイトメアだな?」
「ご名答! 僕の名前はエンヴィー、我が君の眷属の1人にして秘密結社ナイトメアが最高幹部の1人だよ」
クラヴィス達の視線の先。
そこには転移して姿を現したルーミエルの眷属達とアニクスを管理する大神達の姿があった。
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