第357話 誤解
「しかし、まさかキミ達を隔離するための結界に気付かれるとはね」
油断なく睨んでくる美女に、好戦的な笑みを浮かべる男、嬉しそうに目を輝かせる少女。
一見しただけで敵の中でも突出した実力を誇る事が分かる3名の姿に、エンヴィーは内心苦笑いを浮かべる。
「侵略者殿達も、なかなかにやる様だね」
あの3人、思ってたより強くね?
飄々とした笑みを浮かべながらも、エンヴィーの内心は焦りに焦っていた。
後方にいる大軍勢。
確かに全員が最低でも到達者に当たっており、一人一人が一騎当千の実力を誇る。
だが、それは所詮、人間としての観点からの話。
超越者の中でも強者たるエンヴィー達にとっては有象無象に過ぎない存在。
敵となり得る……エンヴィー達でないと対応出来ない存在はこの3名のみ。
大神達は未だに万全では無く、現状では全盛期、つまり10万年前の大戦時の8割程度。
そして僕とグラトニーは最高幹部の中ではぶっちゃけ弱い方…… 確かに数では優位だが、個々の実力は向こうが上。
総合してみれば戦力は5分ってところかな?
エンヴィーは、ヴィスデロビアが眷属であるクラヴィス、ヴェーダ、リリーの3名。
そしてアニクスの最高神アフィリスと大神7柱に加えて、エンヴィー、グラトニーにノアとシアの計12名、双方の戦力を瞬時に推し量る。
「長引きそうだし、面倒な事は抜きにして……始めようか、侵略者共!!」
エンヴィーから凄まじい魔力が迸り、一瞬にして両勢力を分断するかの様に巨大な津波が姿を現す。
天にも届くかと言う程に巨大な水の壁が、視界を埋め尽くす大軍勢を飲み込もうと迫り……
「あははっ! スゴイ、スゴイ!!」
そんな声と共に一瞬で蒸発して消え去った。
発生した水蒸気が戦場を包み込む様に広がり、それも巨大なエネルギー反応と共に吹き飛ばされる。
視界が晴れて顕になるは、大海の如き魔力を迸らせるエンヴィーと、大火の如き魔力を発する赤毛の少女リリーの姿。
楽しげな笑み浮かべるリリーの姿にエンヴィーの頬が僅かに引きつり……
ドゴォォッン!!
パァッッン!!
水蒸気を吹き飛ばし、魔力を滾らせながら笑みを浮かべるヴェーダが突如として降り注いが青白い雷に呑まれ。
それと同時に乾いた銃声が鳴り響く。
一度の銃声で打ち出された弾丸は12発。
膨大な魔力で作られた暴虐の弾丸が凄まじい速度で、真っ直ぐエンヴィー達へと飛来し……
「っ!!」
誰かが驚愕に息を呑む。
真っ直ぐ飛来した弾丸は、幾重にも張り巡らされた多重結界をいとも容易く貫く。
「外したか」
ポツリと呟くのは、前方へと片手でリボルバー式の拳銃を構えるクラヴィス。
咄嗟にソシリアが全員に防御障壁を展開した事によって弾道が逸れ、弾丸はエンヴィー達の結界を貫通し遥か後方に存在する隔離結界に衝突して炸裂音が鳴り響く。
バラヴォールの雷をくらったはずのヴェーダは当然の様に無傷で姿を現し。
上空にいたエンヴィー達も地上に降りて、両者が睨み合う様に対峙する。
「ヴェーダ、リリー、散るぞ」
「オッケー」
「りょーかい!」
隙なく拳銃を構えるクラヴィスの言葉にヴェーダとリリーがお気楽な返事を返す。
「だそうだ。
あのリリーって子は僕が相手をするよ」
「えっ? もしかしてエンヴィー様……」
「ロリコンですか? 今後一切、お嬢様に近づかないで下さいませ」
「ちょっ! せっかくカッコ良くキメたのに、そう言う事言わないで!?」
シリアスな空気が張り詰める中。
シアとノアの思わぬ返事にエンヴィーが声を上げて振り返る。
しかし、既に全員が戦場の各地へと散った後であり、無人の荒野を見て沈黙が舞い降りる。
「えーっと……さて、僕達も始めるとしようか」
数瞬の間を置いて、前を向き直したエンヴィーが不敵な笑みを浮かべ……
「こっち見ないで! この変態っ!!」
「誤解だぁっ!!」
リリーにハッキリと軽蔑の視線を向けられた、エンヴィーの声が響き渡った。
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